第216話
武装女子会(会社)にテレポートして、社員さんやアルバイトのみんなに挨拶しながら奥に進むと、さおりたちと仲良く話をしている前唐さんがいた。
「あ、タケトくん」
「こっちこっち」
「あはは、ども」
みんなから手を引かれて、いつものソファーに腰掛ける。
売り上げが好調で社員とアルバイトが増えた武装女子会は、手頃なテナントビルに移転した。
ワンフロアまるまる事務所になり以前より広くて働きやすくなったとみんなが言っている。
みんなで頑張った結果なんだけど、特に秋内さん陣営(勝手にそう思っている。小宮寺さん、早瀬さん、日間名さん、木垣さん)は遅くまで仕事を頑張っていたからね。
新しい事務所にはシャワー室や仮眠室、あと食品用自販機があり、飲み物や、お菓子、パン、カップ麺などは無料で好きな時に好きなだけ手に入れることができるようになっている。
小宮寺さんの実家がそういう仕事をしていて、その繋がりで導入しようという話になったけど便利だね。そして美味しい。
ただ少し心配なのは、これで遅くなっても会社に泊まればいいから安心だねっていう会話をみんながしていたこと。
前から思っていたけど、どうもこの会社には秋内さんを筆頭に仕事大好き人間ばかりいるように感じるんだよね。
男の俺には何の権限もないけどブラック化しないように気をつけておこう。
そんなことを考えつつ、フロア中央に設けられた応接ソファーに腰掛ける。
新しい事務所でも応接ソファーが俺の席だからね。
そうそう、ここでは部署ごとにパーテーションで区切られているけど、俺の個室(パーテーションで仕切られただけ)もあるからテレポートが気軽に使えるようになった。
「アオイさんのとこ?」
「忙しかったんじゃない?」
「うんそう。ちょっと練習をしてたけど、ちょうど切り上げようとしていたところだったから大丈夫だよ」
俺がソファーに腰掛けると、すぐにじゃんけんに勝ったらしいさおりとななこが俺の両隣に座り、対面に前唐さんとさちことつくねが座った。
ここに私が座るの? と言いたげな顔をしている前唐さんを、いいのいいのと言いつつ、さちことつくねが座らせたんだけどね。
「それで……」
話題は、俺の家に前唐さん姉妹が住むようになった経緯から始まり提供された楽曲と美鈴ちゃんねるについて……話していたはずなのに、途中から話が脱線してなぜか俺のウチでお泊まり会をしようという話になっていた。
一緒に曲を作ろうとか言ってる。わざわざ俺の家でしなくても……って思うけど、前唐さんはバイトが忙しいから時間を合わせるのが大変みたいでそうなった。
明日から夏休みだし、俺も前唐さんの作る曲には興味がある。
美鈴ちゃんねるには今のところ数曲しかアップされていないけど、そのどれもが前世のアニメで流れていた曲にとてもよく似ているからね。
今のところロボット系はバル・キューレシリーズしかないけど、今世では類似作品(前世のアニメと似た作品)のないアニメはたくさんある。
そんなアニメの曲を再現してくれないか期待しているんだ。
しかし、俺の家とはいえ、時間的に俺も前唐さんの部屋に入っていいものか迷うところだね。
——ふう……ん?
一息ついたいたところで、ふとテーブルの角に置いてあったオルゴールに目が行く。
これはホログラムオルゴール。今では様々な企業からコラボ案件が殺到しているけど、初めて商品化したものだ。
このホログラムオルゴールは、差し込むカートリッジによって奏でる音楽と立体的に映し出される映像が変わるようになっている。
ただ、使われている技術はすごいけどオルゴールはオルゴール。
嗜好品にしては値段が高いためあまり売れている商品ではなかった。
売れていない商品だから武装女子会に話が来たらしいんだ。
それでこれ、俺たち武装女子のロゴマークが入ったホログラムオルゴール。これは販売前にいただいたサンプル品だ。
もちろん通常のカートリッジ(メジャーな曲が数10曲に、花びらや夕焼けや星空などの風景映像が入っている)とは別に武装女子のカートリッジが付いてくる。
武装女子のカートリッジをセットして蓋を開けると俺たちが演奏している立体映像が現れて、その映像に触れる度に俺たちの衣装と流れる曲が変わるようになっている。
俺はそのサンプル品を見てすぐに気に入り、自分で購入した物を身内(母と妹のマイ、香織の実家、ネネさんの実家、アヤさんの実家)に送ってもらったんだけど、高価だしそれほど在庫のあった商品ではなかったためすぐに完売してしまった。
話を持ってきた会社からはとても感謝されたのだが、すぐに、買えなかったお客様から苦情が殺到して今はその対応に追われているらしい。
ちなみに、その会社は一ノ宮先輩の叔母さんの会社。
大変だけどうれしい悲鳴だから気にすることないと一之宮先輩からも感謝されている。
ただ、一之宮先輩は、お礼は身体で払ってもいいかな? って揶揄ってくるから反応に困るんだよな。
そんなことを思い出しつつ、ホログラムオルゴールの蓋を開けると俺たち武装女子の曲がオルゴール調で流れ、それと同時にホログラム映像の俺たちが演奏を始める。
「うわ〜ステキ」
ホログラムオルゴールを初めて見たと言う前唐さんは目をキラキラさせてオルゴールに釘付け。
「うわ、うわ、うわ〜」
そんな前唐さんはホログラム映像に触れては歓喜の声を上げていた。
「ふふ」
初めて見た俺たちの反応と同じでつい笑ってしまう。さおりたちもそう思っていたのか同じように笑みを浮かべていたが、
——ん!?
俺はそこで閃いた。ぽっちゃり男子みたいに歌に興味がない観戦者たちでもホログラム映像をうまく使えば前座(俺たちの演奏)から楽しんでもらえるのではないかと。
「あのさ、今日サイコロを操作しながら歌の練習をしている時に思ったんだけど、歌に興味がない人には前座の俺たちの演奏は退屈だと思うんだよね? それで……」
俺は思いついたことをみんなに話してみた。
ホログラム映像の輪っかを俺のブジンが通過すると会場に花火(映像)が上がったり、丸いボールみたいな映像をブジンのライフルで撃ち抜くと音符やハートが会場にいっぱいに広がったりとか、思いつく限りの話し、そんなことができるならしてみたいと。
「それはステキですね」
「いいと思う。絶対楽しい」
「いいね、いいね。やろうよ」
「うん。想像しただけでも楽しくなったよ」
費用や技術的にできるかまだ分からないけど、みんなは概ね賛成の模様。
「あ、あの。真っ黒なサイコロをタケトくんのサイコロがやっつけたりする演出はどうですか?」
ひとり前唐さんがバトルっぽい演出も取り入れてほしいと言う……サイコロバトル大会だから? それとも、あのアニメの影響? 分からないけど、想像しただけでもカッコいいと思ってしまった。
正直な気持ちは俺もやってみたい。でもな……俺は前座でしかない。
メインは大会に参加するサイコロバトラーたちなのだ。
目立ちすぎるバトル演出はちょっと控えた方がいいかも、なんて思いつつ、大会までの時間もないことだし、思いついたことを早速アオイさんとアカネに相談してみることにした。
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