第585話 旧学部棟に眠る赤いハンドル

「ここですか?」

「旧機械実習棟ですよね?ここはほとんど来たことないですね」

「え?そうなの?変わってしまったねぇー」

「私たちの学生時代はここが新設備だったんだよー」


宇佐君と別府君、ゆりを連れて来たのは中庭からちょっと外れた学科棟。

学科棟と言うよりは工場だけどね。

俺たちがいた頃は『整備棟』って言ってたかなー。

機械科の実習を行う場所でCADや3Dプリンターも置いてある最新設備が揃う場所だったんだよねー。

別府君が機械科だそうで、今は新しく出来た学科棟で実習してるからここはほとんど使ってないってさ。

時代の流れですねー。


「さてさて、雲母丸はこの辺に置いてあったはず……あ、コレコレ!」

「へ?ハンドル?」

「こんなハンドルあったんですか?そういえば噂で少し……」


1階の作業場の奥、機材搬出用入口にひっそりと隠されているのはハンドル。

直径50cmぐらいかな?赤いハンドルはよく言うバルブを開閉するようなやつだね。

この見た目がいいって言ってたんだよなーアイツ。


俺も好き。


「このハンドルって素材なんですか?なんか身体の力が抜けたような?」

「あれ?宇佐も?俺もさっきから身体が重くなって……」

「あーそれはこのハンドルが魔力吸収石で出来てるからだよ」

「「魔力吸収石!?」」


魔力吸収石―ドレインストーン―はダンジョンで稀に手に入る特殊な石。

魔力を込めると硬くなる特殊な素材で、逆に魔力がないと軽石のようにボロボロと崩れて砂になる。

砂になると魔力吸収力が格段に落ちるから性能を維持して加工するのが難しいんだよね。

このハンドルはほぼ100%魔力吸収石で出来ている。

なので魔力変換もスムーズに出来るし、雲母丸に魔力を伝えるのも楽になる。

もちろん加工したのはデウス・エクス・マキナです。

無駄に徹夜して加工してたなー。


「ま、とりあえず見てみるか。宇佐君、別府君。後ろに下がってて」

「は、はい!」

「な、何するんですか?!」


まぁまぁ見てて。

俺は魔力を手のひらに集めてハンドルを回した。

ハンドルを掴むとグイッと引っ張られる感覚が襲ってくる。

懐かしい感覚ですねー、学生時代ぶりだね。




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