第168話
これはバレてるよな。先生のプロフィール、見ようと思って見たわけじゃないけど、勝手に見てしまったことにかわりない……気まずい。とても気まずい。よし、謝ろう。
「先生っ、そのすみません。俺、先生の」
「えっと。ごめんなさい。分からないところでもあったのかと思って声をかけただけなのよ。それだけよ」
本当ですよと言葉を続ける新山先生、ちょっと照れくさそう……
これって、やっぱりバレてるよね……
——あ……
新山先生の耳が真っ赤だと気づく。やっぱりバレてる。ホントごめんなさい。見られたくなかったですよね。
「じ、実はちょっと触れたら先生のプロフィール画面になっちゃって、その、なんかすみません」
先生が驚いた顔をする。なんで言うのって思ってそうな顔だ。
気まずくなってつい謝ってしまったんです。やばい、余計に墓穴を掘ったかも。
「そう、だったの。そっか。武人くん、そんなことで謝ることなんてないわよ」
そんな先生の言葉にホッとするが、すぐに照れくさそうにしていた先生が表情を曇らせていることに気づく。
——どうして? あああっ!?
もしかして、先生のプロフィールなんて見たくなかったと勘違いされてるんじゃ……やっぱりそうだよ。
先生が小声でぶつぶつと、そうよね。興味なんてあるわけないわよね、ってちょっと聞こえてきたし。
「違う。違うんです。俺はただ、プロフィールには色々とボソボソ(スリーサイズ)とかボソボソ(好きな男性のタイプ)とか載っていたから見たらいけなかったんじゃないかと思っただけで、本当はもっとゆっくり見たかっ……」
そこまで言ってハッとする。焦ってしまったとはいえ、俺は先生に向かってなんてことを言っているんだと……
チラリと先生の顔色を窺ってみれば……
——ああぁぁ……
やっぱり。先生の顔が真っ赤になっている。今度は顔を背けられてしまった。
この世界、異性のプロフィールに興味を持つ男性はたぶんいない。特定の女性に興味を持つ(こだわる)男性は少ないのだ。
記憶が蘇る前の俺がそんな感じだったから……アカネさん? アカネさんはゲームがうまかったからかな? 自分でもよく分かってないかも。まあいいや。
でも、ほとんどの男性が、男性手当てが止められると困るからしょうがなくって感じなんだ。
女性に気に入られたい、好きになってもらいたいなんて微塵にも思わないから傲慢や横柄な態度も平気でできる。
しかも、ペナルティーが発生するお見合いパーティーなどの公の場(催し)では、自重する強かさもあるようだ。
そういえば俺も記憶(前世の記憶)が蘇る前、幼い頃からの記憶があるからなのか、前世の時よりも異性を求める気持ちが少し薄くなっているような気もするが、それでも女性の事を普通に好きにもなるし頑張っている女性は応援したくもなる。
って今はそれどころじゃなかった。先生に早く何か言わないと……
どう言おうか思い悩んでいた俺の目の前に、突然先生の手が伸びてきたかと思えば、俺のタブレットの画面をかるくポンポンと触れていく。ん?
不思議に思っている間に俺のタブレットの画面には再び先生のプロフィール画面が表示されていた。
——!?
「せ、先生これは」
「プロフィールです」
知ってます。知ってますけど、そうじゃなくて……
『新山先生っ、分かりづらいところがあるんですけど〜ちょっと見てもらってもいいですか〜』
「ごめんなさい。先生、呼ばれたからいくわね」
タイミングがいいのか悪いのか。俺の会話を遮るように1番後ろの席に座っている生徒が手を挙げ、新山先生はその生徒のところに行ってしまった。
よく見れば副担任の古井先生や大木先生、小田先生方も他の生徒から質問を受けては説明している。新山先生がお呼ばれしてもおかしくない。
——どうしよう。
先生のプロフィール。これは見てもいいってことだろうけど……俺は先生のこの行動の意味を、ある可能性を考えて首を振る。
——あるわけないよね……
しかし、本人から許可をもらったとはいえちょっと落ち着かないな。でも、ここでまったく見ないで閉じてしまうのも失礼になる。よし、見よう。
——……?
