第204話

【204話の登場人物(名前だけを含む)】


○剛田武人(主人公)

 高校2年生の16歳

 武装女子ボーカル(タケト)

 保護官1人

 妻5人、婚約者5人、婚約者仮(仮)2人

 子ども1人(花音)


◯面堂未留(ミルさん)

 施設育ち

 S級保護官

 タケトの妻

 オッドアイ

 26歳


◯中山綾子(アヤさん)

 武装女子会

 武装女子兼タケトのマネージャー

 沢風和也の元マネージャー

 タケトの妻

 25歳


◯南条静香(南条さん)

 南条グループ役員

 複数の会社の代表

 24歳


◯ 南野万理様(マリさん)

 南条グループ(部長クラス)

 南瓜芸能事務所

 シャイニングボーイズマネージャー

 28歳

 こっそりサーヤ


◯紫ゆう(紫さん)

 南瓜芸能事務所

 女優兼シンガーソングライター

 30歳、独身

 女子も好き

 ドラマ初主演『ドクターコトリ』

 女医、小鳥康子役


更新が遅くなりました。すみません。

—————————————————

————

——

「タケトくん。いい感じだったよ。どう、少しはここの雰囲気には慣れた?」


「はい、と言いたいところですけど、俺としてはもっと自然な感じにしたいのですよね。なんか不自然な感じがして……」


「そう? 私から見たら全然そんな感じには見えなかったけどな……演じている感もなかったし、私はやり易かったよ」


 緊張していたからそう感じたのかもよ、と言いつつ、うまくできていたから自信待ってと褒めてくれる紫さん。やっぱりいい人だ。


 そんな紫さんは今、学生服を着ているんだけど、普通に女子高生に見える。

 俺よりも歳が14も上なのに、念力って不思議……

 あ、でも、基本的に念力量の少ない男性はそうでもなさそうなんだよね。知らないけど(一般男性に会う機会がほとんどない)。


「ん? どうかしたの?」


「え、いや……せ制服似合ってるなあ、と思ったものでちょっと見とれてました」


 高校を卒業して10年以上経っているのに、普通に女子高生(同級生)に見えるから不思議に思っていた、とは失礼過ぎて口が裂けても言えない。紫さんすみません。


「童顔メイクで少し誤魔化しているのよ。でも、そっか、タケトくんには似合って見えるのか。

 実は私も今日の衣装は悪くないというか、ちょっと気に入っていたんだよね」


 ちょっと照れながら着ている制服に視線を落とす紫さん。

 視線を落としたまま紫さんが話を続ける。

 

「そういえば、タケトくんは、今日初めてドラマの撮影をしたんだよね?」


「そうですね」


「何か記念になるもの欲しくない? ほら、菓子折りも貰ったし」


 ——菓子折りか……


 そう、今日はドラマ撮影のためにミナミンテレビ局内のスタジオに来ていた。


 とはいえ今回はテレポートを使い日帰りするから、このスタジオにはアヤさんとミルさんの3人で来ているんだけどね。


 予定では午前中に『ドクターコトリ』の撮影、休憩を挟み、午後から『桐の花学園II』の撮影となる。

 

 アヤさん曰く、60分のドラマの撮影だと、順調にすすんでも数日はかかり普通なら無理なスケジュールなのだと。


 でも今日は、どちらも俺が絡む(出演している)シーンのみを撮るだけらしいから、その辺りをうまく調節できたらしい。

 

 でも番組製作者側が出演者のスケジュールに合わせて撮影をしてくれることはほとんどないとも教えてくれた。ましてや俺は男だ。

 ミナミンテレビに務めるスタッフさんは親グループと同じく女性至上主義だ。

 こちらから、そのようなお願いをしたとしても、絶対に通る話ではないから、これが当たり前だと思っていてはいけないともね。


 今回はあくまでも南条さんからそのような指示がありマリさんが口添えをしてくれたからできたことなんだとね。


 それでも、俺の都合で番組関係者さんに迷惑をかけることに変わりないから、みなさんには挨拶を兼ねて菓子折りを持って回った。


 正確な人数が分からなかったので、予め大量の菓子折りを自宅に準備して、それをミルさんのアポートで取り寄せて一人ひとり手渡していったんだ。


 挨拶の手土産なんだけど、男性からの贈り物は初めてですって、意外と喜んでくれたスタッフさんが多かったんだ。


 でも持って行ってよかったよ。今回の番組スタッフさんは初めてお会いする方たちばかりだろうと思っていたけど、前回お世話になった番組のスタッフさんがほとんどだったから、無視されることなく普通に挨拶することができたよ。


 ミナミンテレビ局のスタッフさんって、面識があるなしで(男性に限る)、対応が全然違うからね。ホッとしたよ。


「あれは挨拶ですから気にしなくても……男性から初めて贈り物をもらったから? 何かしないと気が済まない? そ、そうですか。じゃあ、記念に写真を一緒に撮りましょうか? 今日の撮影が終われば、この衣装を着ることはもうありませんし、いい思い出になると思うんですよね」


