第16話 年明け

 1月2日。一度「嫌だ」と言われた新年会は、あの手この手で彼女氏が来られることになった。

「あけましておめでとう」

 宴会の席に来た彼女氏に、母親がビールをついでやった。

「……」

 彼女氏は、ビールには口をつけず、アルコール以外ならいいという話もなく、座ってうつむいてずっと黙っていた。1時間、ずっとそうしていた。

 いたたまれなくなって、彼女氏をつれて席を立つと実家に送ってやった。


 帰ってきて、運転手をやらなくてよくなったのでようやくビールを飲んだ。

「我慢しろ」

 と父親がぽつりと言った。

 親からしたら、式を挙げれば彼女の気持ちも変わるだろう、という考えだったのだのかもしれない。彼女氏が今まで自分にどういう態度をとっていたかを、ほぼ全部自分のところで止めていたので、親にはまだ希望があったらしい。


 奇妙なのは、母親も姉たちも彼女に話しかけなかったことだ。

 「こんな弟のどこがいいの?」とふざけて聞くぐらいはできただろうし、それで愛想笑いでも引き出せれば、いくらか場も和んだだろう。

 「写真はどうしますか?」「いらなーい」というのはあの場にいた全員が聞いたセリフなので、うちの女性たちにはこれがクリティカルヒットになっていたらしい。

 だからといって、母親や兄弟の方から「この結婚はやめるべきだ」とは言ってこなかった。

 もちろん、それを判断できるのは自分と彼女氏のどちらかだけだ。

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