第205話

【205話の登場人物(名前だけも含む)】


○剛田武人(主人公)

 高校2年生の16歳

 武装女子ボーカル(タケト)

 保護官1人

 妻5人、婚約者5人、婚約者仮(仮)2人

 子ども1人(花音)


◯面堂未留(ミルさん)

 施設育ち

 S級保護官

 タケトの妻

 オッドアイ

 26歳


◯中山綾子(アヤさん)

 武装女子会

 武装女子兼タケトのマネージャー

 沢風和也の元マネージャー

 タケトの妻

 25歳


◯南条静香(南条さん)

 南条グループ役員

 複数の会社の代表

 24歳


◯ 南野万理様(マリさん)

 南条グループ(部長クラス)

 南瓜芸能事務所

 シャイニングボーイズマネージャー

 28歳

 こっそりサーヤ


◯紫ゆう(紫さん)

 南瓜芸能事務所

 女優兼シンガーソングライター

 30歳、独身

 女子も好き

 ドラマ初主演『ドクターコトリ』

 女医、小鳥康子役


◯崎宮麻子(崎宮さん)

 南瓜芸能事務所

 大学生

 21歳、独身

 女優兼歌手

『桐の花学園II』

 けん玉の月影陽子役(ヒロイン)


◯浅間唯香(浅間さん)

 南瓜芸能事務所

 大学生 

 22歳 独身

 女優兼歌手

『桐の花学園II』

 おはじきの日向陰子役(ヒロイン)


◯念体……身体能力の強化

 念体1が1、1倍

   2が1、2

   3が1、4

   4が1、8

   5が2倍

   6が2、2

   7が2、4

   8が2、6

   9が2、8

  10が3倍以上


更新が遅くなりました。すみません。

—————————————————

————

——

「ふふふふ……」

「あははは……」


 俺を見つけた病徒(病み落ちした生徒)が気色を露わにする。


「くっ、こっちにも!」


 俺は病徒から目を離すことなく念体を纏うと来た道を引き返す。


「ふふふふ……」

「あははは……」


 病徒が一斉に襲いかかってくるが、念体を纏った俺はぐんぐん加速していき、一瞬にして病徒を振り切り、角を曲がってすぐの教室に逃げ込んだ。


「はあ、はあ、はあ、……なんなんだあいつらは。ここは俺が通う学校じゃないのかよ」


 俺はドアを押さえつつも、理解できない現実に絶望するかのように教室の壁に背を預けるのだった。


『はいオッケー。タケトくん! 君すごいねっ、すごく良かったよっ』


 俺のすぐ近くにはドローンに似た小型のカメラが数台浮いている。

 その内の1台から監督のそんな声が聞こえてきて、俺はホッと息を吐き出し、額の汗を袖で拭う。


「ありがとうございます。監督にそう言っていただけるとホッとします」


 ちなみに、そんなカメラを念動で操作するカメラマン(女性)は1台に付き1人いて、複数人いる。

 このカメラのいいところは念動で操作しているためまったく音がしないことだ。


『!? き、君は意外と素直なんだね。そのスタンスはいいと思うよ。

 じゃあ次のシーンからヒロインたちと絡むことになるから、そっちの準備が整うまでそこでちょっと休憩しといてね』


「はい。ありがとうございます」


 元気の良い監督はさすがというか、演技する人のやる気を引き出すのが上手い。


 まあ、俺は演技という演技をしているわけじゃなくて、ただ台本通りに動き、思いついた言葉を発しているだけなんだよね。


 台本には思いついたセリフを言って下さいとしか書いてないから、完全な俺のアドリブなんだけど、ここでの俺のセリフは大して重要じゃないんだろうね。


 でも色々な女優さんを見ているであろう監督から褒められるとうれしいよね。


 あ、そうそう、俺がさっき使った念体は、2度重ねがけをしている。


 念体の重ねがけはミルさんから禁止されていたけど、毎日鍛錬を続けた結果3回までなら問題ないことが分かり、ミルさんから許可をもらっている、


 俺の元々の念体レベルが1なんだけど、重ねがけを1回することで念体レベル2相当に、重ねがけを2回すると念体レベル4相当に、重ねがけを3回すると念体レベル8相当の効果になることが分かり、ここまでなら身体の負担もそこまでないと分かったからだ。


 ただし、4回がけはダメだ。できないことはないけど、ヒーリングを強く意識したとしても全身に激痛が走り意識が飛びそうになるから自分でも危険だと分かる。

 もちろん、ミルさんからも絶対に使用しないよう念を押されているから絶対に使うつもりはない。


 「さてと」


 次のシーンはこの教室から始まるから、監督に言われた通り俺はその場に座り、月影陽子役の崎宮さんと日向陰子役の浅間さんが来るまで休憩することにした。


 お昼休憩を挟み、午後から撮影している『桐の学園II』は学園を舞台にしたアクション学園ドラマだ。


 学園聖徒シリーズの2作目になり、月影陽子と日向陰子の2人がヒロインの病み落ちした生徒たち『病徒会』と戦う。


 その黒幕は学生時代に虐められた過去を持つ校長(狐字超・こうちょう)なのだが、病み狐に取り憑かれた半妖である。


 それで俺はというと、ある日の放課後、親しい友人が職員室に呼ばれた後、いつまで待っても戻ってこない友人が心配になり職員室に向かう。

 だが、その途中で、どこからともなく現れた、見るからに普通じゃない青い顔をした生徒、病徒から追いかけられ、訳もわからず逃げているうちに病み門を抜け病陰という病みの異空間に紛れ込んでしまう。


 そこは『病徒会』の本拠地でもあるが、現世には病み門を通らないと戻れない別次元の異空間。


 さらに、その空間では病み気が満ちており、その場に留まっているだけでも病み気に侵されつづけ、長時間その病み気に触れていれば病み落ちしてしまう恐ろしい空間でもあった。


 ただ、俺こと光田建人は現世でも珍しい念体術の使えるそれなりの家系と繋がりがあった者。

 かなりその血は薄いが無意識にその力(念体術)を使うくらいはしていた(本人は火事場の馬鹿力だと思っている)。


 後で、その念体術に反応して病門を抜けてしまったこと知るのだが、繋がりの薄い健人にそんな知識はなく、校舎から出られない、変な奴らには追いかけられる、非現実的な状況にパニックになりながらも、どうにか教室に逃げ込み震えて(絶望して)いた。


 そんな時に病み落ちした生徒を救うために何度もこの異空間に乗り込んで来ていたヒロインたちと出会い成り行きで共闘すことになる。


 台本を読んで分かったけど、ヒロインたちの使う武器(正確には退病器という)には病みを払う力があるらしい。

 彼女たちが扱うけん玉やおはじきのことだね。


 俺の武器(退病器)は月影陽子が予備に持参していた拍子木だ。火の用心カチカチとやる時のアレだ。それを借りることになる。

 とても武器とはいえないがこの世界(桐の学園II)では病み落ちた生徒を救う武器の一つだ。


 ——しかし、この建物、よくできてるよな……


 ここはミナミンテレビの隣にある建物の中。

 この建物はかなり大きく、中には様々な舞台に合わせた大掛かりなセットが組まれている。

 

 午後からはそんなスタジオで撮影しているんだけど初めて見る設備がすご過ぎて、俺はずっと感動している。


 ちょっと規模は小さいけど、知らずに入ったら普通に学校だと思ってしまうほどよく出来ている。


 そんなスタジオには、管理室のようなモニタールームがあり、監督や演出関係のスタッフさんはその部屋で映像チェックをしながら撮影を進めている感じのようだね。


 ——そう言えば……


 昼食を社員食堂で一緒にとった南条さんとマリさんはスタジオに入ってすぐに挨拶した監督と一緒に別れたけど監督と同じモニタールームにいるのかな?


 なんてことを事を考えていたら、月影陽子姿(メイクした)の崎宮さんと、日向陰子姿(メイクした)の浅間さんが、2人の戦闘服でもあるセーラー服に身を包んで教室に入ってきた。


「タケトくん、お久しぶりですね」


「崎宮さんお久しぶりです。浅間さんは初めましてですね。

 すみません、今日はご迷惑をおかけするかと思いますが、どうか、よろしくお願い致します」


 メイクをしているので、前回共演した時の印象と少し違うので戸惑ったが、崎宮さんとは普通に握手を交わし、初めてお会いした浅間さんには頭を下げた。


「え、あ、はい。浅間唯香です。こちらこそよろしく」


 浅間さんは一般的な男性を基準にしていて、俺が頭を下げるとは思っていなかったのだろう。すごく驚いていた。


 ——ん?


 しかし、崎宮さんは、前回初めてお会いした時の冷たい印象はなく、っていうか、なんで握手した後に離した手をまた握り返してくるのかな? 

 なぜか崎宮さんが再び俺の手を握っている。


「えっと、崎宮さん?」

『崎宮、準備ができていたのならそう言え、浅間もだ』


 マリさんのそんな声が教室のスピーカーから聞こえてきた。俺の声はそんなマリさんの声にかき消されてしまったけどまあいいや。


「すみません」

「はーい」


 浅間さんは俺をチラチラ見ながら、崎宮さんは「怒られちゃった」と、少しおどけた様子で俺に向かって可愛らしく舌を少し出してから「そんなに緊張することないよ」と言い残して教室から出て行った。


 俺の側で待機していたドローンのようなカメラも一台残して2人に着いていった。

 

 ——そういうことか。

 

