A―3 BL小説

 今読んでいるのは、所謂いわゆる、BL小説。

 キャラクターもストーリも、とても魅力的で、作者の方が一番、二人を愛しているのだなと思えるようなお話です。

 小説を読みながら、作者の方がどう思っているかなんて考えるのは、私だけでしょうかね。

 二十六にもなった独身会社員男が、コンビニで沢山たくさんおやつを買って、店先で雨宿あまやどりをしながらBL小説を読んでいるなんて、変ですかね。

 着ているものは普通のスーツなのに、本にはかわいい桜柄の栞に、お花の刺繍ししゅうのブックカバーだなんて、気持ち悪いですかね。

 そしてまた、変だと思いますが、私は、この小説の中の二人のように、男のひとが好きですよ。

 太い声に、力強い身体からだ

 それに、ぎゅってされたら、安心して、すぐに眠くなっちゃいそうではないですか。

 なっちゃいそうではない。

 そうですか。

 でも私は、女のひとも好きですよ。

 柔らかくて、守ってあげたくなるけれど、ぼくなんかより、何万倍も強い心を持っていたりするんです。

 とっても、素敵だと思います。

 ……やっぱり、変ですかね。

 よく、言われますよ。

 オカマなら、オカマらしくしろって。

 オカマらしくって、何でしょう。

 まあ、私だって、私が何なのかは分かりませんよ。

 でも、とにかく私は、男の体に生まれて、BL小説が好きで、コンビニのおやつが好きで、男のひとが好きで、女のひとも好きで、服は男物が好きで、小物は可愛かわいらしいのが好きなんです。

 あ、そうですか?

 私は、強く見えますか?

 いえ、そんなことは無いのですよ。

 なぜかって。

 これもまた変でしょうけれど、私は今、コンビニ店員の彼に恋をしています。

 ……あれ、これは、よくある話ですか。

 そうですか。

 好きになったきっかけは、分かりません。

 気付けば、恋に落ちていました。

 長めの髪に隠した、綺麗な顔。

 色んな髪型が似合いそうなのに、勿体もったいないなあって思います。

 私が、美容院を予約して、一緒に行ってあげるよ、なんて。

 言ってみたいんですけどね。

 できません。

 私は、強くないので。

 彼、おつりを渡す時に、そっと手を握ってくるんです。

 ……気のせいだとは思うのですが。

 それだけで顔が真っ赤になってしまうくらい、私は弱いんです。

 だから私は今日も、キャッシュレスで支払いをしてしまいました。

 彼は、嫌われた、と思っているでしょうか。

 いえ、そんな訳がありませんよね。

 彼には、私の手なんか、握っているつもりは無かったのですから。

 あぁ。

 彼が、今にもそこの扉から出てきて、何を読んでいるんですか、なんて言って、僕はちょっと恥ずかしがりながら、男性同士の恋愛のお話です、なんて言って……。

 私はひとり、そんな妄想もうそうをしているだけ――

 ぱらぽらぴろりん。

「らしゃせぇー」

 彼が自動ドアから出てきて、扉の前に、くつの裏を拭くマットをばさっと置き、そして、店の中へ引っ込んでいった。

 ほら、ね。

 私は息を止めているだけで、彼をまともに見ることすらできませんでした。

 叶いもしない夢に時間を使うのは、無駄むだなことでしょうか。

 私には、そんな難しいことは分かりません。

 雨が、強くなってきました。

 気配けはいはありません。

 これなら、もう少しここにいたって、れて帰るのは同じです。

 もう少し、彼の近くにいたって――。

 ……とりあえず、おやつを食べましょうか。

 モンブランは明日あす、おうちで紅茶をれて、ゆっくり食べましょう。

 だから、抹茶ラテと、チーズカレーまんを、いただきます、っと……?

 チーズカレーまんの包み紙の、オレンジ色のテープの横に、黒い汚れのようなものが……。

 紙の繊維せんいでしょうか。

 いや……。

 文字、です。

 ボールペンで書かれた、小さな、横並びの文字――というか、数字です。

 十一けたの、数字です。



          END3 電話番号

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