第177話

「え? サイコロ部ができたの?」


「うん」


 そう教えてくれたのは新聞部の菊野さん。同じクラスになってから色々と教えてくれるとても親切な子。

 つくねやさちこと同じくらいの背でメガネをかけた可愛らしい子でもある。スカートのポッケから小さなメモ帳を取り出しメモっている姿をよく見かける。


 そんな菊野さんの情報によると発足者は東条先輩。部員は一緒に転校してきた海東先輩と1年生の男子2人の4人とまだ少なく、顧問は薄井影子(うすいえいこ)先生。事務室の先生らしい。


 部として認められる条件は部員4人以上で顧問を引き受けてくれる先生がいること。

 あとは活動場所を確保できていればいいのだとか。

 東条先輩はそのすべてを満たしたってことだ。

 

 ——そうか……


 サイキックスポーツを盛り上げるお手伝いをしたいと言っていたけど、それでなのかな……


 たしかに今はまだ、サイコロはサイキックスポーツとは認められていないけど、アオイさんの話では遅くても年内にはどうになるだろうって話だった。

 話がうまく進めば、サイキックスポーツ協会の年木会長もびっくりするだろうね。ちょっと楽しみ。


 それで、東条家であればそんな情報を掴んでいたとしてもおかしくない。

 無駄にならないと分かっているからすぐにサイコロ部を作ろうと動いたのかも。


 あ、でも、ただ単に東条先輩がサイコロの魅力に……いや、それはないか。

 

 アオイさんの話では、開発元でもある西条グループ(アオイさんの会社を含む)でもサイコロにはかなり力を入れていて今後、色々な大会を開催していくと聞いている。


 東条グループどころか他の北条グループや南条グループまでもサイコロ市場に参入してくる可能性があるらしい、というか、今冷静に思い返してみれば、西条家の方から話を持っていっているのかもって思ってしまったよ。


 サイコロのクラブチームだって作るらしいけど、それは西条グループだけでは成り立たないだろうしね。


 そして、俺、というか武装女子にもちょっとした話が西条グループから正式に届いている。


 それはサイコロ・ブジンにスピーカー(見た目はマイク)を持たせて(装備して)、大会会場内を飛び回りながら歌を歌い、大会を盛り上げてほしいというような仕事の依頼。


 念力は消費するけど、脚の方に意識して念力を多く注げばホバーリング走行だってできるし、さらに念力を注ぎ出力を上げれば飛行だってできる。


 バランスを崩すとすぐに落下してしまうからかなり神経を使うけど、サイコロ競技を観にきてくれたお客様には楽しんでもらいたいからね。


 だから今は毎日、無伴奏でだけど、歌いながらでもホバーリング走行や空中飛行が意識しなくてもできるように練習している。


 うれしいことに、この話をいただいた時には、武装女子のメンバーにも量産型サイコロ・ps 01(ミルさんと同じサイコロ)を4体もらった。


 しかも、みんな(メンバー)のサイコロは量産型ではあるものの武装女子仕様(4人の希望で青と水色)にカラーリングされており、両肩には武装女子のロゴまで入っている。カッコいい。とてもカッコいいけど、俺のサイコロだけロゴが入っていないのがちょっと寂しい……なんて思っていたら、その次の日には俺のサイコロの左肩にも武装女子のロゴマークが入っていて驚くとともに感動したよ。


 2人の嬉しいサプライズに感情が昂り思わず抱きついてしまったらアオイさんとアカネは硬直して機能を停止したかのように、しばらく戻ってこなかった。

 悪いことをしてしまった。学校でもハグして喜ぶタイプの生徒がいれば硬直してしばらく動けなくなるタイプの生徒も結構いたと思う。2人は後者のタイプだったらしい。普通に肩や腕に触れてくるから大丈夫だと思っていたよ。困らせたくないし、次から気をつけよう……


 そこで、アオイさんとアカネ(姉妹)とメンバーのみんなが初めて顔を合わせたけど、俺には前世の常識が残っていたりするからかなり緊張したね。何もなかったけど。


 しかし、俺はボーカルだから大丈夫だけど、メンバーのみんなは楽器を扱う、演奏している時はサイコロを動かせないのが残念なんだよね。


 みんなはしょんぼりしていたけど、武装女子仕様にカラーリングされたサイコロを4体並べて飾っているだけでも、カッコいいし絵になると思うから良しとしようよ。


 なんてことをつい思い出していたけど、そうか……サイコロ部が出来たのか。


 サイコロは2週間前に発売されたけど、すぐに完売してしまい今では予約待ちの状態らしいけど、部活用のサイコロは手に入ったのだろうか?


「サイコロなら4体あったと思うよ」


「へえ」


 1体確保するのにも苦労しそうなサイコロを4体も……びっくり。

 しかしなんで一年生の男子生徒をメンバーに入れたのだろう。と思ったところで、思い出す。


 俺には関係ないことだから忘れていたけど、1年生の部活見学や体験、入部の時期はすでに過ぎてしまっている。部活に入りたいと思っていた女子生徒は残っておらず、男子生徒に声をかけたってところかな?


 そうか東条先輩は部活のメンバー集めに苦労したっぽいね……


「あ、ちょっと用事ができたっぽいから、タケトくんまったね〜」


 そんなことを考えていたら耳をピクリとさせた菊野さんが教室から出て行ってしまった。

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