先生のプロフィール画像に目を向けてすぐ、私から一言の欄で目が止まる。
そこには、最近は健康のためにサイキック健康体操を始めましたと書かれていた。
その話は今朝もしたばかりだから知っていたけど、その次の欄に私のおススメという項目があり、そこにサイキック健康体操と書いてあるのだ。なんだかとてもうれしくなった。
ちなみに俺(男性用)のプロフィールと違って新山先生(女性用)のプロフィールには2ページ目もあって休日の過ごし方とか、子どもは何人ほしいとか、俺が登録した時にはなかった項目がたくさんあった。
どおりで、みんな登録に時間がかかるはずだ。
でも大丈夫だろうか。ここまで個人情報が載っているとなるとセキュリティー面が心配。大丈夫だろうけど念のため後で先生に確認しておこうかな、今挙手すればいい? いや、今はちょっと……
他にもちょっと発見。『リモ学』アプリには閲覧設定あるみたい。個人別、学年別、性別、細かく設定できるようで許可されていないと検索結果に表示もされない仕様らしい。
俺のプロフィールは本当に大したこと載せていないので閲覧設定はせずにそのままにしておくことにした……
しかし、今日は疲れた……
あの後、しばらくすると新山先生はいつもの新山先生に戻っていてホッとしたけど、登録を終えたさおりたちが俺にプロフィール画面を見せようとするから時間がかかり、先生たちから追い出されるように下校させられたっけ。
翌日の今日。
2限目の授業を受けていると廊下の方が突然騒がしくなった。
『こんなの俺は聞いていないぞ!』
『肥田くん。そこをなんとかお願いできませんか?』
男性と女性の声だ。教室内はそんな声が聞こえた途端シーンと静まりかえってしまった。
今は数学の佐藤先生の授業だが、その佐藤先生自身が目をキラキラさせ聞き耳を立てているからみんなも同じく聞き耳を立てているんだけどね。
今の声はたぶん、男子生徒を連れて来てくれることになっていた堤先生(学年主任)と同級生となる肥田竹人くんか尾根井三蔵くんの声だったのだろうけど……
『お前が言うから共学でも構わないと思ったが、さすがにこれはないっ。俺はいつもの教室に戻るぞ』
『ああ……肥田くん怒らないで。私はただ肥田くんにも学生らしくみんなと仲良く楽しく過ごしてほしいと思っただけで、余計なことしてごめんなさい。もうしないから、嫌いにならないで』
『お、俺は別に……ふん。嫌いになんてならねぇから安心しろ』
『う゛ん。ありがとう肥田くん』
『おいクソ女。あたしの目の前でタケヒトちゃんに抱きつかないでくれるかしらん。
まあ、あたしはタケヒトちゃんが戻るならあたしも戻るだけなんだけどねぇ』
クラスのみんなは、今日から新しい男子生徒がクラスの一員として加わり、一緒に授業を受けることになると聞いていたから楽しみにしていた。
かく言う俺も、肥田先輩から弟さんが俺の同級生だと聞いていたから楽しみにしていたんだけどな……
教室のすぐ外。廊下に感じていた存在の足音が小さくなっていくと、クラスの女子たちが明らかに肩を落としているのが分かった。
——しょうがない。
今の話を聞いた限りでは、クラスの女子が何か言ったとしても引き止めるのは無理だろう。でも男の俺ならば、少しは話を聞いてくれるかもしれない。そう思った。
「佐藤先生すみません」
立ち上がってから佐藤先生に謝ると、俺は素早くドアを開けて廊下に出る。すると堤先生と男子生徒らしき人物の後ろ姿が目に入る。よかった。まだいた。
「堤先生! それと肥田くんと尾根井くんだよね。ちょっと待ってください」
俺の声に堤先生が振り返り、それに続くように肥田くんと尾根井くんが気だるそうに振り返るが、
「剛田くん?」
俺に呼び止められた堤先生は不思議そうに首を傾げ、
「剛田武人っ!? なぜ」
「タケトきゅんっ!? うそん」
2人の男子生徒は俺を見た瞬間に目を見開き驚きを露わにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます