第219話

 夏休みに入ってからもサイコロバトル大会に向けての練習をメインに活動して、他の仕事は延ばせるものはお願いして延ばしてもらい、できないものは申し訳ないと思いながらもお断りすることになった。


 特にドラマの出演依頼。セリフを覚えたり撮影に時間がかかるなどの理由から今はちょっとできそうにない。


 その中にはマリさん(南野マネージャー)から、ドラマ(ゲストとして)出演依頼もあったけど、こちらの状況を理解してくれているのか、それはサイコロバトル大会が終わってからの話で、詳しい話は大会当日に……とされていた。その心遣いがうれしい。


 たぶん南条グループからも誰かサイコロバトルに参加するのだろうけど、大会会場で会えるのであればお互い時間的負担も少ないだろうし、当日お会いするのを楽しみにしています、と返事をした。


 そうそう、夏にも女性と男性が仲を深めるために自治体が行っているイベントがある。


 ただ、念体で暑さを緩和できる女性と違い、男性は特に夏を嫌う。クーラーの効いた部屋からまったくでなくなるのだ。理由はもちろん暑いから(ほとんどの男性がぽっちゃり体型)。


 だから一方的に女性側(社会人のみ)が気になる男性の自宅に役所経由でアピール写真を送るだけのイベントになっており、お見合いパーティーほどの効果はない。


 元々が女性を意識させる事を目的としたイベントらしいからこれでも問題ないらしい。


 ちなみにその手続き方法については(男性は知らない)、すべての男性のプロフィール(情報=お見合いパーティー時の情報と全身の写真あり)が役所で閲覧できるようになっており、その男性のプロティールをプリントアウトして自分の送りたいアピール写真と一緒に役所に提出する。


 去年の俺(記憶が蘇る前の俺)は母親に丸投げだったから、今回はキチンと目を通さないと。


 役所経由で届いた女性からのアピール写真は思ったよりも少なかったけど、お見合いパーティーで同じ席だった大高望さんと、内木暗さんと、太井富子さんと、尾宅可奈さんからのアピール写真を見つけた時には懐かしさと共にうれしくなったよ。


 季節が夏だからかみんな水着姿のアピール写真で驚いたけど。


 ちなみに女性は普通にプールや海に行くので色々なデザインの水着があるが、夏にほとんど外出しない男性の水着はウエットスーツのようなものしかない。


 内心この結果はちょっとショックを受けていたりする。

 自惚れていたんだ。女性より人数の少ない男性は、男性というだけでモテるというのに。


 俺は他の男性よりも接する機会があるから(女性から)声をかけられるだけなのだ。勘違いしないように気をつけるのと同時に俺を好きだと言ってくれる人(妻や婚約者たち)は大切にしようと思ったよ。


 そのような結果になった原因が、お見合いパーティー時の偽装した写真が使われており、剛田武人(本人)だと気づいた(覚えていた)人だけが送ってきた事と、直接(こちらの方が多い)郵便受けに届いた大量のアピール写真にはメッセージが添えられておりファンレターだと勘違いした事にあるのだが、その事を俺は知らなかった。


————

——


「いやーすごい人だったね」


「警備員さんをたくさん配置してくれたアオイさんに感謝だね」


「こうなる事を予想してたんだね」


 中に入ってすぐにスタッフさんから控室に案内された俺たち。


 サイコロバトル大会は色々な媒体で宣伝していたこともあり観戦チケットは販売されて数時間で完売するほどの人気振り。


 驚いたことに、前座で俺たち武装女子が歌うこと以外の情報はなく、誰が出場するのかも当日までのお楽しみという体で販売されたのにもかかわらずこの結果だった。


 今日までには色んなウワサが流れていたから、興味本位で購入した人もいるかもしれないが……


 例えば、今回の大会には4家枠というものがあって、西条家からはぽっちゃり男子が、東条家からは沢風くんが、南条家からはシャイニングボーイズの後輩が、北条家からは男心具(ダンシング)メンバーから選ばれた4人、が出場するんじゃないかと。


 俺も西条家のぽっちゃり男子とウチの学園のサイコロ部が出場する事くらいしか知らないんだけど……

 あとは、先ほどオトカさんが話してくれたテレビ女性のアナウンサーチームくらいかな。


 実際どうなんだろうね俺にも分からない。控室にもまだ置いてないし。


 ちなみに男心具(ダンシング)は北条グループ系列の大手芸能事務所、北条プロダクションからデビューした6人組みの男性アイドルグループ(歌って踊れるアイドル)。

 アイドル好きのつくねからの情報によると歌よりもダンスに力を入れているらしい。踊れる男子はそれだけで人気が出るらしいから。

 以前は沢風くんが踊ってみた動画をアップしていたけど、今はどうだろう、彼の最近の動画はよく知らない。

 でもダンスはしていなかったと思う。だから、男心具(ダンシング)はデビューしてすぐに人気が出た。


 それからかな。サーヤのみんなからアルバムを出して欲しいと言うDMが大量に届くようになったのは。以前からもあったけど届くDMの量が段違いになったんだ。


 驚くと同時に嬉しくもあり、ネネさんの知り合いの音楽制作会社を紹介してもらい販売に至ったんだけど、初アルバムだったので武装女子のロゴマークの入ったキーホルダーともう一つ特典をつけた。


