第2話

ヤナギ・レイは綺麗事が嫌いだった。

人が命を懸ける戦場においては特に。

自分が今まで経験してきた作品は殆どが死を美化しているものばかりで、死を直接的に表現している作品は稀有だった。

どれもこれも死をオブラートに包むばかりで現実を見ていない。

例えば、愛する者の為に命を賭す男の物語をヤナギは見たことがある。

その作品を見た者は口を揃えて、儚さや切なさに感動したと宣う。

彼はそれが理解できなかった。

人間は自分の命を最優先に考えて生きているはず。

他人の為に自らを犠牲にする行為は所詮偽善だ。

ヤナギはこの考えが異端である事を理解していた。

しかし、捨てることも出来なかった。

自分が正しいのか世間が正しいのかそれを確かめる為に戦場の最前線に赴きたいと思い、レギオンのパイロット選別試験を受けて最終試練を見事制した。

そうして、今彼は地球連合ポーランド基地を破壊している。

自慢のレギオンを意のままに操縦し、敵機を次々に撃破していく。

ラーディヤレギオン 黄金に輝く装甲を纏うヤナギの専用機だ。

主武装のビームボウを連射して的確に敵機を処理してゆく。

「オラオラー 避けないと死んじまうぜ。」

乱暴に、だが正確に一機ずつ射貫く。

基地を守っていた大量のRAも大分減った。

残りはクラリス3機と飛行用RAエアランナー2機だけだ。

5機ともこちらに銃口を向けている。

だが、ラーディヤは構わず敵機へ突っ込んでゆく。

次の瞬間、大量の鉛玉がラーディヤを襲ったが、機体には傷一つ付いていなかった。

黄金の鎧ブレススーリヤ かつてインドの英雄が父である太陽神からさずかったと言われているそれをモチーフにした装甲であり、実弾や実剣は愚か半端なビーム兵器では傷つくことのない金色の甲冑。

敵は呆気にとられたのか立ち尽くしていた。

そこへ最大火力のビームボウを放射するとたちまち敵は全滅してしまった。

「こんな事に儚さを感じるわけねーだろ。」

人を殺す事に迷いはなくなったが、殺した後の喪失感には毎度苦しめられていた。

通信ボタンを押し、拠点であるドイツ補給基地にポーランド基地の制圧を報告する。

「こちらヤナギ、地球連合ポーランド基地を占拠した。」

面倒そうな様子でモニター越しの若い男性に話しかける。

外見年齢は20代後半ぐらいだろうか、男性は活力のある声で少年に返した。

「よくやったねヤナギ、次はドイツ北西にある軍備工場を襲撃してもらうから一旦こっちへ帰っておいで。それと、君の仲間がもうすぐここへ到着するみたいだよ。」

「ふーん」

男性とは対照的に活力のない声で返事をする。

ヤナギは男性の話に対して心底興味が無かった。

いや、話の全てに興味がないと言えば語弊があるかもしれない。

彼は作戦の内容についてはきちんと把握しておくつもりだった。

問題はその後の内容だ。

仲間などいらない、自分一人で地球政府に降伏させるてみせると決意するほど自分と愛機であるラーディヤに自信があり、最強のパイロットである自負もあった。

しかし、地球政府を降伏させるには悔しいが自機だけでは戦力不足なのだということを思い知らされたのも事実。

ならば、地球にもうすぐ降りてくるというレギオンパイロットの技術がいかほどか見定めてやるのも悪くはないと、心の中で思った。



「まもなく、ドイツ補給基地に到着致します。」

シャトルにガイドの音声が流れる。

外を見ると巨大な滝の激流が目に入った。

すかさず通信ボタンを押して事前にナハト爺から教えられていた暗号を送信する。

すると、滝が真っ二つに割れて中から鉄の扉が現れる。

珍妙な仕掛けだが、地球で行動する以上はこの様に隠蔽された拠点の方が都合が良い。

「こちらモルドレッド、火星基地より降下してきた。開錠してくれ。」

しばらく沈黙が続くと、鉄の扉は鈍い音を立てて開く。

扉の向こうには輸送機やRAの格納庫が広がっていた。

シャトルを適当な場所に着陸させてジンはシャトルを降り、宇宙用防護服のヘルメットを外す。

「やあ、君がレギオンのパイロットだよね?長旅ご苦労様。」

どうやら、ご丁寧に出迎えが来てくれていたらしい。

初対面の男は早くも自己紹介を始める。

「僕はゴルト・マウス博士だ。宜しく頼む。君の名前は?」

「……ジン・マヒロだ。」

男性に対して何の興味も抱かないような機械的な返事を返す。

けれどゴルト博士は気にする事無く話を続ける。

「まずは少し休んでいくと良い。お腹空いてるだろう?何か腹に入れておけ。任務の話はそれからだ。」

「いや、休む必要はない。腹も減っていない。直ぐに次の任務を開始する。」

男性の提案をキッパリと断り、任務の説明を催促した。

すると、ゴルト博士はたいして驚く様子も見せずに首を縦に振ると、少年にドイツ軍備工場の資料を手渡す。

ジンの様な任務一筋の人間など戦場では珍しくはなく、ゴルト博士はそういった傾向の人への接し方を心得ていた。

「君には別のレギオンパイロットと協力して、工場を強襲してもらう。敵の数は大体20機ぐらいだね。」

「……共同作戦か」

ジンは内心不安だった。

自分にコミュニケーション能力が足りない事を自覚していた為に、そのパイロットとやらと上手く関係を築いていけるか心配していたところ、ちょうどラーディヤレギオンが任務から帰還してきた。

天井がスライドして穴が開き、金色に輝く機体がゆっくりと降下してきた。

眩しさに思わず目を細める。

コックピットが開き、中から整った顔立ちの少年が現れると、コックピットのある胸部から足元までするりと滑り降りてくる。

そして、一目散にこちらへ駆け寄って来るなり口を開く。

「よう! もう知ってると思うけど俺の名前はヤナギ・レイだ。任務で足引っ張るんじゃねぇぞ。」

「……」

挑発的な発言をされたにも拘わらず、沈黙を突き通す自分と同年代であろう少年にヤナギはがっかりする。

もう少し張り合いがあった方が面白かったと、内心思う。

しかし、重要なのは性格ではなく操縦技術だ。

レギオンパイロットとして選ばれたからにはそれなりの技量があるはず。

ならば早速、実力を確かめる為に任務を開始したいと思い、少年に尋ねる。

「任務の準備は出来てんのか?あと俺が名乗ったんだからお前も名前を教えろ。」

すると少年は不愛想に応えた。

「準備は出来ている。……ジン・マヒロだ。」

「よし!なら直ぐにでも工場を壊滅させてやろうじゃねぇか。」

確認が取れたので二人はすぐさま自機に乗り込む。

またもや天井がスライドして青い空が見えた。

2機は取り付けられた小型ながら大出力のバックパックで地上へ出ると、工場を目指して前進してゆくのだった。




















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