第17話 姉の忠告

 翌日、姉に電話した。

「式のことなんだけど……」

「この結婚はやめた方がいいよ」

 話を切り出した途端に、バッサリ言われた。

「だって一度も新居に来たことないんでしょう?」

「いや、引っ越してすぐは何回か来たけど。先週もちょっと来たし……」

 そう事実を話したが、姉が言っていることは「一度も(泊まりに)来たことがないんだろう?」だと気づいた。12月30日の言動が同じでもこの事実の有無では意味合いが全く違う。その時まで一度も泊まらず、新婚初夜は実家に帰り、その後も同居しないなら、結婚など話にならない。ウェディングドレスでカラオケを歌うのが結婚ではなく、新しい家族を作るのが結婚だからだ。


「もし式を挙げてしまって、その後別れるとしたら、本当にふさわしい人に出会った場合に、もう一回結婚式を挙げるなんてできないよ。その人のためにならないよ」

「そんな人いるかな」

「いるよ!」

 彼女氏に裏切られ続けていた自分にとって、本当に、これを断ったらもう二度と女性と親しくなれないと不安だった。しかし、これは姉の方が正しいと後々分かった。


「それに、無理に結婚しても、あんたは絶対、他に女作って家を出ちゃうよ」

「いやさすがに、それはないと思う」


 このやりとりは、言われたときは「?」と思った。

 後で理解できたが、「女作って家を出る」は、自分を傷付けないための姉なりに気を使った言葉だったようだ。

 「あの女はきっと、男を作って家を出てしまう」が多分本心だ。いやもっと率直に、「あの女は誰かと浮気している。最悪、誰の子か分からない子供を残していなくなる」と言いたかったのかもしれない。

 この時、そんなことを率直に言われたら、多分自分の心はごっそり削られたと思う。プライドが傷つき、「そんなことはない」とこちらが意固地になれば、不幸な結婚を誰にも止められなくなってしまう。

 それに比べれば、「新婚生活に満足できないからあんたが家を出る」の方が受け入れやすい。

 他の男の影がちらついているのが見えていたなら、なるほど正月に彼女氏に話かけないわけだ。

 友達や家族に助けられ、自分の気持ちはだいたい固まった。

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