 それはお泊まり会の方で前唐さんが作った新曲だ。


 その日は朝からお泊まり会の準備をしたさおりたちが我が家に来て、サイコロバトル大会に向けての合宿みたいな感じになってすごく楽しかった。


 前回同様、途中から話が脱線してみんなの趣味の話になったり、さおりたちも俺の家に自分の部屋(将来の部屋)が欲しいと言う話しになったり、他にも色々な話をしたけどちゃんと新曲はでき上がった。


 できた曲は宇宙戦機バル・キューレヘブンのアーリーオンリーライトによく似た曲。


 たぶん前唐さんは前世の記憶があると思う。でも、それで誰かに迷惑をかける訳でもないし、俺も好きな曲が歌えるようになってうれしい。このまま黙っている方が無難だと判断した。


 この曲は俺だけが歌っていた今までと趣向を変えて、1番を俺が歌い2番を他のメンバーが歌うようにもしてみた。


 前唐さんにそう提案されたからでもあるけど、2番を4人で歌っているバージョンと、さおりだけが歌うバージョン、ななこだけが歌うバージョン、つくねだけが歌うバージョン、さちこだけが歌うバージョンと色々と試して、思ったよりもいい感じなったので、ミニアルバムの特典としてその全てのパターンを収録している。

 でも、ライブで歌うかは今のところ未定だ。

 理由はみんなが歌っている時に俺が手持ち無沙汰になるから。

 みんなが盛り上がるようなパフォーマンスを考えて俺がそれをできればいいんだけど、今は思いつかない。


 そうして販売したミニアルバムは特典が良かったのだろう(たぶん)今でも信じられないくらい売り上げ枚数が伸びているんだよね。


 余談だが、前唐さんは武装女子会所属のネッチューバーになった。ついでに、さちこの手作りお弁当動画(顔は出していない)も武装女子所属にしている。


 今は前唐さんの作り出す曲や動画をどんどん宣伝していき収入を安定させることに注力しているが、ゆくゆくは所属するネッチューバーを増やすことも視野に入れているそうだ。

 

 このうち芸能部門なんかもできたりするのかな……なんて事を考えていたら、控室のドアをノックする音がする。


 コンコンコン。


 新しい衣装に着替えて、髪をななこ(今日はななこ)にセットしてもらっていた俺だけど、ドアを開けたアヤ(妻でありマネージャーでもある)さんとミルさん(防犯対策)がアオイさんとアカネを連れて戻ってくる。先にミルさんから念話が届いていたので驚きはしない。

 

「みなさんおはようございます。今日はよろしくお願いしますね」


「みんなおはよう。タケトくんおはよ」


『おはようございます』


 立ち上がりみんなで挨拶を交わすとアオイさんから今日の参加選手のリストを手渡された。


「お」

 

 参加選手リストに気を取られていると、2人の後から南条さんと東条先輩の姿と、どこかで見た事ある人物が顔を出した。


「皆様おはようございます。タケトきゅ……こほん。タケトくんお久しぶりね……それで「おはようございます。ごう……こほん。タケトさま、肥田くんと尾根井くんがあなたが応援してくれるから無惨な姿は見せられないと、頑張っていましたわよ。活躍を楽しみにしていてくださいね」


「東条麗香っ、貴様なぜ私の邪魔をするっ!」

「あら、そうでしたの? てっきり南条静香さまの挨拶は済んだものだと思ったのですが」


 いがみ始めた2人を押しのけるように前に出て来たある人物。


「失礼しますね。皆さまおはようございます。剛田武人くんはお久しぶりですね。私は北条まり子と申します。以後お見知り置きを、と言いたいところですが、以前お会いしているのですが覚えていらっしゃいますか?」


「……はい」


 以前から感謝のお手紙はもらっていた。そこにはお礼をしたいともあったけど、俺が勝手にやった事だと丁重にお断りしていたのだ。


 その理由は、治した時は相手が大物演歌歌手だと本当に知らなかったのだが、あとでその事を知ってしまったから。

 大物演歌歌手だから治したと思われたくなかったからだ。


 まさかこんな所(サイコロバトル会場)で本人に会うなんて思わなかった。これはちょっと居心地が悪い。


「その節は大変お世話になりましたね」


 だって、にこにこ笑顔を向けられているけど圧がすごいんだ。

 

 


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