第7話 思わぬ敗北

魔王軍は元々は魔族、魔物達による軍団によって編成されていた。

あらゆる種類の魔物達、獣やアンデッド。更に魔物の中でも最強クラスの力を持つドラゴンまで兵士としている。

これだけでも強大な力を持ち国一つ滅ぼすのに充分な兵力なのだがそれぞれの軍を任されている長と呼ばれる実力者達は選りすぐりのエリート集団、そしてその頂点に君臨する絶対なる魔力を持つ魔王。


これが世界に恐れられている魔王軍、その魔王軍にまさか勇者まで加入しているとは人々は夢にも思わないだろう。更にそこにエルフの助力まで得られたとまでは考えもしていないはずだ。




そのような兵力を前に辺境の国程度では太刀打ち出来る訳が無かった。








「これでもう終わりか?!歯ごたえというものが無いな!」

ゴート王国と呼ばれる国の騎士団、攻め落としにかかった時にその騎士団全戦力が襲いかかったが竜人の戦士ゼッド率いるドラゴン軍団の敵ではなく勝負は火を見るよりも明らかだった。

ゼッドが敵の騎士団長を斧で切り潰し、絶命させて戦いは短時間で終わる。指揮官を失った敵の軍隊にもはや士気は無く一人残らずドラゴン達の餌食となっていき、増援として駆けつけた騎士をも倒し完全にゴート騎士団を全滅させた。



カリアにシュウ、勇者と魔王にばかり頼って任せてばかりは自分達の立場が無いので今回は自分の軍団のみで国を制圧すると今回の作戦を買って出たゼッド。

彼の率いるドラゴン軍団は同じ竜人や巨大なドラゴンで編成された魔王軍の中でも1、2を争う強力な軍団。それに敵う人間達はまずいないかもしれない。


出来るとしたらそれこそ勇者と呼ばれる英雄レベルの者ぐらいだろう、だがそんな英雄はゴート王国にはおらず果敢にドラゴンへと挑んだ騎士団達も無残に散っていった。これで後は王城を制圧するのみとなりゼッド達は城へと進軍を開始するのだった。




王城を守る兵は精鋭部隊が揃っていたと思われる、国の王を守る。城を守る兵ともなれば優れた兵士達が揃っている。

だがそんな選りすぐりの精鋭達も所詮は人間、ドラゴンとの力の差は明白。強靭な爪にブレスを持つ竜を前に兵士達は為す術なく一人、また一人と倒れていった。

そして気づけば守る兵士はいなくなりゴート王国の王のみという状況となっていた。



「た、助けてくれ!降伏する!何でもしよう!この城にあるもの全てを渡す!だからワシの命だけは助けてくれ!!」

みっともなく命乞いをする国を纏めていた王国の王、いや、もはや王だった初老の男と言うべきか。その男は国の宝や人を犠牲に自分だけは助かろうとしている。



だが。



「フン、こんな程度の器の奴が国を任されていたとはな。来世ではせいぜいもう少し器を大きくしてくる事だな!」

「あ………」



ザンッ



ゼッドはその命乞いを無視して斧を振り下ろし王をこの手で討ち取る。無慈悲な一撃の前に何も鍛えもしていない者が耐え切れる訳がなく王だった人間はこの世をその時去ったのだった…。




ゴート王国は魔王軍によって滅ぼされた、世間の人々にはそのように伝わっていくだろう。

しかし力の無い民達は見逃しているというのが現実。そしてあのような王が統べる国なので当然良い評価は聞かない。上流階級の者が優遇されており以下の平民は厳しい生活を強いられていた、そういった者達全員が滅ぼされ市民の中には魔王軍に感謝するような声も段々多くなってきつつある。


弱き民を助けるようにやっているようにも見えるが魔王軍としてはそんな正義の味方を気取ってやっている訳ではない、目的の為に障害を取り除いているだけに過ぎなかったのだ。以前のプージ王国も今回のゴート王国も自分達の障害になるので攻め落とした、そして無抵抗な力の無い民の命をわざわざ奪うようなメリットは何も無い。





