第215話
みんなの視線を背中に感じつつも特に気にするかとなく俺はサイコロを飛ばしては歌を歌い続けていた。
——うーん。
サイコロを操作しながらでも歌うことに慣れてくると、ただサイコロを飛行させているだけでは飽きられてしまうのではないかと思うようになってきた。
というのも、今回の大会はあくまでもサイコロがメインの大会、俺たち武装女子がステージに立ち会場を盛り上げるのとはちょっと趣旨が違う。
それで話し合った結果、今回、俺たち武装女子はコックピット風の席に座り演奏する姿を大型モニターに映し出すという演出をしてみることになった。
まるでサイコロに搭乗しているかのように装うのだ。
ただ演奏しているみんなはサイコロを操作できないので、最終的にはスタッフさんたちがみんなのサイコロを操作、といってもゆらゆらと音楽に乗っている様にサイコロ本体を揺らすだけなんだけど、だからバトルフィールドを自由に動き回るのは俺のブジンだけになる。
俺のブジンだけがバトルフィールドの上空を飛び回るんだ。
今までにない演出で面白いと思っていたんだけど、いざ実践してみると、ちょっと物足りなさを感じる。
別の大型モニターに俺のブジンがアップで映し出されているとはいえ、これではダメだ、すぐに飽きられてしまう。
——はぁ……
特に前座なんか、ぽっちゃり男子みたいに歌に興味がない人には響かないし、退屈でしょうがないかもしれない。
応援歌にしたって俺たちの歌はバックミュージックのようなものでメインはサイコロバトルなんだ。
参加者はサイコロバトルに勝利したい。その妨げになってはいけないんだ。
それでも俺の歌があったからいつも以上に力を発揮できたって思われたいのは……俺のわがままなんだろうな。
——って、何暗くなってるんだ俺は。
4家が関わっているサイコロバトル大会。ここで歌いたいと思っていた大物歌手はたくさんいたはずだ。
サイコロ販売と同時に流れたCM(俺やぽっちゃり男子が出演中)、最近では、そのCMの中で、このサイコロバトル大会の開催日時が流れるようになっている。
色々な媒体で流れているから知らない人の方が少ないだろう。
実力はないくせに、男だからこの仕事がもらえたのだろうと落胆されたくない。
何か参考にできそうな動画はないかな……ん、アクロバット飛行?
面白そうな動画を見つけて真似をしたくなった。それは飛行機の曲芸的な飛び方についてだ。
宙返り、宙返り反転、横転、錐(きり)もみ、上昇反転、背面飛行など……
すぐにできそうな宙返りからやってみたんだけど……おかしいな。サイコロを安定させるために少し腰を落としたような姿勢(滑走路を飛び立つ前の状態)で飛行させていたけど、そのまま縦回転をさせると、思っていたイメージとちょっと違った。俺的にはぜんぜんカッコよくない。
少し捻りを入れてみたけど、やっぱりイマイチ。ロボットアニメではもっとカッコよく飛んでいた……と思ったところでピンとくる。姿勢だ。サイコロの足を伸ばし少し前傾姿勢で飛行させてみよう。
——おお。
サイコロを安定させ難く、ぐらぐら揺れてコントロールがかなり難しくなってしまったけど、飛行時の見た目はかなりいい感じになった。
「ふう」
念力バッテリーが無くなるまで、バトルフィールドの上空を歌いながらアクロバット飛行させていたけど、ちょっとハリキリ過ぎたかも……集中し過ぎたせいで少し頭痛がするし喉もカラカラだ。
すぐにヒーリングをするから頭痛は治るんだけど……
「タケトく…… 「タケトくん、どうぞ」む、姉さん。邪魔はよくない」
——アカネ? とアオイさん?
いつの間にか両隣にいたアカネとアオイさん。彼女たちがさっと素早く飲み物を差し出してくる。
いつから居たのか気になるが、喉が渇いていたのでこれはありがたい、と思ったけど……なぜか今日に限っては競い合うようにペットボトルを差し出してくる……心なしかテンションも高いような。
困ったな、これではどちらも選べない。チラリとミルさんを見ればコクリと頷いてくれる。
よかった、ミルさんがアポートで飲み物を取り寄せてくれるらしい。
悪いけど今回はミルさんのお茶をいただくことにしよう。
「アカネもアオイさんもありが、うぐっ」
2人から差し出された飲み物はペットボトルのお茶。
今は受け取るだけにして後からいただこうと思ったところに、彼女たちが突然ペットボトルのキャップを外して、そのまま俺の口に……がぼぼ。
「はい」
「飲む」
自分で飲める、飲めるから。
「アオイ様、アカネ様」
「あぅ」
「きゃ」
すぐにミルさんが引き離してくれたけど、ケホケホ、溺れるかと思った。
こんなこと初めてだよ。2人ともどうしたの?
「タケトくんに飲んで欲しくて……」
「飲んで欲しかった」
頬を染めつつそっぽ向く2人。姉妹だから、似てない様で似ている。
「タケトくんの新曲が私のハートに火をつけたの」
「私、タケトくんの歌をずっと聞き続けるから」
とても良かったと、歌の感想まで親切に教えてくれたのはうれしいけど、アカネの補佐役の西部京子さんと、アオイさんの秘書をしている西園雅美さんが大きなため息を吐き、困った顔をしながらこちらに向かってくるのが視界の端に見えた。
もしかして、2人とも仕事を途中で放り出してここに?
「アオイ様。今日はタケト様に挨拶するだけだとおっしゃられていましたよね? 今何時だと思いですか?」
「アカネ様、次の予定は先にお伝えしていましたよね?」
「雅美、待って。タケトくんの熱い歌が私のハートに火をつけたから、ほら、私のここ、今とてもポカポカしているわ」
「火なんてついてません。ポカポカは……なんですか? タケトくんを見て興奮でもしているのですか? はい、クールダウン」
クールダウンは人を落ち着かせる念能力。秘書さんの特殊念能力っぽい。
「京ちゃん、私の熱い思いもタケトくんに今伝えないと」
「はいはい、タケト様は婚約者ですものね。いいですよね。でも、それはまた今度にしてくださいね。今はぽっちゃり男子との打ち合わせの時間です。
デザートをお出して時間を稼いでいますが、あまり待たせますと勝手に帰ってしまいますからお急ぎください」
2人は渋々といった様子で彼女たちに連れて行かれてしまった。
その途中で俺の歌を聞いていた他のスタッフさんたちも西園さんから話しかけられた後に念能力を使われていたようだけど、
「あれ、お茶は?」
俺は差し入れてもらったはずのペットボトルがなぜかなくなっていて辺りを探していた。
「タケト様。こちらをどうぞ」
すぐにミルさんが代わりをお茶を用意してくれたけど……ホントどこにいったんだろう。
まあいいや。それよりも新曲がよかったと言ってもらえたことの方がうれしくてたまらない、
後半は曲に込められた想いを意識して歌ってみたけど……しまったな……
普通に歌っていた時との違いを聞きそびれてしまった。あまり意味がなかったかな?
初めは彼女たちにしろスタッフさんにしろ、反応がなかったからダメかと思っていたから気になっていたのに……
しかし、テンションが高くみえたのはなんでだろう。リラクセーションは無意識でも上空に飛ばせるようになっているし、仮にリラクセーションを過剰に受けていたとしてもあんな反応にはならないもんな……
ピロン♪
「ん?」
それから終業式を終えたさおりたちから連絡があり、ネネさんのスタジオまでテレポートで飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます