第178話
「な、なあ。サイコロ部にはサイコロが4体もあるのか?」
菊野さんとの話が聞こえていたのかな? 隣の席でサンちゃんと話をしていたタケヒトくんがすぐに声をかけてきた。
「菊野さんの話ではそうみたいだね」
サイコロのCMにはぽっちゃり男子だけじゃなく、俺のプレイ動画も流れていたから、タケヒトくんはすぐに食いついたけど、肝心のサイコロが売り切れで、諦めかけていたらしい。
「そっか。サイコロ部にはあるのか……」
「ふーん」
CMを見てからずっとサイコロを動かしてみたいと思っていたタケヒトくんと、タケヒトくんの影響を受けて興味が湧いた感じのサンちゃん。
ちなみにサイコロのCMはかなり好評らしい。でも、出演した俺とぽっちゃり男子は、サイコロを操作していただけだから、ただ単に編集者さんたちの腕がよかっただけなんだよね。
「今度サイコロ部の見学に行ってみる?」
「いいのか?」
俺は都合上部活に入れないけど、タケヒトくん、さっきからずっとそわそわしていたから部活の見学に行きたいのだろうと思ったんだよね。
一応、東条先輩の顔は知っているし、追い払われることはないと思うけど……あとでタブレットを使って連絡入れてみようかな。
「もちろん、あたしもいくわよん」
サンちゃんはなんだかんだ文句を言っていてもタケヒトくんが行くところなら大概ついて行く。付き合いは良い。
「そういえば、明日の事なんだけど……」
「あ〜分かってる。俺も休むつもりだから」
「あら、タケヒトちゃんまでお休みするのん。じゃあ、あたしもお休みしようかしら」
明日は金曜日だけど学校を休みミナミンテレビで撮影がある。
『シャイニングボーイズ』のみなさんがMCを務める『みんな輝け!』という番組が4月から始まり、俺たち武装女子がその番組にゲスト出演することになっているのだ。
ちょっとしたコメントや定番の応援ソングをシャイニングボーイズのみんなと歌えばいいらしい。
——はぁ……
少し心配なのは、安定期に入った香織が一緒について行くと張り切っていることだ。
ずっと自宅で過ごしていたから俺と外出したいらしい。
ドライブにはちょうどいい距離(運転者はミルさんと中山さん)で、いざとなったらヒーリングやテレポートが使えるけど、心配は心配。
もう少しで安定期に入るネネさんは諦めなさいと首を振り、花音ちゃんはよく分かっていなかったので、お土産を買ってくるからねと頭を撫でて誤魔化しておいた。
最後に思いついたのは南野さん。南野さんが一言、関係者以外の見学はダメだと言ってくれればこの話はなくなるだからだ。
しかし、結果は、ぜひ見学に来てくださいとのこと。南野さんは二つ返事で了承してくれたのだ。
でもね。ふと、にこにこと満面の笑みを浮かべている香織の顔を見ていたら、断る理由を探していた自分が恥ずかしくなり反省したよ。
こうなったら、久しぶりの外出を楽しんでもらおう。次の日は土曜日だからどこかに泊まっていい。
放課後、サンちゃんやタケヒトくんが先に下校し、さおりたちと明日のことを話していたら、新山先生から声がかかった。
「新山先生?」
どうしたのだろうと思いつつも、今日の新山先生は朝、途中から様子がおかしくなったから心配していたんだよね。
しかし、新山先生はなかなか口を開かない。
何か言いづらいことなのか? それとも俺が何かした? だんだん不安になってくる。
「新山先生?」
不安でつい声をかけてしまった。ハッとした様子をみせる新山先生。
ひょっとしたら上手く話そうと言葉を選んでいたのかも。ますます不安になってくるが、
「えっと。時間をとってごめんなさいね。実は……タケトくんは明日お休みでしたよね?」
尋ねられたことは休みのことで拍子抜けすると同時にちょっとホッとした。
「はい。ミナミンテレビで番組の収録がありまして。すみません」
「ううん、いいのよ。実は先生もお休みをとることにしたから」
「?」
なぜ? と頭に疑問符がたくさん浮かぶが、とりあえず話を続ける新山先生の言葉に耳を傾ける。
「今朝、野原先輩のことをタケトくんに聞いてから、ずっと考えていたのよ。
野原先輩、お腹が大きいのに着いていくのよね。野原先輩には学生の頃に大変お世話になりましたから心配なんです。それで、私もついて行ってもいいかしら?」
意外だった。生徒とは一線を引いているイメージがあったからそんな言葉が出てくるなんて。
「いやぁ、さすがそれは悪いですよ。学校にも迷惑かけますし」
「それは大丈夫ですよ。学校にはちゃんと伝えていますし許可もらっています、それから……」
なぜ新山先生がそんなことを言ってくれたのかというと、先生の特殊念能力はヒーリングのレベル1。治療院を開けるほどの才能ではないが、ちょっとしたキズや車酔い程度なら治療ができるとのこと。
なるほど新山先生もヒーリングがつかえたのか……小声で話したけど、近くにいたさおりたちには聞こえていたんだね。驚いている。
というかななこが俺の方を見てかなりびっくりしている。そうか先生もって考えたからそれが漏れちゃったのか。
結婚してから話そうと思っていたから俺がヒーリングを使えることをななこたちには話していなかったね。
なんて事を考えていたらななこが親指を立ててこくりと頷く。どうやら内緒にしてくれるらしい。ありがとうななこ。
特殊念能力のことは必要がなければ口外しないのが当たり前であるが、それでも、話してくれたということはそれだけ香織の事を慕っていたのだろうね。
これは断る方が悪いかもね……
でも、そんなにも慕われている香織、すごいね。誇らしい、俺もそんな男になりたいよ……
「安定期に入ったとはいえ、俺も初めてのことで不安でしたから正直ありがたいです……でも本当にお言葉に甘えてもいいんですか?」
「ええ。もちろんです」
その後は、新山先生を含めて明日のことを話そうと思っていたけど、残っていたクラスメイトから引っ張られて新山先生はどこかに行ってしまった。
先生の顔、強張っていたような気がするけど大丈夫だよね……
夜には普通にMAINメッセージが届いたので大丈夫だったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます