第4話 圧倒する勇者と魔王

プージ王国


大国で知られるヴァント王国と強い親交があり、その国ほど大国ではないが騎士団を揃える魔王軍に対抗する国の一つ。

魔王軍が現れるようになってから腕利きの冒険者を勧誘して騎士団の勢力を大きくさせようと動き、以前よりも騎士団の強さは増している。

強固な守りに安心し人々は日常を過ごして暮らしていた、その暮らしをぶち壊すかの如くとある知らせが届くその日までは…











「こ、国王様!」

慌ただしい様子で兵士の男一人が国王の座る玉座へと駆け込んで来た。

「こら!何だその慌てふためいたみっともない姿は!それでも誇り高きプージ王国の騎士か!?もっと堂々と落ち着いた行動を心掛けんか!」

兵士の慌てた姿があまりにみっともなく見えたのか国王の傍に控える老人、格好からして大臣の地位であろう男がその兵士を一喝して注意する。

「は、は!申し訳ございません!しかしご報告が…」

「何だ?申してみよ」

兵士は慌てて敬礼し謝罪、その前の玉座に座る恰幅のいいプージ王国の国王が兵士へと何があったのか報告を聞く体勢をとった。



「ま…………魔王軍が我がプージ王国に大軍で攻め込んで来ています!!」

「!!な、何ぃ!?」

「そ、それは誠か!?」

兵士の報告に国王、大臣は一斉に驚いてさっきの兵士と同じぐらいに慌てふためいた。誇り高きプージ王国の騎士としての心構えは何処に行ったのか、これでは示しがつかない事は明らかである、しかしそんな事を言ってられない程に事態は深刻だ。

「はい!偵察隊が魔物の大軍がこの国に向けて動き出したとの事です!」



「こ、国王…!」

「魔王軍がこちらに来たなら、大至急ヴァント王国にお知らせするのだ!その援軍が来るまで我々で魔王軍を食い止める!これしかあるまい!」

「!そうですね、ヴァント王国の騎士団と我が騎士団で力を合わせれば魔物の大軍相手にも勝利する事は可能なはず、此処は守りの戦いでまいりましょう!」

「では、そのように準備を進めて行きます!」

伊達に国の主を務めていないようで国王は今の自分の騎士団は確かに強いが魔王軍の大軍相手に打ち倒す事は難しいと判断し、ヴァント王国へ使いの者を送り同盟国の援軍が来るまで戦う。これが現時点での最善策である事に大臣も賛成し、それを聞いた兵士は早々にその準備へと移って行った。








平原を馬に乗って駆け抜ける騎士の一人、彼はこの戦に選ばれずヴァント王国へ魔王軍襲撃の知らせを伝えるという重要な任務を任された。

速さに関しては彼の愛馬の右に出る者は騎士団内にいない。騎士の中でも随一の機動力を持った彼だからこそ任された伝令係、この任務は素早く絶対やり遂げなくてはならない。




「よお、お前一人だけお使いの任務でも渡されたか?それとも自分だけ国を捨てて助かろうって腹かい?」

「!?」

その時突然声が聞こえて馬に乗る彼はぎょっとなった。一体何処からと左右を見るが姿は無い、前や後ろにも姿が無い。

「空から丸見えなんだよ!!」


ザンッ


「ぐああ!!」


真上から翼を羽ばたかせて斬撃を振り下ろす、その一撃に彼は落馬し地面に転がり落ちて倒れる。



「この俺様、バルバに狙われたが最後。まあ運が悪かったと諦めてとっとと死んでくれや人間!」

彼の馬による機動力を凌ぐ空の軍団を束ねる長バルバにとってはこのような強襲は朝飯前、彼は空から偵察していて彼の動きにいち早く気付き伝令を阻止せんと動き出していた。

「ぐ…!この、魔王軍めぇ!!」

敵である魔王軍を見て騎士として倒す事が今感じている痛みを凌駕したか立ち上がり剣を取る、騎士は反撃の一撃を浴びせようと猛然と向かった。



「遅ぇなぁ、欠伸が出るぐらいに遅すぎるんだよ!」

ズバッ


「がっ…!」

騎士の剣がバルバに届く事は無かった、バルバからすれば騎士の動きは遅く感じて好きに料理出来る程。それぐらいに実力差があり過ぎた。

その剣が振るわれる前にバルバの剣が騎士の身体を切り裂き、鮮血が飛び交う。地面に倒れる騎士の身体からは血が止まらず彼は最早この一撃で助からないという事は明白だった。

彼の伝令の任務がバルバによって容易く防がれる、ヴァント王国の援軍を待って希望を持ち戦うプージ王国の者達がこれを知ったらどれだけ絶望するのか。



「さあて、俺は今回ヴァント王国に逃げる雑魚を掃除するって役目で…後は初陣の勇者に任せりゃいいか」

バルバは騎士を残して空高く翼を使って飛び、上空から戦況を見守る。









「魔王軍、マジで此処に攻めて来るのか……」

守りの陣形を敷いてプージ王国へと通じる巨大な門の前で魔王軍を迎え撃つ騎士団達、此処を突破されれば王城は目と鼻の先なので絶対に此処を抜かれてはならない場所だ。

その騎士の一人が本当に魔王軍が来ると思うと不安な気持ちに襲われていた。

「大丈夫だって。いくら魔王軍が強大だろうがこの門は破れやしないぜ」

もう一人の騎士は余程門の守りに自信があるのか魔王軍恐るるに足らずといった感じだった。今回はヴァント王国の援軍が来るまで守りの戦いを続ける、強大な魔王軍と戦うのは自分達だけじゃない。強力なヴァント王国騎士団と組んで戦うなら勝てるという安心感があるせいか。




しかしその考えは甘かったと後悔する、いや、実際は後悔する暇も無かったかもしれない。




ドガァァァーーーーーーーーーーンッ


「!!!???」

「うわああ!?な、なんだなんだ!!」

突然門が突き破られる破壊音が響き渡る、騎士団達に動揺が走る。その門を突き破る巨大な手。門はその手によって破壊されたのだ。



破壊された門から姿を見せたのは巨大な石人形(ゴーレム)。その後ろからこの威力を見ていた者が居る。



「あのクレイという少年、こんな強い石人形を作り出せるとは」

「伊達に不死身の軍団の長を張ってはいない、という事さ」


勇者カリアと魔王シュウ、本来ならば争う勇者と魔王が手を組んで一つの国へと攻め込んで来ていた。石人形という強力な兵器を持って。



「それで、戦えるのかなカリア?相手は同じ人間だ」

「今更迷いは無い、人と魔が共に暮らすのに障害となるなら……潰す」

「それは彼らに裏切られた事も上乗せされてるよね」

カリアは剣を抜き取り石人形と共に同じ人間であろう騎士団へと切り込みに行く。



「な!?何故……」

騎士の一人がカリアの姿を見て驚く、しかし驚いたのも束の間。次の瞬間にはカリアの剣によって騎士は倒される。



ズバッ  ドシュッ  ザシュッ


「がはっ!」「ぐわっ!」「があっ!」

一切の躊躇も無いのかカリアは同じ人間の騎士団達を次々と切り捨てて行った、一体何が彼女をそうさせるのか。余程裏切られた事が許せなかったのか、それとも人間と魔の者達が手を取り合う世界を絶対に実現させるという気持ちからか。

どちらにしても人間の希望であるはずだった勇者に騎士団達は剣を向けられ次々と倒されているというのは揺るぎない事実。更に敵は勇者のみならず、石人形の振るう拳の前に騎士の剣が歯が立たず纏めて叩き潰されて一人、また一人と騎士が倒れていった。



更に彼らに勝ち目が無い理由はもう一つ。

「ぎゃあああああ!!!」


ゴォォォーーーーーーッ


地面から吹き出す地獄の業火に騎士団が飲み込まれてその身を焼かれ絶命していく、それを操っているのは子供。しかし彼こそが魔王軍の頂点に君臨する存在、魔王。

こんな少年が魔王であると彼らが気づく前に彼らは命を散らす、一人。また一人と。

勇者カリアと魔王シュウ。強大な二人の力の前にプージ騎士団は抗う術が全く無かった……。




「ほ、報告します!」

兵士が慌てた様子で玉座に座るプージ国王の所に駆け込む、大臣がまたその様子に注意をしようとしていたが次のその報告によってそう言ってる場合ではない事を嫌という程知る事になる。

「騎士団達が全滅!門を破壊されました!」

「なんだとぉ!?あれだけの守りを敷いていたではないか!」

騎士団達の壊滅、その報告が信じられず国王は声を荒げた。その姿から動揺が伺える。

「それが、巨大な石人形に門を破壊されて更に敵の剣と魔法が信じられないくらいに強すぎて歯が立ちません!」

ヴァント王国が来るまで守りの戦いで時間を稼ぐつもりだった、しかし彼らはそれを嘲笑うかのように門と騎士団を粉砕。使いのものを出してから1時間どころか30分もまだ経過していない。

