第二章 本編

第3話 分岐点

 悲劇の合唱コンから半年が過ぎ、歌純かすみは高校に進学していた。



 「おばあちゃん、おはよう。何か最近、調子悪そうな気がするけど、体調は大丈夫かな?」


 

 「まずまずな感じだねぇ。だから歌純は、おばあちゃんの事は気にせず、元気に学校に行くんだよ!」



 「は〜い、それじゃあ行ってきます。」


 

 「いってらっしゃい。」


   

       "パタン"


 (歌純には言わなかったけど、ここ最近、

ずっと胸の辺りに違和感があるのよねぇ。

痛みは無いけれど、触れてみると、感触がおかしい様な...


 もし、病気が見つかって、入院する事になったりしたら、歌純に迷惑がかかるよねぇ。


 でも、じいちゃんの様に、いきなり居なくなるよりはいいはずよ。


 今日、病院へ行ってこようかね!)


       

       ◆◇◆◇◆



一方その頃、学校では...



 (はぁ〜、高校の授業って進度も早いし、内容も難しいから、気が抜けないね。


 でも、何故か今朝のおばあちゃんの様子が気になって、授業に集中出来ないよ。


 早く放課後になって、元気なおばあちゃんに会いたいな...)




放課後


 「えっ、どうしよう?傘を持ってないのに、今にも雨が降り出しそう。


 とりあえず、急いで帰った方が...」


 

   " ブーッ ブーッ ブーッ"



 (急いでいるのに、タイミングが悪いよ!知らない番号だから、出なくても大丈夫だよね?


 でも、何だか嫌な予感がするから、一応出ようかな。)



 「もしもし〜。あっ、おばあちゃん!どうしたの?」


     

  「歌純、実はーーー」


 

 歌純の予感は、悪い形で的中する事となった。受け入れがたい現実が、そこにはあった。


     

    "ザーッ  ザーッ"


 (やばい、雨が土砂降りになって来たよ。でも、今はそんな事より、急がないと...。)



 歌純は、雨の中走り続けた。びしょ濡れの体で、駆け込む様に電車に乗り、また走って...とうとう、目的地の病院へ到着した。


  

      ◇◆◇◆◇◆◇



 「おばあちゃん!やっと、見つけた...」



 「学校の時間帯に電話をかけてしまって、

悪かったねぇ。でも...お医者さんがーーー


 【同居している人と一緒に話を聞いて下さい。例え未成年でも、関係がある事なので。】


 ーーーなんて言うから、電話せざるを得なかったのよ。」


 

 「やっぱり、電話で軽く話は聞いたけど、良くない事...だよね?」



 「そうだねぇ。今から詳しく話を聞く事になるけれど、その前に...」


       

        "フワッ"


 「体を拭いてきなよ、風邪をひかない様にね。」


 

     「うん...ありがとう。」



 

 (本当は私よりも、お父さんが同席した方が良いはずだけど、直ぐには帰れない地域に出張に行ったみたいだし...私だけで大丈夫なのか、不安だよ。)



診察室にて



 「え〜、噛み砕いて話しますと、遠坂律子とおさかりつこさん、貴女は、乳がんに罹患りかんしています。 


 それも、初期段階では無く、ある程度進行している様ですね。」



 「あのっ、つまりおばあちゃんは、入院して、治療をする必要があると言う事ですか?」



 「はい、約二週間後に入院をして頂いて、薬物療法での治療を行い、その効果に応じて、手術等もご検討して頂きたいと考えています。


 ただ、遠坂さんは60代という事もあり、ご年齢を考慮すると、手術は負担が大きいかと...」



       ◇◆◇◆◇◆◇



 「入院、ちょうど二週間後に決まったね。やっぱり何ヶ月か入院するとなると、心配だよ...


 だから、その...お見舞い、沢山行くから、待っててね。」



       「......」



 「おばあちゃん、どうしたの?」



 (歌純の父の慎二しんじさんも、たまに帰って来て、顔を出すとは言っていたけれど、高校生になりたての子に、こんなにも苦労をかける事になるなんてねぇ。


 自分のことが少し、嫌いになりそうだよ。)



 「数ヶ月、苦労をかける事になって申し訳ないねぇ。


 おばあちゃん、出来るだけ早く元気になるから、それまで待っててね。」


 

「あっ、うん...」


 

 (いつも明るい、あのおばあちゃんが落ち込んでいるなんて、珍しいかも。


 どうしよう?今までは、私がおばあちゃんに励まされる側だったから、立場が逆になった時、どうすれば良いか分からないよ。


 そもそも、私がおばあちゃんの為に出来る事って、何があるのかな?)



 二週間後、ついに祖母は入院する事となり...その日の高校の休み時間、歌純は思い悩んでいるのだった。



 (はぁ〜、結局何も出来ないまま、おばあちゃんの入院生活が始まったよ。


 お見舞いは、定期的に行くとして、それ以外は本当に何も、思い浮かばないの。


 考え過ぎで、思考がまとまらないし、とりあえず気晴らしに、音楽を聴こうかな。)


      "♪〜 ♬〜"


 (相変わらず、Mion《みおん》の歌声は、心に響くね。お陰で元気が出て...)


 「あっ、これよ!」


 (おばあちゃんは、私の歌声を好きだと言ってくれたから、つまり、私の歌声を聞くと...おばあちゃんは喜ぶのかな?


 でも、合唱コンの時、クラスの皆から私の歌が嫌がられていたから、おばあちゃんが気を遣って励ましてくれていただけかもしれないし...自信が持てないよ。)


 

 「はぁ〜私もMionと同じ位歌が上手かったら、自分に自信が持てたのに...」



 「えっ、今、Mionって言ったよね?ねっ?

はぁっ〜、嬉しいなぁ。同志みっけ!」



 「えっと、貴女は確か...」



 「明瀬望音あきせもねだよ〜。よろしくねっ、歌純っち!」



                  続く



 



 


 






 

 


    


 


 





 






 



 


 



 




 









 

 

 







 



  





 


 


 


 


 









 



 

 



 

 

 


 


 

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