第6話 家族に相談

 11月も半ばになり、「電話をするな」と言われた件を自分の親に相談することにした。向こうが結婚が嫌になったのなら、それはそれで仕方ない。あるいは、もっと違う事情があるかもしれない。

 とにかく、婚約者に電話を禁止するというのはよほどのことだ。何か悩みでもあるかもしれない。向こうの家族で話し合って、この結婚をどうするのかを改めて考えてほしかった。


 といっても、すぐには話は向こうの家には伝わらなかった。自分の親も一週間ほど悩んだようだ。それから「向こうの家に話してみた。彼女氏もいろいろ考えることがあったらしい」という連絡が来た。


――これでこの結婚も終わりか。短い夢だったな――


 と考えた。会社に行っても仕事にならなかった。二人で住む予定で引っ越した部屋に一人で住むことになるし、借り上げ社宅にならないから手取りの半分以上が家賃で消えていく。単に独身時代の生活に戻るわけではなく、すでに自分の生活は不可逆な段階に来ていた。

 それでも、花嫁が式の当日に突然「式に出たくない」と言い出すような事態はこれで避けられる。

 これで彼女氏との結婚は終わりだと確信し、覚悟した。


 その日の帰宅後に自分の父親から電話が来た。

「向こうの親御さんが、今から電話するって」

 という連絡だった。それに加えて、

「次からは、自分たちで話をつけてくれよな」

 という一言で電話が終わった。

「?」

 最後の念押しがよく分からなかった。どうも自分の親は、彼女氏と喧嘩の挙げ句に「電話しないで」と言われたと理解したようだ。

 喧嘩できるならしてみたかった。

 実際は、こちらに何の要因も見いだせない状況で、「電話しないで」と言われた。向こうが話した理由らしきものも、こちらの落ち度は何一つ含まれていなかった。

 新居に越してきた段階で、喧嘩もしないのに電話を禁止されるというのは、それなりの筋書きが前提にないとやはり理解しがたいということだろう。


 次に鳴った電話をとると、向こうの母親からだった。

「ごめんなさいね。娘によく言って聞かせましたから、今から電話させます。本当に、ごめんなさいね」

 という詫びの電話だった。

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