012 黒兎対五袋のランサー

 母艦ピーターワンの格納庫へと向かうと既に自機ホワイトポーンは何時でも出撃できる状態となっていた。


 機体のシステムチェックを終えたベスタが格納庫からの去り際、俺に激を飛ばす。


「アイリス、がんばるのじゃぞ~」


 俺はその言葉に手を振って答えると、自機ホワイトポーンに乗り込んだ。


 隔壁が開き、カタパルトが伸びたら直ぐに発進する。


 黒兎、セーフティ解除を!


《了解アイリス 残り120秒》


 加速時の激しい重力で身体を震わせながら俺はレーダーを確認する。


 敵の機体は一機ではあるがだいぶ速いな、あと30秒で会敵しそうだ……


 黒兎、あの一機はもしかしたら君が倒すしかなさそうだが、出来るか?


《…………善処します》


 自信無さげに言うなよ!大丈夫、俺がサポートするから


 それに俺は黒兎にも少しは成長してもらいたいという思いもあった。


《敵機を視界モニタに捕らえました》


 相手は旧型のラスターじゃない、こっちと同じ"ブラックポーン"系列か……しかも見た所改造されている。


 ん!?あれは……


 俺は敵機の右手に持っている武器を見る。


 あれは"メートルランス"、俺が元居た世界のゲーム"ギガント・スケアクロウフォー"で登場していた武器だ。


 色々"応用が効き過ぎて"大会で使用禁止になったの武器


 相手は中隊を少数で戦うことが出来て、厄介な装備持ち……教科書通りなマニュアル操作ばかりの黒兎ではキツいかもしれないな


 などと思っていると敵機は"メートルランス"を構えてこちらに向かって突っ込んできた。


 黒兎、ビームガンで敵をけん制しながら右舷方向へ距離を取ってくれ


《了解アイリス 残り80秒》


 あのランスは近接だけじゃなくて、先端からビームを出せて、更にはつばの部分に空いた6つの穴からは散弾の様に実弾が放たれるぞ


《はい、では距離を取りつつ中距離で仕留めます》


 黒兎の操縦する自機ホワイトポーンは敵機へ向けてビームガンを放つ


 だが、やはり五袋ゴブクロの異名を持つ相手はスルリスルリと回避をすると、徐々にこちらへと距離を詰めてくる。


 まずいな……俺の予想ではもう少し詰められたら敵はランスからビームを撃つ


 そして、黒兎が避けた瞬間、鍔の散弾で偏差撃へんさうちをしてくるぞ……そのぐらいの"レベル技術"は相手に備わってると俺は感じていた。


 黒兎、相手のランスからレーザーが放たれたら直ぐに斜め後方へ回避行動をしてくれ、しかも"最適回避距離"では無くて、その3倍ぐらいの回避距離で頼む!


《了解しました アイリス》


 その直後、敵の機体のランスの先端からビームが放たれ、自機ホワイトポーンは大きく回避行動を取る。


 敵は鍔の散弾を放って来なかったが、ランスを向ける位置で、行動を読んでの偏差撃へんさうちを狙っていたことを確信した。


 こちらもビームで偏差撃ちして崩した所を近接でやるか、それとも中距離から徐々に削り詰んで行くか。


 だが黒兎の"技術"で出来るのだろうか……?


《アイリス、レーダーに2機目のG・Sを補足しました》


《敵と思われます およそ40秒後に会敵》


 おいおいマジか!


 "ランス持ち"と同レベルの相手だと厄介だな……セーフティ解除までは40秒、ギリギリ過ぎる。


 黒兎、やっぱり"ランス持ち"は君が倒さなきゃならない!


 ビーンガンを撃つときにロックオンの時間を待たずに、敵の回避距離を予測して撃つんだ。


《ですがアイリス、私にはマニュアル以外の行動をするのは無理です》


 俺に〇〇〇を付けた機転を利かせれたんだ、出来るさ


《しかし……》


 マニュアルやセーフティの壁をぶち破るんだ!それしか生き残れないぞ


《……善処してみます》


 やるしかないんだ!敵が来るぞ、回避して撃ちまくれ!


 ランス持ちも援軍に気づいたのか、積極的に距離を詰めてビームを撃って来る。


 黒兎の操縦する自機ホワイトポーンも回避を繰り返しながらビームガンを撃ち返す。


 しかし、やはりどこかぎこちない射撃だ……。


 連続した偏差撃ちで相手を釘付けにしないとこちらの勝機は無い


 対する相手のランス持ちはじっくりと距離を詰めながら切り札である"鍔の散弾"の射程距離まで追い込んでいる様だった。


 まずい状況だ、敵はこちらの回避距離のを把握しつつある。


 黒兎、相手の動きを止めないと回避後に散弾を合わせられるぞ


 いくつかのビームの応酬の後、ついに相手との距離が散弾の射程へと入ってしまった。


《やはり私の狙撃能力はマニュアルのを破ることはできませんでした》


 黒兎……


 ランス持ちはビームを1発放つと、自機ホワイトポーンの回避座標を計算した位置で鍔の散弾を発射させた。


《ですが、どうやら回避の応用であるを破ることは出来たようです》


 え!?


 自機ホワイトポーンは即座に肩、足のバーニアスラスター、そしてだった頭部に2本付けられたバーニアスラスターをフル加速にして"下舷"方面へと垂直に移動……


 そして、鍔の散弾を全て回避すると同時に敵機へとビームガンを放った――


 機動がズレやすい実弾の切り札である鍔の散弾を放つ時は動きを停止させる必要があったランス持ちは自機ホワイトポーンが撃ったビームガンをもろに直撃し、激しい閃光と爆発と共にバラバラになった。


《敵機1 撃墜》


《私の回避距離とビームを撃つタイミングを敵機に覚えさせて》


《敵が切り札鍔の散弾を使った瞬間に回避パターンをズラしました》


 自機ホワイトポーンを使ってあんな動きが出来たのか、しかし少しでも計算が狂ったら自機の頭が吹き飛ぶぞ 

 

 黒兎……


《はい、アイリス》


 やるじゃない!


《ありがとう、アイリス》


《ですが、もう1機の敵機と間もなく会敵します》


 あ、そうだったな!既にセーフモードは解除されている。


 自由になった手を準備運動のようにニギニギと開いたり閉じたりする。


 よし!次は俺の番だな、黒兎に負けないようにいい所を見せなきゃな――


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