詩「記録しておく」

 これも記録しておこう

 豆が、ならないんだ


 僕らの地域では、黒豆を作っている

 その豆が、ならなくなっている

 隣の人たちのうちには

 できた豆の木を刈り払って、焼いてしまった人も出ている


 親父と、お袋と、俺とで、豆の枝を払う

 少しでも栄養が、豆の実にいくように

 だが、驚くほど実がなっていない


 夏場には畝間灌水したのに

 草も刈ったのに

 消毒もしたのに


 昨日は府の職員さんが調査に回っていた

 昨年も出来が悪かった

 親父は

「去年よりいい」

 そう強がりを言っているが、どう見ても去年より悪い


 親父は足を痛めている

 最近はあちこちに痛みを抱えているようだ

 それを無理して豆畑に出る


 なあ、親父さんよ

 もうやめようや、他にも地域の仕事を抱えてるやん

 そう言いたい気持ちを抑え、俺も豆畑に出る


 お金じゃないんだ

 親父は、正月に炊いて

 キラキラと輝く

 黒いダイヤのような黒豆を

 待っていてくれる人のために

 待つ人の笑顔のために

 曇天の下、黙々と葉と枝をむしっている


 なあ、親父

 もうやめようや、無理せんといてくれ

 息子はバカだけどよう、親父の体のことは心配なんや


 豆の実は、低いところにわずかになっているばかり

 できているのも、カメムシに栄養を吸われてる

 茶色くなったり、穴が空いている

 夏の暑さにやられた、受粉に失敗した、理由はいろいろあるだろう

 今年は、大根も、白菜も、暑さ、温さで、出来が悪いと聞く


 頑固な親父のことだ

 必ずやる、やり抜く、そのつもりだろう

 それが親父の強さだし、親父さんが成功した理由だろう


 だけどさ

 時にはさ

 俺みたいに逃げ出してばかりではあかんけどさ

 体を大事にして、豆作業止めようや


 そういいたい気持ちを抑えて

 今日も豆畑で働いている


 そういう気持ち

 無駄だけどさ

 書いて、残しておく

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