第6話 最初の魔法

「マホウ とはなんだ?」


 リザードマンに魔法の事を言ったのはいいが、ツトム自身もどうして魔法の事を知っているのか理解できなかった。

 実はツトムが眠っている間、周囲の状況とツトムが活動していた間の記憶が合わさり色々な夢を見ていたのだ。

 その中にはゲームやアニメで見た魔法に関する物があった。


「魔法っていうのはね……こうかな?」


 右手を広げて前に出し、よく聞く言葉を口にした。


「ファイヤーボール」


 ツトムの手のひらに真っ赤な火の玉が発生し、それは目標に向けて猛スピードで飛んでいく。

 目標、手の先にあった樹木だが、ファイヤーボール一発で炎に包まれて燃え上がり、パチパチと音を立てながら崩れ落ちた。


「これが魔法なんだけど……何してるの?」


 リザードマンたちは膝を付きひれ伏している。


「おお、やはり守り神。守り神が我々に神の力を見せてくれた」


 この世界の生物たちには魔力がある。

 しかし魔力を意識して使った事はなく、無意識のうちに飛行や筋力の強化に使っていたのだ。

 なので魔力の違う使い方を見たことが無かった。


「えっと、そういえば身体強化以外で魔法を使うのは初めてなのかな。魔法を使わなくても平気だったし」


 しかしいつまでもリザードマンは平伏しているので話が進まない。


「ねぇ、そろそろ顔を上げてくれないと説明が出来ないんだけど」


 言われてようやく恐る恐ると顔を上げるリザードマン達。

 守り神であることが確定し、その力に畏怖いふしているので目を合わせないようにしている。


 だがようやく説明が出来る状態になったので魔法の説明を始める。

 リザードマン達の魔力は意外と高いので、魔力の使い方の説明は簡単なようだ。

 しかしファイヤーボールを使う事が出来ないでいる。


「守り神よ、やはりアレは神の技なのか」


「おっかしいな、魔力はしっかり腕まで来てるのにどうして……あ!」


 慌ててリザードマンのステータスを確認し、攻撃力や防御力以外のステータスを表示させる。

 すると

 攻撃力 五三一

 防御力 六三三

 俊敏性 二九七

 魔力  一八五

 属性  (火) 水 土 (風)(光)(闇)

 となっており、水と土以外は灰色で表示され使えない様だ。


「そういう事か。じゃあこれをやってみて『ウォーターボール』」


 今度は水の塊を樹木に向けて射出すると樹木に当たった場所がえぐれた。

 それを見たリザードマン達が平伏しそうになるのを止め、何とかウォーターボールを習得させた。


「じゃあこれでT-REXと勝負をしてみて。ようやく互角に戦えると思うから」


「互角? これほどの力があっても互角なのか」


「向こうとは能力の差があり過ぎるからね。僕が出来るのかここまでだよ」


「守り神に感謝を。ただ殺されるのを待つ我々に希望を与えてくれた」


 一度膝を付いて平伏するが直ぐに立ち上がりT-REXへと向かって行く。

 リザードマンの数は二十人ほど、対するT-REXは一頭だが能力の差は依然として大きい。

 歩いているリザードマン達にT-REXは気が付くが、すでに食事が終わっているので興味がなさそうだ。


 しかし近づいて来るリザードマン達にひと吠えして威嚇するが、リザードマン達は臆することなく更に近づく。

 リザードマンリーダーがウォーターボールを発射する。

 T-REXに命中し痛がり驚いているのだが傷にはなっていない。


 T-REXの皮膚は樹木より硬いのだ。

 なので無暗にウォーターボールを撃ったところで追い払うのが関の山。

 逆上されれば力でねじ伏せられるだろう。


 リザードマン達は半円形になりT-REXを囲み発射するが、やはりT-REXには傷一つ付いていない。

 それどころか驚いた状態から回復しイラ立ち始めた。


「やっぱり初めての魔法だし、ウォーターボールを撃つ事しか頭にないか」

 

 思わず手助けしそうになるが、これ以上の干渉はツトムの誓いに反してしまう。

 なのでここでリザードマンが滅んでしまったとしても、ツトムはそれを受け入れるしかない。

 リザードマンは歩きながら静かに移動して魔法を撃っているが、痛みになれたT-REXはウォーターボールに構わずリザードマンに向けて突進する。


 ああ遂に死者が出る……そう思った時だった、T-REXの体が地面にめり込んで動けなくなってしまった。


「落とし穴⁉ そんな物を掘った様子はなかったけど」

 

 よく見るとあちこちに穴が開いていた。

 実はリザードマン達は沼地に穴を開けて巣にしており、その出入り口があちこちにあるのだ。

 普段ならT-REXもそれを知っているので穴に落ちないが、今はイラ立ち注意が散漫になっていたのだ。


 穴に落ちたのは片足だけだが、腕が小さい上に沼地ではもう片方の足に体重をかけても沈むだけ、もがくしか出来なくなっていた。

 約十五メートルの高さにあったT-REXの頭が目の前に現れ、リザードマン達は顔に向けてウォーターボールを集中的に発射する。


 すると目が潰れ鼻から内部を破壊し、大きく開いた口に大量のウォーターボールが撃ち込まれていく。

 そして遂にT-REXが動かなくなった。

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