そんな事を知る由も無い人間側は魔王軍の侵略に頭を悩ませていた。




「プージ王国に続いてゴート王国まで魔王軍によって潰されたというのか!」

大国ヴァント王国、巨大な王城の玉座に座る国王ベーザ。駆けつけた兵士が伝令を受けてゴート王国が魔王軍に滅ぼされたという知らせをたった今聞いた所だった。

「はっ…!魔王軍の進撃は勢いを増すばかりで到底止まる様子が全く……」



「国王、勇者カリアの行方もベン達騎士団の行方も未だ分かっておりません」

「今の魔王軍を思えばベンは失敗し勇者カリアと共に魔王に敗れたと考えるのが自然であろう、得体の知れん田舎娘といえど大会で優勝する強者。共倒れぐらいしてくれると踏んでいたのだがな…」

やはり国王であるベーザもベンと同じくカリアを魔王の道連れにしようとしていた、その為にベン達騎士団をカリアのお供として付けたのだ。しかしそれは失敗し騎士団達へ連絡は取れず行方不明。同時にカリアがどうなったのかの知らせも無い。

こうなってくるとカリアもベンも生きてはいまいと考え、だからといって捜索に兵を使うつもりも無かった。


これがカリアは実は生きており魔王と手を組んだと分かれば彼らは一体どのような顔をするのだろうか。



「これは各国と連携を強化し、更に強者を集うように呼びかける必要がありますな」

側近の大臣はベーザへと進言。今の魔王軍に対抗するには大国とはいえヴァント王国のみでは太刀打ちは不可能であり、各地にある国と連携を高めて更に兵力を増強させるべきであると。それこそ以前に大会を開き、そこに勇者カリアがやってきたように。

「うむ、すぐに用意するべきだな。今度は優勝者のみではなく大会ベスト8まで来た者達を招いた方が一気に戦力が高まる望みはあろう」

ベーザはこれに賛成し、兵にそうするようにと指示を飛ばす。



侵攻されている人間側も人間側で色々と抗う方法については議論し考えていた…。













「ゴート王国はゼッドが部隊を率いて攻め落とし、被害は特にありません」

「そうか…まあ彼ら竜の力をもってすれば小国程度、こういう結果は当然だな」

魔族の女性参謀ミナから玉座に座ったまま報告を聞くシュウ。此処は元々はプージ王国の王城だが今は魔王軍が占領し、拠点の一つとなっている。

シュウの傍らにはカリア、更に最近仲間となったエルフのテシも控えている。二人は魔王軍の何処の軍にも属するという事はなく、特殊部隊のような形で魔王の傍に置いている。

「意外と慎重だねー、魔王も。あんな強いの居たら一気に攻め込んでゴリ押しで全部ぶっ倒せるんじゃない?」

エルフの発言とは思えない過激な言葉でテシは純粋に思った事を口にする。

「大勢の一致団結した人間の力っていうのは侮れないものさ、まずは周囲からじわじわと攻める。それが後々大国にとってはとんでもない痛手となってくるものだよ」

強大な兵力を持つ魔王軍だがシュウはそれに慢心はせず、確実に兵力を削り取る手段を選んでいる。小国も団結して一つとなれば大国をも凌ぐ程の力を持つものだと考えている。

「確かに強大な兵力に関しては我々は人間を上回りますが、団結した人間相手となれば被害が大きくなる確率はかなり高くなると思われます。それなら小国をまずは攻め、団結を崩すのが一番効率的と判断しました」

ミナは淡々とそれが効率良いと資料を見ながら語る、今回の作戦についてもミナが立てた物であり今回のゴート王国はゼッド率いるドラゴン軍団の力押しが一番の効果となってゼッドに白羽の矢が立ったのだ。



「それと同時にバルバ、彼には空の軍団を率いて海の都市王国ターウォの攻略に向かってもらっています」

空の軍を纏める長である鳥人バルバ、今彼は此処にはおらずゼッドとは別の国へ侵略に行っている。


海の都市王国ターウォ


海に浮かぶ大きな島に街を、王国を作り代々栄えてきており都市へと通じる船も多く出て外交交流も積極的な姿勢を見せている中々の大国だ。

「大丈夫か?あそこはプージ王国やゴート王国のような小国とは違う。水上での戦いに関して腕利きの戦士や騎士揃いと聞いてるぞ」

カリアはターウォについて魔王軍へと進軍中に色々耳にしていた。海の国という事もあって戦いになれば水上での戦いが多くなる、なのでそこに所属する戦士や騎士はそういった環境の戦いの訓練を積んでおり得意としている。

