013 五袋のチャガマ

 俺の名前は"チャガマ"


 惑星同盟軍や帝国軍にも名が知れて来たムジナ一家ファミリーの武闘派G・S乗り"五袋ゴブクロ"の1人だ。


 俺は元々テレラ惑星同盟軍の軍人だったが、G・S乗りとして武勇を上げるごとに嫌なキャリア組の上官に目を付けられて最前線送りばかりされていた。


 それに嫌気が差して軍を辞めてから仕事を転々としていたが、やはり俺はG・Sで暴れ回ることしか出来ねぇらしい


 今更軍に戻る事なんて出来ねぇからアルクトス領内で襲撃や運び屋などのを手伝うG・S乗りをやっていたら、その腕を買われてムジナ一家の専属用心棒になった。


 ムジナ一家は俺の他に4人の猛者を集めて五袋ゴブクロとかいうG.S乗りの上位組織を作って特にをやらせていた。


 結局どこへ行っても前線に送り出されるのか――


 なんて悲観しながら、今宵もムジナ一家のである小惑星に攻めて来た帝国軍中隊とドンパチしなきゃならねぇ


 敵機はG・S40機と揚陸艦3隻、対するこっちは五袋ゴブクロだけで始末しろだとよ、嫌になるぜ


 俺は無駄と分かりつつも念のため、他の4人と音声通信を繋いで連携を模索する。


「こちらチャガマ、帝国中隊がおいでなすった!お前らはどっからる気だぁ?邪魔だから俺の射線に入ってくんじゃねぇぞ!」


 ジジジジ――……


【スゥーコ】「あら、チャガマちゃん相変わらず雄々しいわねぇ、私はいつも通りネットリと敵を罠にハメて、ジュルリジュルリと頂いていくわよぉ~、オホホホホ」


 こいつは"スゥーコ"、元惑星同盟の傘下だった小国の破壊工作員、デブリ回収にも使われる粘性ワイヤーを張り巡らせて蜘蛛の様にじっくりと絡め捕られた敵機を破壊して行くオカマ野郎だ。


【シルム】「我も紅茶を一杯飲んでからゆっくりとはせ参じるとしましょう、おや?あの2人はもう勇んで敵軍に突っ込んでしまいましたな」


 こいつは"シルム"、元帝国軍の貴族(自称)だったが、降伏している惑星同盟の捕虜に無理やり一騎打ちと称した殺戮を行って追放、ムジナ一家に流れ着いたヤツだ。


 色々隠したデカいランスで姑息に敵を追い込む奴だが、¨当て勘¨が上手い


【ドックリ】「うおおおおおおお!削岩!削岩!うおっ!うおっ!うおおおん!」


 こいつは"ドックリ"、アルクトスでオリハルコン発掘の現場仕事をしていたが、作業用G・Sで同僚ごと"削岩"した事故を起こし、逮捕される前に逃走……恐怖心を持たない狂った操縦技術を買われてムジナ一家に入った。


