第208話 岡田(剛田)真衣視点
◯岡田 真美(剛田真美)
武人の元母親
◯岡田 真衣 (剛田真衣)ちゃん
武人の元妹 中学3年生
◯ 法賀律子(ほうが りつこ)
弁護士 34歳
◯西川友美(にしかわともみ)
弁護士 34歳
————
——
「お母さん早く来て! お兄ちゃんだよ、お兄ちゃんがドラマに出たよっ」
「まあ、ホントだったのね。今行くわ」
それからお母さんと一緒にドラマ『桐の学園II』を見た。
ドラマの中のお兄ちゃんが入院した時には、お母さんと一緒に泣いちゃった。
だって、本当にお兄ちゃんが入院したように感じたんだもん。しょうがないよね。
でも、やっぱりドラマの中のお兄ちゃんもカッコよかったな……
あとで、もう一回みようっと。
お兄ちゃんが出演しているテレビ番組は全て録画して大切に保存しているし、平日の早朝にある『サイキック体操で今日も元気』だってずっと録画している。
ごく稀に、お兄ちゃんが腕まくりをしているプレミアムバージョン(勝手にそう思っている)があるんだけど、その日はいい事ありそうでうれしくなるんだよね。
「うん。ちゃんと撮れてる」
今回のドラマも録画したけど、『桐の学園II』と『ドクターコトリ』のディスク版がでたら絶対に買いたい。
これは、今からお小遣いを貯めておかないといけないね。
自分の部屋に飾っているお兄ちゃんグッズを眺めて頷く。
ふふふ。ファンクラブに入会している私はお兄ちゃんを陰から支えるサーヤでもあるのだ。
——? 誰かの声が聞こえたような、お客さんかな?
自分の部屋でお兄ちゃんグッズを眺めて癒されていると、リビングの方から話し声が聞こえてくる。
「岡田様、どうか私にお任せください」
「そんな顔されて、法賀先生が気に病む必要はありませんよ。
あの時、法賀先生は私たち家族のことを真剣に考えて動いてくれましたよね」
「それは、その通りなのですが……」
「きっかけは、私がケガをして入院してからでしたが、そのケガも膝を少し擦りむいたくらいのもので、ほとんど心労で倒れたようなものでした。
色々と限界だったのでしょうね。そんな時に病院から連絡を受けた法賀先生が動いてくれたのですよ」
「……それが私の仕事でしたから」
「それでも、私は法賀先生に救われたと思っています」
「……」
「あの時は、あの子を心配しながらも、これで、あの子から解放されると思いホッとする自分もいたのですから」
「……」
それからお母さんは、お兄ちゃんは子どもの頃から他の子(男性)とちょっと違った言動が目立ち育てていくことに不安があったことをゆっくりと語った。
——言われてみれば……
私も思い出したように頷く。入学式(中学校)や卒業式(小学校)で見かけた同級生の男子生徒はもっと酷いものだった。
携帯ゲームや漫画に没頭しているのはいいけど、自分で歩かず保護官に抱っこされてくる男子生徒がほとんどで、保護官が少し離れると、お互いが自重せず譲り合うことを知らないから、すぐに口喧嘩を始めるのだ。
保護官の人がいなかったら式どころの話ではなかった。
あんな人たちが、お兄ちゃんのように、ネット配信を始めてみようとはこれっぽっちも思わないよね……
「お分かりですよね? 私は母親失格なのです。1度、あの子を捨てた私に復縁する資格はありません」
「それでも私は……今の武人くんの姿を見るとどうしても」
「ふふふ、法賀先生。あの子、立派ですよね。あの子が元気な姿で活躍していると、私も元気が出るんですよ。きっと、あの子を支えてくれる子たちが素晴らしいのでしょうね」
「……」
「法賀先生、それに西川先生。私はそれを壊したくない。頑張っているあの子の邪魔になりなくないのです。もちろん、あの子が困っていたり何かあれば我が身を削ってでも助けます。ふふふ。今度こそは……それが母親であった私にできる……もの……そのために……」
「……お、岡田様、落ち着いて下さい。武人くんの周りには優秀な方が沢山おりますから、そのようなことにはなりません」
「そ、そうですよ岡田様。それよりも真衣ちゃんは。真衣ちゃんは復縁したいと思っているのではないでしょうか? 今のままですと、会うことも、連絡をとることもできないのですから」
「……それは……そうかもしれませんね……わかりました。では真衣だけでも復縁できるように先生方のお力をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「それは……」
「もちろんです。お任せください。では今日のところはこれで失礼いたしますね」
それからすぐにリビングから人が動く気配がしたので、私は足音を立てないように自分の部屋に戻った。
知らなかった。
お母さんがそんなことを考えていたなんて。
お兄ちゃんが雑誌に載ったり、テレビに映つれば一緒になって喜び、早く元の家族に戻りたいね、と笑い合っていたのに。
——お母さん……嫌だよ。私だけ復縁して、お母さんはしないなんて……
私はチェーンを付けてネックレスのようにしているサーヤリングに触れる。
お兄ちゃんの側に居られない分、いっぱい応援しようと、ファンクラブに入会して一緒にサーヤになったよね。
ううん。私は気づいていたけど、気づかないフリをしていたんだ。
お母さんは一緒になって喜んでくれるけど、時々、夜中にスマホの画面を見ながら涙を流して、自分で自分が許せないと嘆いているのを。
スマホの待ち受けはあの時のお兄ちゃんのまま変わっていないことは知っている。
きっと、ひとり残してきた当時のお兄ちゃんの姿を思い出しているんだよね。
お兄ちゃんは大好きだけど、お母さんも大好き。私はお母さんを1人にしたくない。
私はサーヤリングを胸元でぎゅっとひと握りした後にリビングに向かう。
「お母さん、誰か来てたの?」
「ええ、もう帰っちゃったけど、ちょっとお客様が来ていたのよ。どうかしたの?」
「ううん。お母さんが片付けしてたから、そう思っただけ」
「そう? あ、そうだわ。この洗い物が終わったら、『ドクターコトリ』を見ようか? 明日武人くんが出るみたいだけど、お母さん、前の回を見ていなかったのよね」
「うん、いいよ。一緒に見よう」
お母さんが洗い物をしているうちに、私は以前お世話になった時にもらっていた法賀さんの名刺を探す。
——あった。
引き出しの中から探し出してすぐにスマホでパシャリ。
スマホを使って色々と調べてはいるけど、法賀さんに聞いた方が確実だと思ったのだ。
お母さん、お兄ちゃん、私も頑張るからね。
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