第3話 魔法を使う恐竜の世界

「……あれ? なんだか前にもこんな事があったような気がするけど?」


 それは死んで天界に呼ばれた時の事だろう。

 今回も知らない間に自分が第五惑星ヨセフに誕生していたのだ。

 見た目は十三歳の頃の年相応の姿をしたツトムだった。

 手を見て握りしめ、足や腹を見て涙を流す。


「シワがない……力が入る……点滴の跡もない……」


 涙で歪む自分の体を見て立ち上がり、涙をぬぐって空を見上げる。


「肌がジリジリする……これが熱いって事なんだね」


 木々の隙間から照らされる太陽の光に肌を焼かれ、元々熱い時代の気温を直に感じている。

 ツトムは静かに一歩を踏み出し、転ばない、足が折れない事を確認すると歩き始め、そして次第に走り出した。


「あはは! あははははははは! 走ってる! 僕走ってるよ!」


 一糸まとわぬ姿で恐竜時代の森を走り回り、飛び跳ね、転げまわる。

 元の世界ではやりたくても出来なかった事を存分に楽しむツトムだが、それは長くは続かなかった。


「あー楽しい! 木登りもしてみよう!」


 手頃な木を見つけて手足をかけ、枝につかまりながら何とか登っていく。

 そして十メートル以上登った時だっただろうか、目の前に巨大な顔が現れた。


「うわっ! なんだ!? T-REX⁉」


 恐竜は大きな口を開けてツトムを一口で食べてしまった。


「はっ! え? あれ? 僕生きてるの?」


 だが周囲を見回すと見慣れた景色、宇宙を俯瞰ふかんで見ていた。


「ああ、僕は死んだのか。T-REXに食われて死んだんだね……」


 せっかく生を楽しんでいたのにすぐに死んでしまったと悲しむツト……


「やったぁ! T-REXに食われた人間なんて僕が初めてじゃない!?」


 喜んでいるツトムだった。

 

「やっぱり強いなT-REX! どれだけ強いんだろう」


 するとツトムを食ったT-REXのステータスが表示された。

 攻撃力一三八七一

 防御力 七〇三六

 俊敏性 二九三三

 魔力    二一


「へー……てかどれだけ強いのかわかんないや。って魔力⁉」


 何度見ても魔力の項目があり、慌てて他の生物のステータスを確認する。

 するとやはり数値に違いはあれど魔力があった。


「魔力って魔法を使う魔力? あ、女神さまに貰ったマニュアルに何か……あった」


 頭の中で分厚いマニュアルを検索すると魔力の項目があった。


「えっと、特に意識しなかった場合、本人の意識しない項目として追加される事がある。なんだそれ、つまり一から十までしっかり設計しないと予想外の項目が追加されるって事? そりゃ適当にやったけどさ」


 しかし出来てしまったものは仕方がないと意識を変え、魔力の大小の違いを探し始めた。

 するとどうやら空を飛ぶ生き物には魔力が多い傾向にある事がわかった。


「飛ばなくても体がとても大きい生き物は魔力が多い。でも虫みたいな小さな生き物でも空を飛ぶ者は魔力が多い。魔力を使って何かをしているから……かなぁ」


 ふと自分にも魔力があるのかなと思い、自分のステータスを確認する。


「なんだこりゃ? 全部エラーじゃないか。ああ、今の僕は神様みたいな存在だからかな。じゃあさっき地上に降りた僕は?」


 攻撃力一三

 防御力一三

 俊敏性一三

 魔力 一三


ひく! T-REXの千分の一じゃないか! こんなの勝負にならない!」


 今回の体にしてもツトムは意識せずに作った物なので、何の変哲もない十三歳相当の体が作られたのだ。

 つまり。


「魔力があるのはわかった。でもこれじゃT-REXに触る事なんて出来ないから……一から十まで設計したらいいのかな」


 ツトムは独り言を言いながら自分の体の設計を始める。

 一時間後。


「出来た! これならT-REXどころか他の恐竜に襲われても食べられたりしないぞ!」


 見た目は先ほど度変わっていないがステータスが盛られていた。

 攻撃力 一五〇〇〇

 防御力一〇〇〇〇〇

 俊敏性 一五〇〇〇

 魔力  一〇〇〇〇


「魔力を何に使うのか分からないけど、あったら便利でしょ」


 攻撃力はT-REXより少し上に、防御力は攻撃力よりも一桁上げ、俊敏性と魔力は結構適当にした様だ。

 攻撃力と防御力はT-REXという指標があるが、俊敏性・魔力に関してはどの程度か知らないからだ。


「よし! じゃあこの体でもう一度降りよう!」


 ジャングルの中にすっ裸のツトムが誕生し、今度は迷うことなく走り出す。

 

「うわ! ぶつかる!!」


 先ほどと能力が全く違うため制御できておらず、木をなぎ倒して走り回っているようだ。

 今度はそれが面白くなったのか、腕でガードすらせずに頭から木にぶつかりなぎ倒していく。

 そして気が済んだころには海に落ちていた。


「ぷは~、海がしょっぱいって本当だったんだ! でもなんか……ピリピリするけど……海って凄いな!」


 泳いで海から出ようと……ツトムは泳げなかった。

 しかしツトムに抜かりはなかった、念じればいい事を知っているからだ。

 なので本当に魔法の様に体が陸地に引っ張られ、崖ではない砂浜に上がる事に成功した。


「よし! T-REXを探そう!」


 走りだして森の中に入ると、今度は迷うことなくT-REXの元へと走っていく。

 流石に制御方法を覚えたのか木を避けて走っている。


「みーつけた! T-REX! さっきの仕返しだー!」


 今までは手加減して走っていたのか、更に速度があがりT-REXに突進していく。

 そして拳を握りしめて大きく振りかぶりジャンプ、T-REXの顔の高さで拳を振り下ろすと……T-REXの顔が木っ端みじんに吹き飛んだ。


「……へ?」

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