第5話 新しい生物

「よく見たら寝る前と景色が違う! 森の中じゃないの⁉」


 森というよりも林といった場所で、地面の草は少なく岩肌が見えている。

 波の音が聞こえるので振り返ると、どうやらここは崖の上でその先に海が見えた。


「寝る前は海の近くじゃなかったはず……あ、地殻変動?」


 六千万年も時間が経てば地形も変わる。

 ツトムが眠る前とは随分と気候が代ってしまったようだ。

 戸惑うツトムをよそに、リザードマン的な生き物たちは会話をしている様だ。

 もちろんツトムには何を言っているのか理解できないが、リザードマン的な生き物の代表者らしき者がツトムに近づく。


 カエルの鳴き声のような声だが、どうやら言葉を発している様だ。

 ツトムに対して会話を試みている様だが、当のツトムにはチンプンカンプン。


「あ、ステータスの書き換えって出来るのかな」


 ステータス画面を表示させると、思ったものがアイコンとして表示された。

 『言語習得』をクリックし、リザードマン的な生き物の声に耳を傾ける。


「デスカ? モシソウナラバ ワレワレヲ タスケテ イタダキタイ」


 少しカタコトの上、途中からなので意味がわからない。


「あのごめんなさい、もう一度言ってもらえますか?」


「アナタハ マモリガミ ナノデスカ? モシソウナラバ ワレワレヲ タスケテ イタダキタイ」


「守り神? 僕が? どうしてそう思うんですか?」


 守り神といわずこの世界を作った神様だ。

 ただ受肉された今の状態では神としての力は随分と制限されている。

 六千万年も眠り続けたのも神の力を生身で使いすぎたたからだ。


「タイコヨリ ココニネムル者 ケッシテ イかリニ ふレテハならぬ そういいつたえられて います」


「太古よりって、僕は一眠りしてただけで……あ、そういえばどれだけ寝てたんだろう」


 ステータス画面から履歴を確認すると、眠る前の活動記録があるのが六千万年前……それを見たツトムは目をまん丸に見開いた。


「六千万年⁉ 僕はそんなに寝てたの⁉」


「守り神よ 我らが祖先からの言い伝えでは 数えきれないほどの明かりが回ったと 言われている」


「うん……六千万年も寝てたんならそうなるよね。あ、それで助けて欲しいって、何かあったんですか?」


 改めてリザードマン的な生き物に向き直り地面に正座すると、リザードマン的……リザードマンは正面であぐらをかいた。


「守り神よ、我らは奴らにより滅びの道を進んでいる。どうか助けていただきたい」


「奴らって、誰ですか?」


「奴らは奴らだ」


「だから誰⁉」


 名前、固有名詞という考えがないので、仲間内では通じるだろうがツトムには通じない。

 つまりその程度の知能しかないという事だろう。


「こっちだ」


 リザードマンは立ち上がると手招きする。

 ツトムは仕方なく後をついていくのだが、なんと丸三日間歩き続けた。


「まだなの⁉」


「アレだ」


 たどり着いた場所は随分と地面がぬかるんだ場所だった。

 沼地というのだろうか、一歩歩くたびに雑草の生えた地面が沈んで水がにじみ出て来る。

 そして指さされた方向を見ると、随分と見慣れた生き物が食事をしていた。


「あれはT-REX?」


「てーれく? アレはアレだ」


 そろそろ面倒になったのか、ツトムはそれに突っこむのをやめた。


「つまりアレのせいで君たちは滅びそうなの?」


「そうだ」


 そりゃT-REX相手ではリザードマンじゃ手も足も出ないだろうな、と考えているが、そもそもこんな足場の悪い場所にどうしてT-REXがいるのか、そしてわざわざ食事にリザードマンを選んだという事は、相変わらずT-REXが食物連鎖の頂点なのか、リザードマンが底辺過ぎるのかのどちらかだ。


 ふと気になりリザードマンのステータスを確認する。

 攻撃力 五三一

 防御力 六三三

 俊敏性 二九七

 魔力  一八五

 T-REXのステータスは

 攻撃力 一二九九九

 防御力  六九五八

 俊敏性  一六一二

 魔力     一九

 なので、勝っているのは魔力だけだ。

 しかも他は圧倒的に負けている。


 小型のリザードマンの方が俊敏性が上かと思ったが、リザードマンはとにかく足が遅い!

 歩く速度はツトムに近いが、走っている(らしい)時はツトムの早歩きよりも遅い。


「まぁ……能力に差があり過ぎるよね」


「守り神よ、我々を助けて欲しい」


 しかしツトムはあっさりとしたものだった。


「ごねん、僕は特定の種族に肩入れはしない事にしてるんだ」


 この地に降り立った時、密かに一つの誓いを立てていた。

 それは「自然の摂理に反する事はしない」だ。

 今の場合だとツトムが寝ている間にリザードマンが絶滅しそうになった、という事だが、それこそ弱肉強食であり自然の摂理である。


 しかし……一体どれだけぶりだっただろうか、会話をしたリザードマンに愛着に近い感情を持ってしまったのだ。


「唯一勝ってるのは魔力だから、魔法を使えば良いんじゃないかな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る