B―3 左

 どこを通っても、家には着くけれど――。

 確か、今日のラッキー方位は南西。

 南西というと、左の道だな。

 よし、左に決まり。

 まだ弱い雨の中を、私は走り続け――

「きゃあ!」

 道の舗装ほそうわずかに凸凹でこぼこしている所につまずき、大転倒だいてんとう

「いっ、たあ……!」

 確認せずとも、両膝りょうひざを思い切りいたことが分かる。

 今日のラッキーアイテムは膝上丈ひざうえたけのスカートだったから、寒いのを我慢がまんして、職場で恥ずかしいのも我慢して、いてきたのだ。

 それに、運気を上げるには、お気に入りのものでないといけないから、お気に入りの、桜色のスカートにしたのに――。

 体の前の所にしみてくる、冷たい感覚。

 あぁ、そうだった。

 左の道には、少しの雨でも、すぐに大きな水たまりができる場所があったんだ。

 それが、ここ。

 ブランコのある公園の前。

 今日のラッキースポットは、ブランコのある公園なのに。

 もう、最悪だ……。

 びちゃ……。

 手のひらも、冷たい雨水あまみずかっている。

「あぁ……!」

 チーズカレーまんの袋に、雨水がじゃぶじゃぶと流れ込んでいる。

 あれっ……。

 おなかの下の違和感いわかんに、慌てて体を起こして見ると、白いビニール袋の中で、緑の液体と茶色のクリームが、ぐしゃりと混ざっている。

「もう……!」

 もう間に合うはずもないが、急いで立ち上がり、二つの袋を水たまりから引き上げる。

 白っぽくにごった雨水が、むなしく、ビニール袋の下からしたたり落ちている。

 今日のラッキーパーソンはオレンジ色の服を着た男性、ラッキーショップはいつも行っているコンビニ、ラッキーアクションはキャッシュレス決済。そして最後に、いつも通り、頑張った自分へのご褒美を忘れずにって言ってたのに。

 やっぱり、テレビのうらないなんてダメだ。

 自分へのご褒美は今後一切やめて、ちゃんとした占いに投資しよう。



          END6 落ちてゆくばかり

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