第4話 恐竜は遊び相手?

 全速力で走ってT-REXの顔面を殴ったら顔がはじけ飛んだ。

 それに驚いたツトムは慌てて方向転換をする。


「えーー!! ちょ、ちょっと待った! 攻撃力は少し高い程度のはずだけど⁉」


 T-REXの攻撃力は一万三千程、ツトムは一万五千なので二千ほど高いだけだ。

 なのに顔がはじけ飛んだのには理由があった。


「ステータス! ひょっとしてステータスの桁を間違えた!?」


 ジャングルにしゃがみ込んでステータスを確認するも、自分が知っている一万五千の数字が目に入る。

 しかしその下にある魔力の項目に変化があった。


「魔力が五千になってる、なんでいきなり半分に減ってるの? いつ使ったの?」

 

 ツトムはT-REXを殴った時の映像を確認する。

 ツトムが全速力で走りジャンプをしたあたりで拳が薄く光を放っている。

 この時のステータスを確認すると攻撃力七百五十万、何と五百倍になっていたのだ。

 さらに速度補正として七千五百がプラスとなっており、総攻撃力は七百五十万とんで七千五百となっていた。


「魔法を使ったって事? 魔力五千で五百倍って事は、魔力十でステータスが倍になるって事か……最初の魔法は派手なのを使いたかった!」


 少し離れた場所で倒れている頭の無いT-REXを見てこう誓うのだった。「手加減を覚えよう」と。

 次のT-REXを探し出し、静かに近づくツトム。


「今度は地面から近づこう。せめて噛まれないようにしなきゃ触れない」


 T-REXに気づかれないように背後から静かに近づき、そろそろ尻尾に触れそうな距離になる。

 そこから一気にジャンプして背中にしがみ付いた。

 T-REXはビックリして暴れ回るがツトムは離れない。


「やった! 憧れのT-REXに触れたぞ! 意外と温かいし皮が固いな。それにしても……なんか臭い」


 それもそうだろう、恐竜は簡単な水浴びくらいならするが、基本的に体を洗うという事はない。

 なので泥や血液、汗などが付着して乾いているのだ。

 そしてT-REXは暴れ回っているがツトムが離れないため、背中から大木に向けて体当たりを決行した。


「うぎゃああああ! ……あれ? 痛くない」


 防御力が十万あるため木にぶつけられた程度ではかすり傷一つ付かない。

 だがT-REXは暴れ続け地面を転がり岩にぶつけ、ひたすら木をなぎ倒して走り回っている。

 だがツトムが離れる事は無かった。


 一時間もするとT-REXは疲れ果て、地面に倒れてしまう。


「やった! これでゆっくり触れるぞ!」


 地面に降りて背中以外を触りだす。

 腹、腕の爪、足の裏、そして顔。

 T-REXはすでに諦めているのか動かない。


「へ~、やっぱりお腹は柔らかいや。背中や足は凄く堅いのに」


 よく見るとT-REXは全身が傷だらけだ。

 堅い皮膚に覆われているので血は出ていないが、大木や岩に体をぶつけたのだから傷くらいは付くようだ。

 だがそんな傷はツトムが全身を触っている内に魔力により治療されてしまった。


 てっきりツトムに殺されて食われると思っていたT-REXだが、食われるどころか攻撃されないので起き上がる。

 地面にいる小さな生き物ツトムの匂いを嗅ぐと、そのまま背を向けて去っていった。


 その後もツトムのやる事は変わらなかった。

 変わった事があるとしたら恐竜全般を追いかけ回した事だろうか。

 四本足の恐竜の背に乗り、小型恐竜とかけっこし、空を飛ぶ恐竜の近くまでジャンプして遊んでいた。


 そんな事が数十年続いたら恐竜たちは学習をした。

 「この小さい奴に手を出してはいけない」と。

 しかしツトム自身も恐竜を殺す事はなく、遊ぶだけ遊んで夜はどこででも眠るだけなので、恐竜もその辺は安心している様だ。


 今の体は腹が減る事はなく、本当は睡眠も必要がない。

 しかし人間の体に近いため時々無意識に木の実を食べ、暗くなると眠ろうとしているだけだ。


 だがある日の事、ツトムは遊ぶだけ遊んだ後で眠りにつくと、全く目を覚まさなくなったのだ。

 恐竜たちも特に触れる事は無いが、何日も、そして何年も寝続けるツトムが生きている事を確認するように匂いを嗅ぎに来る。


 ようやく満足に睡眠がとれたのか、ツトムは体が半分土に埋まった状態で目を覚ました。

 

「ん……ん? なんだこれ、土? 草? なんで僕は地面に埋まってるの?」


 体に付いた土を払って立ち上がると、目の前には見た事もない生物が立っていた。

 二足歩行の小型恐竜かと思ったがツトムと同じような腕があり、前傾姿勢ではなく直立している。


「り、リザードマン的な生き物がいる……突然変異かな?」


 だがリザードマン的な生き物がゾロゾロと集まって来たので突然変異という線は消えてしまう。

 そう、ツトムが眠っていた期間は六千万年。

 生物が進化するには十分な時間だ。

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