 崎宮さんってもっとクールな印象だったんだけど、実はお茶目さんなのかも。握手を返してきたのは俺の緊張をほぐすためにワザとしてきたのだろう。いい人だ。


「陽子待って、こっちにおかしな反応があるっ」


「おかしな反応?」


「うん。信じられないけど、まだ病み落ちしていない生徒がいるのかも」


「陰子、それって罠じゃないの? ここは病陰よ……」


 俺の側にやってきた携帯モニターがそんな2人の様子を映している。俺にも進行状況が分かるように監督が念動で届けてくれたのだ。

 

 2人と合流した俺は月影陽子から受け取った拍子木(退病器)を借り、現世に戻るまでの間2人に協力する。


 だが、協力すると言っても2人の動きについていけない俺は足でまといでしかなった。


 悔しさのあまり、俺でも使える武器があれば貸してほしいと頼み、俺の気持ちを組んでくれた月影陽子が予備で持参していた拍子木を貸してくれた。


 拍子木には力があるイメージだったので、拍子木を受け取った後からは、2回がけまでしかしていなかった念体を3回がけにして、拍子木の強さを自分なりに表現してみた。


「え!?」

「うそっ」


 ——? 崎宮さんと浅間さんに驚かれていたような……


 俺ってほとんどがアドリブで動かないといけないから2人の邪魔にならない相手(病徒)に向かい素早く殴り倒す(殴ったようにみせる)。


「はあっ!」


 ミルさんに習っていた護身術のおかげでもあるんだけど、もちろん、本気で殴ったり蹴ったりはしない。

 でも、キレのある動きを心がけてつつも、わざと動作は大きく且つ大袈裟に表現してみる。


「ぐえ」

「ぐあっ」


 病徒役の方が俺の動きに合わせて大袈裟に倒れてくれるから、とてもやりやすかった。


「ゔっ」

「がはっ」


 監督からストップがかからないので、そのまま続けていれば、10数人いた病徒役の人が全て床に倒れていて、


『はいオッケー。タケトくんいいね! サイコーだよ、サイコー! 編集で2人の動きと合わせようと思っていたけど必要なかったよ』


 そこで監督からストップがかかった。


 監督のテンションは高く、少し休憩してすぐに撮影に。うれしいことに崎宮さんと浅間さんからもいい動きだったと褒められ、俺もテンションが上がっていく。


「こ、だ、っ……」


「悠太、なのか!?」


 しかし親友が病徒として現れたため、俺はそこで動きを止めてしまい(そういった行動をとる)、油断している間に病徒となった親友から襲われ……


「あぶないっ!」


 月影さんに庇われた。


「あ、ああ……」

「陽子!?」


 病徒になっている悠太は日向さんに病みを払われ(おはじきを投げられる)すぐに倒れるが、


「月影さん!? くそっ俺が油断したから」


 庇った月影さんが大怪我を負ったところに、狙ったように病徒会の病幻衆の1人、風疹が現れ襲われてしまう。


『くくく、これは、いい眺めですね』


「なんだと!?」


「ダメ。あいつは病幻衆の1人風疹。私1人(日向)じゃ倒せない」


 隙をついて逃げようと提案してくる日向さんに、俺は、庇われた責任を感じていて、


「俺が時間を稼ぐから。日向さんは月影さんと逃げて……大丈夫。俺も隙を見て逃げるから」


 風疹を引きつけることを提案する。


「お前の相手は俺だ」


『くくく。私も舐められたものですね。まあいいでしょう。すぐに始末すればいいだけのことですからね』


 風疹の言葉通り、元々実力は相手の方が上、隙なんてない。辛うじてできたのは相打ちだった。正確には相打ちになるよう狙ったのだ。


 月影さんと日向さんは病み落ちを払った生徒たちと現世に戻り、俺の戻りを待つ、もちろん病みを払ってもらった親友も。

 でも俺は戻ってくることなく……


『そんなのダメよ』

『監督、ダメダメですね』


 ——ん?


 倒れている俺の耳に、突然、小型カメラからそんな声が聞こえてくる。


 話の流れに納得できないと、南条さんとマリさんからストップがかかったのだ。


『そうですね。ではこうしてみますか?』

『それ、詳しく聞かせなさい』


『ええ。いいわ。それでいきましょう』


 話し合いの結果、仲間のピンチに覚醒した俺が圧倒的な力を発揮して風疹を蹴散らすというものになってしまった。それでいいの? 俺主人公じゃないよ?


 ただ無理がたたり俺はしばらく入院することとなる。そんな流れだ。


 ——いいんだ……


 それでオッケーになってしまった。


「今日はありがとうございました」


「君のおかげでさらに良い作品になったよ」


 途中、話の流れに変更があったけどドラマの撮影は無事に終わりホッとする。


 みんな(番組関係者)とも握手をして、さよならする時には泣かれるくらい仲良くなったし、とてもいい経験と思い出になったよ。

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