第7話 逆ギレ
そして次の電話。
「私だけど」
彼女氏から、いかにも機嫌がよくなさそうな声で電話がかかってきた。
そして次の一言が
「言いつけたでしょう!」
詫びではなく苦情の電話だった。
親の謝罪と「言って聞かせた」はなんだったのか。
「もう。うちの親は他と違うんだから。アンタが言いつけるから怒られたじゃない!」
婚約を解消する意思がないことは分かったが、30歳に近い人間が「親に叱られた」と相手を責めるという新たな問題が。
今の言葉で言う「逆ギレ」だ。
こちらは、状況がよほどのことだから、家族でよく話し合ってほしいと思ってこの相談を持ちかけた。頭ごなしに娘を怒鳴りつけて、何が何でも結婚しろと強いるようなことは望んでいない。
いい大人が「親に叱られた」と苦情を言ってくるほどだから、よほどきつく言われたのだろう。普段からそうやって抑圧して娘を思い通りにしてきたのかと思うと、いくらか同情できないこともない。
しかしだからといって、「言いつけたりして悪かった」などとこちらが謝る筋合いはない。
電話をさせないことがあたかも当然の権利のように考えているなら、勘違いも甚だしい。自分が言ったことで相手がどう思うかなど一切考えた形跡がない。そういう相手に安易に同情はできない。
「婚約者に『電話するな』なんて話があるか!」
あえて怒りが伝わるように、電話口で怒鳴った。
「え……」
こっちから怒られることは予想外だったらしい。
実際、彼女氏にこんなに大声を出したことは今までなかった。
「これから夫婦になる、っていうのに、なんで電話できないなんていうことがあるんだよ!」
「……」
「1回ぐらいは思い付きでそう言うかもしれないから、少し置いて電話したら、それでもまだ『電話するな』だ。あんまり強く言うから、そっちから連絡してくれるなら、しばらくは仕方ないかな、って様子を見ていたら、半月も連絡しやしない。おかしいだろう、そんなの」
「……」
向こうは言い返せなくなった。
「とにかく、気持ちが離れないようにって、今まで週に一回は電話して連絡を取り合うようにしてきたつもりだよ」
「………………………………………………………………………………分かった……」
一応これで、向こうに非があることは認めたようだった。詫びてはいないが。
また、結婚をするという意思はしっかりあることは分かった。
非常に悪い状況であることは変わりなかったが。
この作品で言いたいことをここで書く。子供を心が折れるまで𠮟りつけて意のままにしようという毒親ムーブは、躾のつもりもあるかもしれないが、子供に善悪を考える力が育たなくなる。やっていいことと悪いことの判別が「親に叱られるか/叱られないか」しかなくなるからだ。婚約者に一方的に別れ話を切り出したとしか思えない行動に対して、相手がどう感じるかを全く考えない。親に話が漏れ伝わって𠮟られても、反省などしない。親に告げ口する向こうが悪い、となる。
この世界から毒親がいなくなるなら、少子高齢化の方がずっとマシだ。不幸な子供が減り、少ない子供が大事に育てられるならそれが望ましい。
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