バルバの強さを疑う訳ではないが彼の軍だけでは荷が重いのではとカリアは考えていたのだ。

「そこの国王であるターレンがついこの間に突然の病によってこの世を去っています、主を失った今ならば士気が下がっており立て直しに時間がかかる…他国と連携されて陸や海から来られては厄介。逆に海の拠点を獲得出来れば我々魔王軍にとって大きな+となります。我が軍で空から強襲が可能となるバルバがこの作戦に一番適正だろうと彼を主軸とした戦いが一番効果的です」

考えも無しにバルバに今回の戦を任せている訳ではなく、その辺りは参謀。色々と考えている、強国なのは確かだが国を統べる国王がこの世をつい最近去っており士気が下がっていて立て直し中の今ならば攻め落とすチャンスだと電撃作戦を得意とするバルバ率いる空の軍団で攻略可能、向こうが海の戦いで百戦錬磨ならバルバ達とて空の戦いは百戦錬磨だ。

向こうが万全なら五分五分でやや向こうの分があるかもしれないが今のターウォの状況を考えればこちらに分がある、ならば立ち直られる前に、障害となる前に攻略しておくべき国だろうと。



「ふむ…まあ、良い知らせをゆっくり待つとしようかな」

玉座に背を預け、シュウはバルバの帰還を待つ事にする。






「魔王様!バルバ様が帰還しました!」

そこに突然知らせはやってきた、魔王軍の下っ端である魔物の兵士が報告にやってきてバルバが帰還したという知らせを持ってきたのだ。

「へえ、噂をすればなんとやらってやつか。そのバルバは?」

「あの…それが……」

帰還したのなら此処に顔を出してくるはず、彼はもうすぐ此処に来るのかとシュウは兵士へと尋ねる。しかし兵士の歯切れが悪い。どうやらあまり良くない知らせがもう一つあるらしいとシュウのみならずカリア、テシ、ミナもこれを察した。




「バルバ様は負傷して帰ってこられまして…医務室へと運ばれました、海の都市ターウォの攻略は失敗したとの事で……」





これまでプージ王国、ゴート王国と国を次々と侵略してきた魔王軍。その侵略を此処で止める国が現れた。国の主を失って士気が下がっていたはずのターウォの前にバルバの空の軍が敗れてしまった。

人類の希望である勇者が魔王軍に加わり人類の方に抵抗する術は無いものかと思われたがまだまだ侮れない人間達が居たようだ。











海に浮かぶ都市ターウォ、その玉座の間にて新たなる国王が玉座に座り君臨しており前に跪く一人の騎士の男の姿がある。


「我が国を救いし英雄ホルク、この度お前の活躍で魔王軍を撃退出来た事に我が国を代表して感謝の言葉を此処に述べよう」

「はっ……もったいなきお言葉です、レオン新国王」

短髪で銀髪の国王、外見や年からしてそれは少年。子供と言っても差し支えないくらいであり、この小さな国王が新たにターウォを統べるレオン。父親であるターレン前国王の死後に王位を引き継ぎ彼は予想より早く国を纏める程の手腕を発揮。

それによりミナが予測していた士気の低下というものがほぼ無く、バルバ率いる空の軍団相手に戦えたのだ。


更にもう一人、今回の戦いで活躍した英雄と呼ばれる男。銀色の鎧を全身に纏い青いマントをその上に付けており国王の前で兜を外したその顔は整った顔立ちをしており180cmを超える長身で黒髪の短髪、世の女性がそれを舞台などで見たら黄色い声援を浴びる事は間違いないだろう。



バルバを撃退した戦士ホルク。

彼さえいなければバルバ達がこの戦に勝っていたかもしれない、それほどまでの力を人間ながら持っている。



魔王軍に対する新たな対抗勢力として名乗りを上げたターウォ王国とホルク。

彼らによる魔王軍撃退は瞬く間に世間へと広まり、魔王軍討伐に大きな期待を寄せられていた。

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