第207話 とある女性視点

「どうして、どうしてよ」


 これといった趣味もなく親しい友人もいない仕事人間の私の唯一の楽しみは、1週間分のドラマを録画して、その週末にまったりしながら鑑賞することだった。


「なんで『ドクターコトリ』と『桐の学園II』にど素人の剛田武人が出演するのよっ!」


 次回のみ、放送時間が土曜日と日曜日に変更されると次回予告時に表示されて、おかしいと思っていたが……


「なんでよ。なんで男はいつも、私の楽しみを奪うのよっ」


 以前、沢風和也が主役を務めるドラマがあったが、あれは最悪だった。


 大好きだった恋愛マンガ『私と彼』が実写化されて、その男性側の主役を演じたのが沢風和也だったのだ。


 男性が初めてドラマ出演していると騒がれていたが、私からすればセリフは棒読みで感情はこもっていない、立ち振る舞いだって周りが合わせている感が隠しきれていなくて、とても残念な作品となっていた。


 あんなど素人を使うくらいならまだ演劇部の学生を男装して演じてもらった方が100倍はよい作品になっていたはずだ。

 ちゃんとした男装女優なら数1000倍。


 大好きなマンガからの実写化だっただけに悔しくて悔しくて夜しか寝れない。じゃなくて、私はとても憤りを感じたんだ。沢風和也なんて出すんじゃないと。


 ただ、世間では主役を務めた沢風和也を大絶賛。

 彼は人気があったから視聴率がとれる。当然といえば当然なんだが、私からすれば私の楽しみを奪うク◯ヤローにしか見えなかった。


 しかも、人気があり確実に視聴率が取れると分かっている彼がその1作品で終わることはなく、映画や月9ドラマにまで出演し、駄作としか言えないお粗末な作品が数多く世に出ることになってしまった。


「やっと沢風和也がドラマに出なくなったと喜んでいたのに……なんで……」


 男に演技なんてできない。できるはずないのだ。あんな傲慢な生物は。

 

 この数ヶ月彼がドラマに出なくなったおかげで、ようやく私のまったりとした時間が帰ってきて喜んでいただけに、剛田武人が憎くてしょうがない。


「私の大好きな『ドクターコトリ』と『桐の学園II』を駄作へと変える悪魔めっ」


 週末、他のドラマを見て時間を潰していればあっという間に『桐の学園II』が放送される時間となっていた。


「2度と男性を起用しようと考えないよう辛口(正直な)コメントを送ってやるわ」


 そんなことを考えつつ『桐の学園II』が放送されているテレビ画面を睨みつけるように見ていれば、


「? へぇ、男のクセに演技、上手いじゃない」


 思っていたよりも剛田武人の演技がうまくて驚いた。


「剛田武人はアクションシーンも出来るのね」


 病徒から一斉に襲われていたが、それを華麗に躱して、男では考えられない速度で駆けていく。

 編集だと分かっているんだけど、


「……カッコいい」


 私はテレビに釘付けになっていた。沢風和也の時に抱いたガッカリ感が彼にはなかったのだ。

 むしろ彼の姿を見たい。もっと映してほしいと、気づけばそんなことを考えるようになっていた。


「やった」


 覚醒シーンがあり憎っくき風疹を瞬殺した時には自分の事のように嬉しくて思わず握り拳(ガッツポーズ)を作ってしまった。


「え、武人様……」


 でもそんな嬉しい気持ちもすぐに一転する。武人様が倒れてしまったのだ。


「なんで、寝たらダメだよ。起きないとっ、ねぇ。あ、日向ちゃん戻って、戻って武人様を助けてやって」


 主人公(月影と日向)を逃がすために覚醒したけど、それは無茶をしたからやれたことで、ボロボロになった武人様は入院してしまった。

 月影ちゃんと日向ちゃんがお見舞いに行ってお礼を伝えたところでドラマが終わってしまった。


「武人様、大丈夫かな」


 武人様が入院した印象が強くて残り落ち着かないが、明日は『ドクターコトリ』にも出演すると知っている。


 落ち着かない気持ちいいのまま首を長くして待っていれば、よくやく『ドクターコトリ』が放送される時間となった。


「ええ、なんでよ。武人様は大丈夫だよね? ちゃんと完治するんだよね?」


 武人様が病気になり都会に引っ越してしまった。

 その後、完治したという話を医者になったコトリちゃんが聞いていたのでホッとしたけど、武人様がもっと見たいと思った私は、ネットで色々と調べてグッズ商品を購入。

 そして、サーヤになっていた。


「そういえば……」


 色々と調べている途中、男性がプロレスに参加するというおかしな情報を見つけたけど、武人様とはまったく関係ないことだと分かりすぐに興味がなくなった。

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