 本来は戦艦クラスの重機に取り付ける巨大な削岩ドリルをG・Sに持たせて敵機を薙ぎ払うイカれた野郎だ。


【バンブー】「どけテメェら!俺が全員蜂の巣にしてやるぜ!ひゃあああああああはァァァァ!!!!」


 最後に"バンブー"、ムジナ一家のボスの息子で、親父から最新鋭のG・Sを買って貰って好き勝手暴れてるお坊ちゃんだ。


 まぁ実力はそれなりにあって、二丁のビームガンでの早撃ちや物怖じしないフルスロットル加速での移動が上手ぇガキだ。


 既にドックリ、バンブーは敵陣へと突撃してバチバチやってやがる。


 帝国軍の音声通信を傍受して奴らの断末魔を聞きながら狩るとするか。


 俺は愛機の"ラスター・4改"で敵陣へと突撃して行く。


 この機体は一世代古いが、十分現世代のG・Sとやり合えるし、をしてある。


 交戦区域に入り、視界モニタを見るとドックリとバンブーが暴れ回っている。


 ドックリの乗る改造された重装甲"ラスター・3"は敵機ブラックポーンのビーム放射を物ともせずに突っ込み、巨大な削岩ドリルをフル稼働させて敵機を薙ぎ払った。


【ドックリ】「削岩!削岩!俺、動くもの削る、ボス、喜ぶ、うおぉん!」


【帝国兵A】「うわっ……なんだこいつは!?ビームが効かない!?」


【帝国兵B】「装甲が厚すぎるんだ!近接で倒せ、装備をブレードに――」


【帝国兵C】「なんだあれは?槍、いやドリルだ!来るぞ……うわあぁぁぁぁ!!!!」


――――――ザザザ……――――――


 ドックリの一振りで敵機ブラックポーン3機が解体・爆破され、音声通信が途切れる……たまらねぇな死の間際の断末魔ってのは。


 次はバンブーが暴れてる区域を見る。


 ヤツが乗る機体は"ラスター・5改"、惑星同盟軍最新鋭G・Sだ。


【バンブー】「ひゃっはははは!雑魚どもは全員俺が片づけてやるぜ!」


【帝国兵D】「あいつ速いぞ!全員で弾幕を張って釘付けにしろ!」


【帝国兵E】「無理だ!すでに陣形を崩されてる!う…うわあぁぁぁ――」


【帝国兵F】「なんだあのビームガン、3連バースト!?あんな武器知らないぞ!うっ……当てられ!?あぁぁぁ!――」


 バンブーが操るラスター・5と帝国軍にもろくに情報が入っていない"ビームバーストガン"の二丁撃ちになすすべも無く撃墜される帝国の機体達


 俺もそろそろ参戦するとするか……


 俺は自機ラスター4改で敵の編隊へと突っ込む、敵機からはビームガンが放たれ、おびただしい数の閃光がこちらに向かってくるが、相手の射線をズラしながら高速で突っ切ればそうそう当たらねぇ!


 華麗に躱しながら、俺は敵機へ近づき接近戦をする。


 自機ラスター4改はG・S並に長いオリハルコンブレードを両手で持つと"脇構え"で敵機の間合いへと入る。


 そして、一気に胴斬りを放った――


 胴回りを特殊ワイヤーと特殊スプリング駆動システムで改造された自機ラスター4改から放たれた超音速の斬撃に敵機は何も出来ずに胴を分断され、爆破する。


【帝国兵G】「早すぎる!ビームじゃ当たらん、近接で仕留めるぞ!」


【帝国兵H】「俺が突っ込んで斬撃を出させる、直ぐに二撃目は出せないはずだその隙にやれぇいッ!」


 おぅおぅ豪気だねぇ、まぁ丸聞こえなんだけどなぁ!


 武器をブレードに切り替えた敵機が俺に斬りかかって来る。


 俺は自機の腰部駆動骨格スプリングを引き絞る操作をすると、突っ込んできた1機の間合いを詰めて再び胴斬りを放った。


 突っ込んできた奴をブレードごと真っ二つに切り裂くと、背後を別な1機に取られてしまう。


【帝国兵G】「取った!友の仇だ、食らえ――」


 そいつがブレードを上段に構えて俺を切り伏せようとした瞬間――


 残念でした、俺にもはあるんだよ!


 ズンッ!


 轟音と共に敵の機体の胸部にはでかい穴が開いた。


 自機ラスター4改の尻に付けられた、"オリハルコンの歯が鋸状に付いた鞭"、その名も"スコーピオン"が斬撃の後の隙を付こうとした敵機に牙を向いたのさ。


 動かなくなった敵機にケリを入れてどかすと、他の編隊にも突っ込んで同じように切り伏せ始める。


 他にも真っ暗な宇宙空間で幾つもの光の閃光が見える。


 どうやらスゥーコやシルムも参戦して帝国軍の殲滅に入ったようだった。


 傍受した音声通信から次々と帝国兵の断末魔が聞こえてくる――


………………


…………


……


 数十分後――


 音声通信から帝国軍の声は全て消え、辺りには奴らの機体だったもの残骸が漂ってるだけだ。


 はやり俺たち"五袋ゴブクロ"は無敵だ!


 惑星同盟軍だろうが帝国軍だろうがこの5人が居さえすればムジナ一家に手出し出来ねぇぜ!


 そう思っていた。



 その数日後――


 俺はいつも通りムジナ一家の領地シマで警備の為の見回り飛行を行っていると、一家の本部から通信音声が入って来た。


「どうした?」


【通信手】「チャガマ兄貴、うちの部隊の1つが潰されました、相手の位置は捕まったガキが座標を送って来たので分かりますぜ」


「つまり俺に行けって事か、相手の数は?」


【通信手】「ガキからの情報でDサイズの艦とブラックポーン型それぞれ1機だそうです、アルクトスの正規軍じゃなくて傭兵団らしいでっせ」


「おいおい、そんな木端部隊に五袋ゴブクロを出すなよ!」


【通信手】「すいやせん兄貴、数日前も傭兵団にうちの部隊が潰されてまして念のためにと、あっ!、チャガマ兄貴の他に直ぐに向かえる"シルム"兄貴にも連絡をしておきましたぜ」


「あの野郎が行ってるなら大丈夫だと思うが……まぁ一応行ってやるか」


 俺は通信手から言われた敵が居るアルクトス第一コロニー近郊へと向かった。


………………


 教えられた空域付近に到着すると既に遠くの宇宙ソラでビームの光線が交差しているのが見える。


 既にシルムと敵機がやり合ってやがるのか……あいつ、苦戦してる!?


 まぁあいつにも切り札はあるから大丈夫だろうが、一応早く行って援護してやるか。


 そう思いアクセルを踏みしめて全速力で向かい、やり合ってる2機がコクピットの小窓から肉眼で確認できる位置まで着た瞬間――


 シルムのブラックポーンにビームが直撃して爆破した。


 なにッ!?シルムがやられた!


 俺は一気に緊張を張り詰めさせ、敵は只者じゃねぇと実感した。


 "当て勘"がいいシルムからの攻撃を躱して、カウンターでビームを当てた……この白く塗られた"ブラックポーン"は一体何者なんだ!?


 敵機がこちらに向いた!、俺はオリハルコンブレードを両手持ちにして脇構えになる。


 敵はビームガンを持っている……中距離や遠距離では分が悪い、だが一向に撃ってこないのは何故だ?


 もしかして、ヤツのビームガンは既にエネルギー切れ?シルムと散々撃ち合ってるのが見えたし


 俺は自機のボディに搭載された特殊ワイヤーと腰部駆動骨格スプリングを限界まで振絞って"超速の斬撃"の体制を取る。


 すると敵の白いブラックポーンは手に持ったビームガンを手から放した。


 やはり弾切れ!ブラフでもいいから持っとけば良かったものを、真っ二つにしてやるぜ!


 俺は一気にヤツの間合いを詰めると、敵機の胴目がけて"超速の斬撃"を放った――


 ガキン!


「なっ!?」


 俺は改造された自機の放つ"超速の斬撃"には自信を持っていた。


 実際、惑星同盟軍や帝国軍のどんなヤツでもこの斬撃を受けたら真っ二つになってくたばった……。


 だがこいつは……この白いブラックポーンは、まるで片手ではじいて軌道をずらしただとッ!?


 いやいや!……あり得ん!あり得ねぇぇぇぇぇ!!!!


 高速で振られたブレードの刃横を、衝撃インパクトを逃がしながら流し受けパリィするなんて……最早操縦のレベルじゃねぇ


 肉体が行う"武術"のレベルだ!しかも漫画コミックの世界でしか見たことねぇような!


 ぐ、偶然だ……偶然に決まってる。


 お、落ち着け、俺にはまだ切り札の尻尾……"スコーピオン"が残ってる!


 冷や汗をかきながらそう思って居ると、目の前の敵機から音声通信信号がこちらに届く、俺は一呼吸入れると通信を繋いだ。


【ゲストA】『えっと……聞こえますか?あ~、聞こえますか?』


 お、女の声!?、しかもガキの様な声だ。


【ゲストA】『そっちは1機ですし、こっちは後方には戦艦が控えてます、降伏してください……そうすれば命は取りません』


 なにィ!?


 俺の焦りの感情を怒りの感情が上回った。


 やはり"超速の斬撃"を流し受けパリィしたのは偶然だ!


 シルムを倒したのも何か小細工をしたに決まってる……こんな女のガキにやられる分けがねぇ!


 俺は再びワイヤーとスプリングを限界まで絞って斬撃の態勢を取る。


 敵機は棒立ち、例え再びの偶然で斬撃を防げたとしても二の太刀である"スコーピオン"で確実に仕留めてやる!


【ゲストA】『降伏しないんですか?近接戦だけじゃきついですよ?』


 うるせぇ!食らえッ!


 奴に体当たりするぐらいの勢いで一気に間合いを詰めると、ボディ目がけ思い切り"超速の斬撃"を放つ――が


 敵機は腰からの上体を反って斬撃をスレスレで回避するとブレードを振った自機の手の甲を掴み極技サブミッションみたいに固定すると


 そのまま俺が振り切った斬撃を利用して自機の両足を切断した――


 こ、こいつ、とんでもねぇ化物ッ!


 自機の両足がぶった斬られる時の轟音と振動がコクピットを揺らす。


 力の乗った状態で無茶な方向に両手の動きを流されたから、自機の両椀部位もほぼ捻じ切れていてダラリとしている。


 まだだ!俺にはケツの"スコーピオン"がある、食らいやがれッ!


 自機はありったけのバーニアをフル稼働させて反転すると、腰部に隠してあったオリハルコンの伸縮ブレード"スコーピオン"を敵機目がけて突き刺した。


 ガキ――ン!


 激しい揺れとこの金属音!手ごたえあった!


 俺はモニタ画面で敵機の状態を確かめる。


【ゲストA】『降参は……しないのですね……』


 画面には無傷の敵機……、そしてそいつの右手にはオリハルコンナイフ、その左手には切断された"スコーピオン"の残骸――


 う、うあ゛あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 俺は恐怖で体中から溢れる脂汗と35歳にもなって少しだけチビった事実を受け入れる前に、動物に備わる本能的回避行動のような速度で音声通信を繋ぐと、俺に残された渾身の力でこう答えた。


「 降参しますうぅぅぅぅぅぅぅ!!!! 」


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