こんな短時間で守備重視の騎士団が壊滅が信じられなかった。いかなる屈強な者達が相手だろうがこんな短い時間でやり遂げるのは不可能なはずだ。



「国王様!これはもう…勝ち目がございません!逃げましょう!」

「う、うむ!そうだな…此処から裏手に出て逃げればまだ助かるはず…」

最早国を守るよりも自分の命が優先になってきた国王と大臣、目の前に危機が迫って来て今更恐れの方が強くなってきて逃げ出そうとしていた。

「お前達は我々が逃げるまでになんとしても時間稼ぎをしろ!」

「え!?そ、そんな!」

更に兵士には逃げる事は許さず自分達が逃げるまで戦って時間稼ぎをするよう命じて兵士は困惑の表情だ。そんなみっともない言い争いをしている間、それは訪れた。



「これがプージ王国の主とは、まあ…せめて華々しく散ってくれ」

その声が聞こえて国王達が振り向くとそこには黒い服装の少年、そしてそれが国王達が見た最期の光景となる。

それは魔王シュウであり、彼は杖を持つ手とは逆の手に雷の力を帯びていてそれを巨大な雷の矢として国王達へと飛ばし、その者達は雷の矢によって絶命したのだった……。



こうして魔王シュウ、そして勇者カリアの襲撃によってプージ王国は国王が死んで壊滅。

それは1時間足らずで制圧した魔王軍の圧倒的な力を世間に知らしめる結果となった。











「国王は死に、プージ王国はおしまいだが…残った民はどうするつもりだ?」

戦いを終えて剣を収めるカリア、彼女は勇者と呼ばれていたが同じ人間の騎士団に剣をついに向けた。これでもう後戻り出来ない所まで来ただろう、カリアに後戻りするという気持ちは無いが。

カリアは民についてどうするかをシュウへと尋ねる。


「丁重に扱うさ、特に女性と子供と老人はね」

シュウは戦う力の無い民をその手にかけるつもりは無い。魔王軍は幾度となく国の侵略を続けてきたが民の命は取っていない。ただその分自分達に向かって来た騎士団等の敵に対しては容赦が無かったが。



「この国は元々重い税金によって搾り取られて苦しんでいた、それが魔王軍によって突然その国が滅ぼされる。……シュウ、お前それを知っててこの国に攻め込んだのか?」

「知ってはいた、けどそれで国を滅ぼして民を救う……て考えているなら違うね。此処の国を拠点にすれば魔王軍にとって都合が良いんだ。地形的に攻め込まれにくい。まあこれで重い税金から解放されて魔王軍に感謝とあるならそれはそれで有難いけどね」

プージ王国は国の方針によってかなりの重い税金を国民から搾り取っていた、それにより城の生活は豊かで街の生活は苦しく国に反感する者も少なくない。

そんな者がプージ王国に対する愛国心というものはほぼ皆無だろう。それでも国を滅ぼされ行き場を失う者は居る、その者達を魔王軍は保護していく。力の無い民の命を奪うような事はしていない、世間の魔王軍のイメージばかり聞いていたので実際会わなければカリアはこれを知らないままだったかもしれない。



「……それでも、これによって家族を失う民も必ず居るだろうがな。騎士団に身を置いて戦いの中で命を落とす…その家族が悲しまない訳がない」

劣悪な環境でもそこに家族は存在する、国の方針が最悪だろうとその騎士団の元で働き家族を養う者も居るだろう。重い税金から民を救ったというのは美談に聞こえても結局騎士団を滅ぼし、人を葬った事に変わりは無い。それで魔王軍を恨む者も確実に居るだろう。

無論それが分からないシュウではない。それぐらいは分かっている。

だから彼は抵抗出来ない民は殺さず保護してるのだろうか、その罪滅ぼしとして。

「…それはこれまで私が葬ってきた魔の者にも言える事か」

カリアはシュウと手を組む前にかなりの数の魔物達と戦ってきた、そしてその剣で何度も相手を葬ってきた。魔物達にも家族がある、それを思うとカリアも侵略してきた魔王軍とやっている事が変わっていなかったのかもしれないと頭の中で振り返っていた。

「……だからと言って止まるつもりは僕には無い」

「だろうな、それで止まったらお前達魔王軍は此処まで侵略など出来ていなかったはずだ」

どっちにしても誰かが悲しむ事は避けられない、だからと言ってシュウに止まる選択は無い。魔王軍が、その長がそんな同情をいちいちして止まっていたら頂点に君臨する魔王など務まりようがないのだから。



多くの戦火の煙が天へと登るプージ王国の王城をカリアとシュウ、プージ王国を滅ぼした勇者と魔王は共にその滅び行く城を見上げていた…。

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