第17話 新居に来訪

 正月休みが終わって仕事始めになった。

 式まであと二週間。本来なら、そろそろ引っ越しの準備がないとおかしい。式の後別々に泊まるという話に同意した覚えはない。本当なら10月から一緒に暮らす予定で引っ越した家だ。いつから住むかという具体的な話がないのは完全におかしい。


 といっても、こちらから連絡をする気にはならなかった。よほどのミラクルがなければやめると決めていたからだ。

 披露宴をやるかどうかはまだ迷っていた。ただ、その後入籍するつもりはなかった。挙式後に突然ラブラブになってそのままここで暮らすなら話は別だが、そうでないなら法的に結婚を成立させる状況にはなかった。


 金曜日は適当に夜更かしをして眠り、惰眠をむさぼっていたところ、翌朝呼び鈴で起こされた。

 誰だろうと戸を開けると、彼女氏がいた。

「いらっしゃい」

 びっくりした。

 カセットにCDをダビングしてほしいと、青いレンタルの袋を持って来ていた。

 特にためらいもなく家に入ってきて、袋からCDを出してきたので、10月に洗濯機のついでに買ったカセットテープをごそごそ出して録音してやった。そんな気に入ってる曲ならレンタルじゃなく買えよ、と思ったが口には出さなかった。

 ダビングが終わると、さっさと帰ってしまった。

 朝の9時に来て、9時半にはもういない。会話もほとんどなかった。

 自分はといえば、顔も洗ってなく、髭も伸びたままだったことに気づいた。


 彼女氏が結婚式を挙げたいという強い意志があるのは分かった。

 新居にはもう二度と来ないと思っていたが、必要とあれば来るわけだ。


 これがなければ、この週にも結婚を断る判断をしたと思う。


 その後実家からの電話で、いくつか知ったことがあった。

 31日の話が漏れていて「子供がいらないのか!」と向こうの母親が激怒しているという。同居しない理由が「妊娠が怖い」とかであればそういう配慮をすると話をしたが、当人の反応からはこんな理由ではないと分かった。しかし、こんな話を聞きだすあたりが毒親である。

 それから、クリスマスイブの日はシャンソン歌手の歌を聞きに行ったということが分かった。これは向こうの母親が自慢げに話していたとのこと。

 出会った頃に「シャンソン歌手の知り合いがいる」とは聞いていた。その後を特に言わなかったが、「次は一緒に聞きに行こう」と言えば嫌とは言わなかっただろう。

 向こうの母親からしたら、都会的なおしゃれな趣味の娘として自慢のネタらしかった。婚約者をほっぽって行ったというのは都合よく無視されたようだ。

 それが一人で行ったのか他の誰かと行ったのかまでは分からなかった。

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