第5話 訪問者
「うおおー!流石魔王様だ!」
「魔王様にかかれば人間共など敵ではない!」
「魔王様万歳ー!」
プージ王国を短期間で滅ぼし、今や魔王軍の拠点の一つとなった城。そこに多くの魔物達は集い魔王シュウの圧倒的力によって王国を落とした結果に士気は高まっていた。
そのシュウはバルコニーに立ち、大勢の魔王軍の者達へと向けて言葉を発した。
「魔王軍の諸君!今回このプージ王国を落としたのは我が力のみではない、優秀な長達による力添えに更に新たに加入した勇者。そして諸君の働きによるものだ!」
シュウの後ろに控えるカリア、バルバ、クレイ。今回の戦いで特に活躍した面々だ。カリアは主に前線で剣を振るい道を切り開きバルバは敵の伝令を断ち切り援軍を封じこめ、クレイは石人形に命を宿らせ存分に暴れさせた。
いずれも働きが大きかった。
「今回の拠点を得られた事は我が魔王軍にとって大きな一歩となるだろう、魔王軍諸君の今後の活躍に我は期待している!」
「うおおおーーーーー!魔王様ーーー!」
大勢の魔物達の前でシュウは演説をやり切り、喝采が湧く最中にシュウは奥へと消えていった。
「ふー…」
元々はプージ王国の主、国王が座っていたであろう玉座。その椅子に今はシュウが亡き国王に変わって座っている。
戦いの疲れか、それとも演説の疲れかシュウは玉座に背をあずけて大きく息をつく。
「お前も働き者だな、戦いに演説と」
「まあ軽めの仕事さ。戦いに関してはほとんどカリアにクレイの石人形が片付けて僕は楽をさせてもらっていたし」
「……魔王様が前線に出るので負担を無くさせようと…張り切りました、何時もより…」
カリアの剣、クレイの石人形。それに魔王の力が合わさった事によりプージ王国の騎士団程度では歯が立たず全く寄せ付けなかった。圧倒的な力の差、それがあり過ぎたというだけだ。
「戦いは俺やゼッドの旦那のような戦士に任せてくださいよ、そんな魔王様ばっか前線に出たら俺ら戦士の立場なくなっちまう」
バルバは今回伝令へ向かう連中を倒すという仕事のみだったので少し剣を使ったぐらいで終わりだった。とはいえそれも大事な仕事だ、援軍を断ち切り確実に相手を滅ぼす。これもまた立派な兵法である。
「魔王様」
玉座に座るシュウの前に姿を見せる魔王軍の女性参謀ミナ、突然姿を現した。シュウはそれに特に驚きもせずその姿をまっすぐ見ていた。
魔王の視線にも動じず冷静に彼女は言葉を続ける。
「魔王様へ面会を望む方が見えています」
「ああ?誰だよ、のこのこと来て魔王軍の長に気軽に会えるとでも思ってんのかぁ?そんな奴とっとと追い返しちまえよ!」
シュウの言葉より先にバルバが面会を望む相手を容赦なく追い返そうとしていた。これが人間相手とかだったら切り刻みかねないかもしれない。
「エルフの者ですが、それでも追い返して構わないのなら」
「!?」
一同に驚きが走る。エルフ、それがどういう意味なのか皆が知っている。それが魔王軍の前に現れたというのがにわかには信じ難いがミナがからかったり嘘を言うような者ではない事はまだ付き合いの浅いカリアはともかくシュウ達は分かっていた。
「…間違いなくエルフか?」
「変装のような類、魔力は感じられませんでした。尖った耳といい、間違いなくそうかと」
ミナが見た限りでは偽物といったようなものは無かった、なのでこうして最終判断を魔王であるシュウへと決めてもらおうと報告に来たのだ。
「会おう、通してくれ」
「はい」
シュウはそのエルフなる者に会う事にし、ミナに通すように言うとミナは再び姿を消した。
「…エルフという種族については本ぐらいでしか学んでいない。本当に居るのかと疑ったぐらい…」
まだクレイはエルフに会った事はなく本で知識として知った程度、人前には勿論の事、魔の前にも滅多に姿を見せる事は無い。まさに伝説とも言える種族だ。
「勇者、お前さんはエルフには会ってんのか?」
「ああ…と言っても一度だけだが、我が剣と鎧に祝福を与えてもらっていた」
「おいおい、マジか。自身で強えだろうにエルフから武具に祝福貰うたぁそいつは鬼に金棒ってやつだ」
勇者と名乗る前、カリアは旅の途中でエルフと出会っていたらしく、そのエルフから自身の武器に祝福をかけてもらっていた。古来よりエルフから祝福を受けると武具が格段に強化されるらしいが、誰でもという訳ではなくエルフに認められた者のみという話だ。
つまりカリアはエルフから認められた、流石勇者は伊達じゃないなとバルバは驚いたような顔でカリアを見ていた。
やがて奥から靴の足音が聞こえて来る、それは段々近づいて来て足音の主は姿を現した。
「覚えのある気配かと思ったけど、やっぱりカリアじゃないのー」
魔王軍が制圧した城とは場違いの活発な女性の声がした。
赤いワンピースに迷彩のマントを纏った金髪のショートボブ、背中に弓矢を背負う。身長は女性にしては高めで170近くはあるだろう。人間の女性と変わり無い姿に見えるが尖った耳を見ればそうじゃない事が分かる。彼女はれっきとしたエルフだと。
「お前…テシか、まさか此処で再会するとは」
カリアはその女性に心当たりがあった、さっき話したカリアの剣と鎧に祝福を与えたエルフ。このテシという名のエルフがその人で間違い無い。
「それはこっちの台詞よ、勇者と名乗ったとは聞いたけど本当に魔王と手を組むとはねぇ。まあ裏切った人間側の自業自得になるだろうけど」
何やらこれまでの事をテシは色々と知っている様子。あの場にいなかったはずなのにまるで居たかのように語っている。カリアはヴァント王国から裏切られ魔王共々亡き者にされようとしていた、それで勇者という身で魔王と手を組むという事は別にテシは何とも思っていないみたいだった。
「…エルフは優れた魔力を持つ、安全な場所からこれまでの事を見てたんだろう?」
「まあそういう事、魔王というんだからどんな恐ろしいのかと思ったらこんなお子様とはねぇー」
「おいおいおい!嬢ちゃん、いくら女エルフだからって魔王様にふざけた口叩くのは許さねーぞ!」
シュウに対して軽口を叩くテシにバルバは無礼が過ぎるとばかりに言っていくがシュウはそれを片手で制した。構わん、と。
「僕や魔王軍、更にカリアのしたことを見てきたはず。それで此処に現れた…一体どういう意図かな?」
シュウは改めてテシの方を真っ直ぐ見据えて尋ねる。
「貴方達はただの侵略者じゃない、そりゃ向かって来た相手には情け容赦なく切り捨ててるけど戦う力の無い国民達は殺さず見逃して保護している。魔王軍と名乗ってるにしては正義寄りな事してるなって興味出て来たのよ」
「それは、エルフ全体?それとも貴女自身?」
「んー……まあエルフ全体になるのかな。あたしもまあ興味あるし」
エルフ全体でシュウ達魔王軍に興味あると言うがテシの答えはハッキリしない、完全な全体ではないという事なのだろうか。
「とりあえず回りくどい事はなしにして単刀直入に言うね、あたし達の女王が魔王と会う事を望んでいる。可能なら里の方に来れない?」
「え、里……てエルフの?」
「…正気か?人間や魔物など踏み入れた事も無い聖域と聞くが」
クレイとカリア、バルバもテシの言った事が信じられなかった。エルフの里など人も魔物も出入りする事など無い。エルフのみが暮らす場所。そこに魔王軍の長であるシュウを女王自ら会う事を望んでいる。
伝説の種族、その長と魔王軍の長が会うなど想像もしてなかった。それが実現しようとしていた…。
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