第10話 12月24日の予定
彼女氏は友人夫婦の前では完全に新婦としてふるまい、仲がいいようにふるまうことができた。深夜の道を家まで送っていったのも好印象だったようだ。週1でかかってくる電話も、声のトーンがだいぶ明るくなった。週末に式場の打合せがあるという電話で、いっしょに地元に電車で帰ろうという誘いも受けた。手をつなぐことさえ可能になった。
季節は完全に冬。12月も半ばにさしかかっていた。
一時はどうなるかと思ったが、信頼関係は回復されつつあるように感じた。
であれば、これ以上嫌われないように、クリスマスの予定は慎重に組まないといけない。
そんなことを考え始めた時期に電話が鳴った。
「私だけど」
週1でかかってくる電話で、これ自体は特別なことはなかったが、声にまた冷たさがあった。そしてこの電話の要件は、
「24日は用事があるから。じゃあね」
ガチャ。
――なんだこれ?――
最初は状況が呑み込めなかった。用事があるとかわざわざ電話してくることは今までなかった。誘われて用事があるから無理、というなら分かるが、わざわざ「用事がある」の一言を電話で伝えるとはいったい何だろう。
そしてしばらくしてから気付いた。
「24日はクリスマスイブじゃないか!」
一応バブル時代に青春を過ごした身としては、男女交際におけるクリスマスイブの重大さは分かっているつもりだった。なので、向こうが先手を打ってクリスマスデートを不可能にしてきたという事実に愕然とした。
それでも、互いに別にクリスチャンではなく、クリスマスはどうしても一緒に過ごさないといけない日ではないのだから、単純に週末が空いてないことを伝えたかっただけかもしれないと楽観的に考える余地もあるにはあったが。
挙式はもう一か月後だ。新居も用意でき、来賓に招待状も送り返事も来ている。こういう状況で新郎とクリスマスを別々に過ごすといっても、それは同姓の友達と何か用事があるのだろう、ぐらいに考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます