第3話

体中傷だらけの少女は暗い檻の中で目を覚ました

兵士にぶたれた頬や足や腕の切り傷はまだ痛む。

拷問が始まって実に5日が経過していた。

何故自分がこんな仕打ちを受けているのか少女は再確認する。

リンド・クレアはごく一般的な家庭で育った少女だった。

特出すべき点を挙げるなら祖父に、RAを世界で初めて開発した偉大な科学者ガフヌス・クレアを持つことだった。

リンドは、いつも工房に籠って研究に熱心な祖父が好きだった。

いつか自分も科学者の道に進みたいと思うようになり、祖父に研究の手伝いをさせてくれるように頼むと祖父は嫌な顔一つせず、了承してくれた。

気が付けばロボット工学の基礎から応用まで、リンドは祖父が知りうる技術のほとんどを継承していた。

そして祖父なき今、代わりとして地球連合に目をつけられてしまう。

依頼されたのは新型RAの設計であり、祖父が研究していた新型インターフェイスのデータを持っていたが、争い事を嫌う彼女はそれを拒んだ。

元々、RAは戦争ではなく都市開発の工事の為に祖父が設計した。

それを人殺しの為に使って欲しくないというのが彼女の想いであった。

しかし、中々降伏しない火星を本格的に占領する為に戦力を欲していた地球連合は彼女の都合など考慮していられない。

そこで、リンドは捕らえられ、協力を了承するまで様々な責め苦を味わう事になる。

兵士に殴られ、鞭で打たれ、淫靡な手付きで体を触られた。

もはや逃げる術などなく、少女は虚ろな目で鉄格子の向こうで生産されているRAを見つめていた。



「どっちが先に仕掛ける?」

ドイツ軍備工場から約400m離れた地点でヤナギは通信で隣の機体に搭乗している少年に尋ねた。

「俺だ。お前は後方支援を頼む。」

即答する。

中~遠距離武器しか持たないラーディヤよりも近接戦闘に秀でたモルドレッドの方が奇襲にむいているとジンは判断した。

さらに、地球降下時に捨ててしまったビームランチャーの代わりにゴルトから託されたビームマシンガンがモルドレッドにはあった。

ビームランチャーには一撃の威力では劣るものの、連射性能に優れ、燃費も良く、近距離戦において真価を発揮するであろう。

そんな事を考えながらヤナギからの返答を待っていると早速返ってきた。

「わかった。オメーは前衛で暴れてこい。」

ヤナギがそう言い放った途端、モルドレッドは高速で工場の方角へ消えてしまった。

「あの野郎!せめてもう少し速度落とせよ。」

慌てて操縦レバーを前方に倒し、先に行ってしまった少年の後を追う。

工場に到着すると、モルドレッドが勇ましく戦っているのが見えた。

傍には敵機の残骸が二つほど転がっている。

まったく、仕事が早いにも程がある。

「俺も始めるか。」

操縦レバーを握り、射撃ボタンを押せばラーディヤのビームボウが敵3機の頭部を正確に射貫く。

そこへモルドレッドが反逆の宝剣を振るうとたちまち敵機は爆散していった。

自分が引き立て役の様な立場で癪だったが、愛機の武装の特性を理解していないヤナギではなかったのでここは我慢して、次の標的に照準を合わせに掛かった。

ジンは少しばかり感心した。

ヤナギのような自信過剰な人間に限って、実力が無いという偏見を彼は持っていたが、ヤナギは違った。

射撃技術だけならジンを大きく上回っているだろう。

3機の頭部をほぼ同時に撃ち抜くなどジンにはできない。

なるほど、この少年も自身同様にレギオンパイロットとしての素養を持ち、なるべくしてパイロットになったのだという推測をしつつ、片手間に敵を処理する。

自分が流れ作業の様に人を殺す事に背徳感を覚えたが、仕方ないと割り切って敵を殲滅してゆく。

残る敵機はエアランナー3機のみ。

空中を飛び回り翻弄してくる。

だが、その程度に惑わされるジンではない。

反逆の宝剣を投擲すると、1機の腹部に赤熱化した刀身が深く突き刺さった。

それを即座に抜き取り、連携が乱れた2機に叩き込んだ。

激しい爆発音が響く中、通信が入る。

「工場はなるべく破壊せずに占拠しろって言われてる。まだ中に人がいるなら全員殺して基地の物資を奪う。」

「了解」

モルドレッドをしゃがませてコックピットを開き、外に出る。

愛用の拳銃であるデザートイーグルを取り出して両手に構えると、基地の裏口へ突撃する。

扉を蹴とばすと何人かの兵士がこちらに気が付き、驚愕の表情を並べた。

ジンは構わず引き金を引くとガクンと撃鉄の落ちた感触がして、そのまま4発、弾丸が発射される。

弾丸はそれぞれ敵の喉笛、鳩尾、脳天を穿ち、辺りには深紅の液体が飛び散っていた。

今の銃声で兵士が集まって来るが、臆することなく撃ち続ける。

しばらくすると工場は静かになった。

「殺してくれ。」

死体の山の中から声が聞こえた。

傍へ寄ると、腹部を両手で抑えて苦痛に藻掻いている若い兵士がいた。

全員急所を狙ったつもりだったが。

「苦しめてすまない。今楽にしてやる。」

自身の過ちを悔みながら頭部へ狙いを定めて引き金を引く。

鈍い音が響いて足元へ激しい血飛沫が飛んだ。

RA越しに殺すよりもこうして実際に顔を見て殺す方が心にくる。

「……」

無言のままヤナギが工場内へ遅れて入って来る。

さすがの彼もこの惨状を目の当たりにしてはいつもの陽気さを失っていた。

隠れて生き残っている兵士がいないか工場内を探索すると奥に人の気配がある。

警戒しながら遮蔽物に沿って奥を覗くとそこには、鉄格子を掴み、恐怖の表情でこちらを見つめる銀色の髪をした少女がいた。


























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