第197話 六章
「温泉、また入りたいな〜」
早いもので、旅行(仕事)から帰ってきて1週間が経った。
1週間しか経っていないのに、ついそんなことを思ってしまうのは、俺たちが温泉旅館に泊まったというSNSを見たみんなの反応が……
『温泉旅館行ってきました』
『すごくよかった』
『気持ちよかったです』
『サイコーでした』
『お肌がスベスベになりました』
『カラオケで武装女子の歌を歌いました』『料理もとても美味しかったです』
……といった内容のコメントが多く、それが今でも続いているから、俺もまた入りたくなってしまうんだ。
テレポートを使えばいつでもいけるんだけど、行くならやっぱりみんなと行きたい。
連れて行けなかったネネさんと花音ちゃんも一緒にね……
というのも、花音ちゃんが寂しくないように、ネネさんのお母さん(花音ちゃんの祖母)に来てもらっていたけど、それでも俺や香織、ミルさんを探しては寂しそうにしていたらしく、俺たちが帰ってきてからずっと、べったりくっついて離れてくれなかったんだ。
もちろん、抱っこしたり肩車をしたり、楽しそうにはしゃぐ花音ちゃんが疲れて寝てしまうまで遊んでやったよ。
ネネさんからやり過ぎだって怒られちゃったけど……かわいいからいいんだ。
そういえば、一緒に住むようになったミカ先生とアヤさんを不思議そうに見ていたよ。いつもいない人がずっといるから気になったんだろうね。
はやく慣れてくれるといいんだけど……
そうなんだ。ミカ先生とアヤさんは旅行(仕事)から帰ってきた次の日の夕方には、3人で市役所に向かい婚姻の手続きを済ませて、その日から一緒に住むようになったんだ。
結婚しても世帯主は女性側だし、苗字も変わらないから、男性と一緒に住まず通う女性の方が多いらしいから、ウチはちょっと特殊かも。
まあ、隣接地が正式に俺の所有地として認められてからすぐに増築しているから部屋は余るほどあるからね。
野原建設(香織の実家)があっという間に建ててくれたんだ。
義母さんたちが張り切りすぎて元の家の倍は大きくなっていると思う。
さすがに掃除が大変だから月に数回は業者さんを呼ぶようにしたけどね。
ちなみに彼女たち(ミカ先生とアヤさん)の家紋が入ったブレスレットは結婚の手続きをしたその日にもらった。
でもそのブレスレットのことで最近悩んでいる。
ほとんどの男性はブレスレットを嵌めないようだけど、俺はみんなのブレスレットを嵌めている。
ちなみにタケヒトくんはいつの間にか嵌めていたよ。
一つひとつのブレスレットは細いから、嵌めていても苦ではないけど、これだけ嵌めているとジャラジャラするから気になるんだ。
正直にみんなに相談してみようかな。
おっと話が逸れてしまったけど、やっぱり結婚したからにはミカ先生とアヤさんの家族にも挨拶をしたい。
そう伝えたら、アヤさんの実家は県外にあり、母と姉で農業をしているらしいけど、規模が結構大きくて数日も家を空けることできないだろうと。
一応ビデオ通話で挨拶はしたけど、落ち着いたらこちらから会いに行ってもいいかもね。
それでミカ先生の方なんだけど、ミカ先生のお母さんはすでに亡くなっていて姉妹もいないようだった。
親戚はいるみたいだけど交流がほとんどないようで、ミカ先生には家族と呼べる人がいないようだった。
私にもようやく家族ができました、嬉しいです。と涙を浮かべるミカ先生を見て結婚してよかったと思ったよ。
そんな2人が、初めておデブモードを解除した、ほっそりスタイルのミルさんを見た時の顔ときたら、驚き過ぎて口は半開きだし、思わず笑っちゃった。
でもそれはホッとしたからでもあるんだ。ほら、ミルさんってオッドアイだから。
『すごい』『全然気づきませんでした』といつもの調子で話していたけど、俺は2人がミルさんのオッドアイを見て態度を変えないか心配してたんだよね。
俺やアカネみたいに、ミルさんのオッドアイが綺麗でカッコいいと思う人ばかりじゃないからさ。
後で知ったけど、アヤさんは、ストレス太りと顔にできた吹き出物が酷い時に、ある男性から貶され酷く傷ついたことがあったから、そんな男性と同じような、人の容姿を貶すような人にはなりたくないと思っていたらしく、ミカ先生も体質のことで悩む生徒たちと接していたから、ミルさんのオッドアイを見てもなんとも思わなかったらしい。
よかった。そんな人の心の痛みが分かる2人と結婚した俺は幸せ者だよ。
そんな感じで新生活が始まったんだけど、ミカ先生と結婚したことはすぐに学校のみんなにバレてしまったよ。
俺は気づかなかったけど、みんなが言うにはミカ先生の俺に向ける視線や態度がぜんぜん違うとのこと。
まず、タケヒトくんとサンちゃんにバレれて、そしたらクラス中の女子生徒にも知られていて、あっという間にの学校中に広まってしまった。
でもなぜかみんな(タケヒトくんとサンちゃん、さおりたち以外)は嬉しそうにガッツポーズをしていた。
みんなの会話がちょっとだけ聞こえたけど、超えた、ってなんだ? 肥田竹人くんのこと?
不思議に思いさおりたちに尋ねてみたら、女子にとっては大事なことだよって言うだけで詳しくは教えてもらえなかった。
俺に妻が増えて喜んでくれてはいるんだよ。でも、なんだろうね。すごく気になる……
「あれって何だったんだろう……」
数日経った今でも分かっていない。そんなことを考えつつ俺は席を立ち演劇部に向かう。
「あれ?」
「タケトくん?」
「どこに行くんだろ?」
帰りのホームルームが終わってすぐに立ち上がったから、クラスのみんなから視線を向けられてしまった。
でも、テレパスを使いななこに理由を伝えているから大丈夫だろう。任せたよななこ。
こくりと頷いたななこが親指を立ててくれた。さすがななこ頼りになる。
なぜ演劇部に向かっているのかというと、旅行から帰ってきた時には、南野さんからドラマへの出演(ゲスト)オファーが正式にきていたんだ。早すぎて驚いたよ。
でも番組関係者からじゃなく南野さんからというのが、どうしても南条家の力で無理に入れてもらったんじゃないかなと思うよね。
気分は乗らないけど、推してくれた南条さんに迷惑はかけたくないから、やれることはやっておこう(演技の練習)と思ったんだ。
はじめはネッチューブで見つけた演技に関する動画を見ていたけど、ふと、ウチの学校にも演劇部があることに気づいたんだ。
それで、ちょっとだけでも見学させてもらえればラッキーかもと思い、ほら、動画では伝わらない何かが掴めるかもしれないし、いい練習方法だって知っているかもしれない。
それで、今こうして演劇部の部室に向かっているというわけさ。
「タケト待て。俺も行く」
「もちろん、あたしも行くわよん」
見学といっても突然思いついたことで、今日のところはちょっとだけ覗くつもりだった。
だから1人で行こうと思っていたんだけど、タケヒトくんとサンちゃんも着いてきてしまった。
「えっと、ちょっと見たら、すぐにサイコロ部の見学に行くつもりだったから、無理についてこなくても大丈夫だよ?」
サイコロ部への見学は、旅行(仕事)に行く前に約束はしていたこと。でも、タイミングが合わなくて今日になったんだよね。
「ついでだからな、気にするな」
「そうよん」
それからすぐに演劇部に着いたんだけど、
「カギが閉まってるのか?」
「そうみたい。ちょっと早すぎたのかも」
「タケトきゅん。どうするのん、もう少し待ってみる?」
「うーん……いや、今日はやめとく」
なんでもないようにそう言ったけど、実は今、ものすごく恥ずかしい。というのも、よく考えたらクラスにも演劇部の子が何人かいるんだよ。川島ヤマコさんとか姫北アミさん。何度か話しかけられたこともあるし……
「そうなのん?」
にこにこしているサンちゃんには気づかれてるっぽいけど。
「じゃ、じゃあ行くか?」
「そうだね」
楽しみでたまらないといった様子のタケヒトくんに向かって頷き、それからすぐにサイコロ部に向かったよ。
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