 俺が着ている制服も楽屋に準備してあった衣装だから返却しないといけないから、今日の記念にはちょうどいいよね。


「そうだね、一緒に撮ろうか……あ、せっかくだし、役になりきって写ろうかな」


「え? あ、はい」


 役になりきる? なんだろう、まあいいや。


 2人で立ち上がり並んでポーズをとると、紫さんが当たり前のように腕を絡めてきた。なるほど。


 ドラマでも一度だけこんなシーンを撮ったよね。それを再現したのか……


「ふふふ……」


 紫さんがすごくうれしそう。今日1番のいい笑顔なんじゃない……


 そうそう最近のドラマの流行りは男女比1:1の世界が舞台となることが多いらしい。


『ドクターコトリ』や『桐の花学園II』もその流行りを取り入れているので、こういった演出が割とある。


 普段は男装した多くの女優さんがその役を演じていて、その需要が今後はもっと増えていくだろうと言われている。


 以前は女優として成功していない、売れていない女優さんが男装をして演じていた男役だけど、最近では売れている、売れていないは関係なく、デビュー当初から男装女優を目指す女優さんも増えているのだとか。


 そうそう、男装が流行れば鮎川店長の『男性服専門店あゆ』のお店も流行り売り上げも絶好調らしい。

 自社工場を持ったタイミングも良かったというわけだ。鮎川店長って何気に商才があるんだよね。


 そんなことを考えている間に、ミルさんがパシャリとシャッターを切った。

 よかった。撮影している時と違ってお胸が当たっていたから考えないようにするのが大変だったよ。


「ありがとうございます」


「こっちこそ。ところで、その写真のデータは私にももらえるのかな?」


 ミルさんに顔を向ければコクリと頷く。


「もちろんですよ。後でデータを送りますね」


「ありがとう」


 もう少し休憩時間はある。そう思った俺は再び腰掛けて、台本の確認でもしてとこうと思っていたら、


「た、タケト様私たちもよろしいですか?」


 俺と紫さんの様子を見ていた番組スタッフさんたちから声をかけられた。


 せっかく築き上げた(そう思っている)良好な関係を壊したくないので、返事は決まっている。


「もちろん。いいですよ」


 ちょっと大騒動になってしまったけど、撮影現場の雰囲気はむしろ良くなったので、結果オーライということにした。


「大変だったね」


「いえ、楽しかったですよ」


 ここの番組スタッフさんって個性的な人が多いのだと分かったよ。


 ツンツンしているようで話しかけるとデレたり、無表情だけど話しかけると頬を染めていたり、目を合わせてくれないのに俺の袖を握っていたりとか。


 それからすぐに撮影が始まり出番まで待機する。


 台本の内容は、役が決まってすぐに送られてきた時に全て覚えたが、確認のためにちょっとした空き時間でも目を通すようにしている。


 俺はドクターコトリこと、コトリ先生(小鳥康子)が医者になるきっかけとなった回想シーンに登場する同級生であり初恋の相手役(合田武斗)だった。


 普通に授業を受けているシーンが多くセリフは挨拶程度で少ない。


「小鳥さんおはよう」とか「小鳥さんまた明日」とか「顔色悪いけど大丈夫?」とかね。


 コトリは恥ずかしくて自分からは声をかけれないのだ。


 一度だけある腕を組むシーンも、よそ見をしていたコトリが友人と間違えて組んできたもの。

 その慌てようにちょっと笑った。くすってね。俺はそれでもオッケーをもらうんだけど、それだけ紫さんの演技がうまかったんだよね。とても勉強になった。


 もう分かると思うが、基本的に同じ教室でコトリが俺のことを眺めているシーンが多いのだ。


 ただ、俺は高校2年の途中に難病を患いそのまま帰らぬ人になり、コトリの恋もそこで終わる。


 何もできなかった自分が悔しくて、コトリ先生こと小島康子は医者を目指すことになる。というのが話の流れなのだが、


「そんなのダメよ」

「ダメですね」


 たまたま俺の様子を見にきた南条さんとマリさん。

 今のシーンは俺の机に花瓶が置かれていて、悲しみを演出しているシーンなのだが、そこで待ったがかかった。


 ——?


 あちこちからぐすぐすと鼻をすする音が聞こえていたから、そのせいだと思っていたけど、どうもそうじゃないらしい。


「ちょっと、あなたたち来なさい」


 南条さんとマリさんがプロデューサーさんを含めた関係者さんを集めて何やら話し出した。


「悪くないわね。それでいきなさい」


「はい」


 そして、話し合いの結果、俺は治療のために海外、ではなく最先端の治療ができる病院がある都会へと引っ越して行ったという流れに変更された。


 しかも、治療して病気も完治していることになってるし、いいのかな……


 俺、最後に笑顔で手を振るシーンがあるんだけど、いる?


 回想シーンっぽくセピア調で表現されるみたいだけど、インパクトに欠けない? 


 引っ越していくだけで十分悲しみを表現できる? なるほど。


 プロデューサーやスタッフさんも納得しているし、俺もそれでいいような気がしてきた。


 でも、このドラマの脚本家さんは南条さんの友人らしく、ここにはいないけど、怒られそうな雰囲気があるんだけど大丈夫かな?

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