B―2 真ん中
どこからでも家には帰れるけれど、真ん中の道にしよう。
なぜなら、真ん中の道が、一番静かで、一番穏やかで、一番平和だから。
まあ、なんとなく、なんだけど。
走っているうちに、雨は弱まり、すぐに
あ、良かった。
私は、のんびりが好き。
ここからは、ゆっくり歩いて帰ろう。
はあ……。
私、今日、頑張ったな。
何をって、友達と、カラオケに行ったこと。
女子高生っていうのは、友達とのカラオケが楽しいものだと思ったんだけど。
全然だったな。
誰かが歌っていても、手拍子すらできないし、何歌うって
歌は、大好きなんだよ。
今みたいにひとりだったら、たくさん歌えるのに。
あなたは あなたで
いればいいなんて
あなたのことばを もらうには
あなたのゆるしが いるのです
ほら、ね。
歌えた。
しかも、自分で作っちゃった。
それに。
今みたいにひとりだったら、おやつが
もぐ。
ほら、ね。
おいしい。
それに。
今みたいにひとりだったら、楽しく遊べるのに。
白い線の上、落ちないように歩いて、水たまりを、ぴょん、っと。
ほら、ね。
楽しい。
……まあ、ちょっとだけ、
でもね。
人と一緒にいると、もっと苦しいから。
いいの。
これで。
そういえば。
あの店員さんも、ちょっと人が苦手そうな感じがするな。
でも、接客のお仕事をしているなんて、
人が苦手だったけれど、接客の仕事に
彼は彼なりに、
でも私には、絶対に
なんかさ。
お父さんも、お母さんも、先生も、もっと人とコミュニケーションを取りなさいって言うよね。
やってみたよ。
苦しいだけだったよ。
だから、いいじゃない。ひとりでも。
店員さんに、ありがとうございますって言える。それだけでいいじゃない。
ひとりでこうしていないと、私は歌を作れないの。
……でも。
私は、こんな思いすら誰にも言えずに、無理やり、人の中に入れられ続けるんだろうな。
嫌だな。
みんなが認めてくれるような性格を持って、生まれたかったな。
そうしたら、楽だったのに。
私は一生、苦しいんだろうな。
それなら、いっそ――
みゃ。
何!?
私は
何も、いない……?
……いた。
茶色い
猫さんは私の足元から見上げて、ごはんをねだっているらしい。
「いい匂い、した?」
みゃあぁ。
猫さんは、私の食べているチーズカレーまんを、恨めしそうに見ている。
「だめだよ。これは、しょっぱくておいしくないよ」
そう言って私は、残り一口だったチーズカレーまんを、口に放り込む。
ん、おいし。
「ごめんね」
そう言うと、猫さんは諦めて背を向け、すたすたと歩き去る。
猫は、いいなあ。
好きなように過ごしていても、誰にも何も言われない。
でも、猫になりたくはないかなあ。
それに、歌が作れないもん。
……やっぱり、人間で良かったかも。
歌いながら、ゆっくり歩いて帰って、お父さんとお母さんのお小言には、ちょっと耳を
そうしよう。
ゆるされなくても
ほどほどに いきている
わたしは ひとり
いつか わたしがひとりでつくったうたを
あなたはきいて くれないでしょう
END5 ひとりのシンガーソングライター
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