第167話

「……ホームルームは以上ですが、説明した通り明日からはタブレットを使って授業を進めていくことになります。下校する前に手元にあるタブレットに使用者登録を済ませてください」


 始業式が終わり、ホームルームとなった。教室が広くなったので後ろに座っている生徒たちの所まで先生の声が届きそうにないと思ったが杞憂だった。


 タブレットだ。タブレットの『リモ学』というアプリを起動すれば画面の上側半分に黒板が、下側半分に先生の姿だけでなく『リモ学』アプリを起動したクラスみんなの顔が次々と映し出されていく。


 ここで先生をタップすると下側半分に先生の顔がアップになり声もハッキリと聴こえて来る。

 このアプリは、なにもしなければ勝手に話している人を画面に映し出すようになっているらしいので無駄口をたたいていると自分の顔がみんなのダブレットに勝手に映ってしまうので気をつけなければいけない。


 仮に自分の設定をそうならないようにしたとしても無駄だ。先生の設定がそのままなのだから先生にはすぐにバレてしまうのだ。よくできてるよね。


 ——さてと……


 俺の場合はすぐ目の前に先生がいるのでわざわざタブレットの画面を方を見る必要はないんだけど、アプリには興味がある。


 ——へぇ……


 ちょっと触ってみて分かったけど、『リモ学』アプリの表示方法はある程度自由がきくみたい。


 例えば、先生をアップしながらも、左側半分にクラスメイトの顔を残しておくなんてこともできるし、選択した人だけを映し出すようにすることもできる……ん?


 ——こ、これは……

 

 すべてゲスト表示になっているけど、驚いたことに、ここで選択できる人は2年生(同じクラス)だけじゃなく1年生や3年生からも選択できるようになっていた。


 必要ないので1年生と3年生の教室にある黒板は選択できないようになっていたけど、これには驚く。


 逆に映し出される側も画面下に、お目目マークとその隣に数字が出ていて何人から見られているのか分かるようになっていて、イヤなら非表示にすることもできるみたい。


 ——ん? そういえば……


 教室に戻る途中、タブレットを持っていた校長先生が、わざわざタブレットを俺に見せながらよろしくお願いしますとなぜか頭を下げてきた。不思議に思っていたけど……


 ——ん? んん……!?


 お目目マークの隣にある数字がどんどん増えていく。

 すぐに、このクラス(2年生)の人数を超えてしまったよ。


 これは……1年生はまだ入学してないから3年生からも見られているってことじゃないだろうか……だから校長はあの時。考えても仕方ないか。


 とりあえず今は黒板と新山先生だけを画面に表示しておこう。

 新山先生、さっきから俺のタブレットの画面をちらちら見ているんだよね。ちゃんと聞いてますからね。


「使用者登録が済んだ人は自由に下校していいですからね」


「「「はい」」」


 ちなみに、この教室には担任の新山先生と副担任、古井先生(24歳)と大木先生(25歳)と小田先生(23歳)方も教壇に立っている。

 その先生方もタブレットを持っているが非表示にしているらしく表示されていない。


 ——えっと……


 今は仮登録のゲスト扱いになっていたので、早速、説明があったとおり学生番号と指紋認証を設定してから使用者登録をはじめれば画面が切り替わった。

 

 えっと……名前は剛田武人、男。身長、体重、スリーサイズ? 生年月日、念能力の項目は任意だからとりあえずスルーしといて、高校2年で趣味? 趣味って登録に必要あるの? まあいいや、趣味はゲームと念力鍛錬でいいかな。念力鍛錬は好きだし。ん? 好きな女性のタイプ? これは……みんなが見るとなると、なかなか答えづらいけど入力しないと先に進まない。どうしよう。あ、よかった。横に選択肢もあるぞ。そこからタイプを選んでもいいのか……なになに、肉食系女子、草食系女子、ぽっちゃり系女子、清楚系女子、ロリ系女子、かわいい系女子、天然系女子、美魔女、淑女、熟女、老女、癒し系女子、粘着系女子、メガネ女子……多すぎる。

 それに、ここから選んだら選んだで面倒なことになりそうな気するので、無難に、好きになった女性がタイプですって入力しておこう。


 最後にみんなに一言? みんなに一言か……。 


 武装女子というバンドのボーカルと、サイキックスポーツのイメージボーイを……うーん。これだと告知みたいでちょっと引かれるかも……

 ここも無難に、みんなと楽しく学校生活を送りたいと思っています。よろしくお願いしますっと、よし。こんなもんでいいかな。


 あたりを見渡してみると俺が1番っぽい。


 このタブレットは学校で使用するものなので持って帰ることはできない。

 だから新山先生は使用者登録を終えてから下校するように言ったのだが、クラスの女子よりも入力する項目が少なかった俺は15分くらいで終わってしまった。


 今日もさおりたちやいつもの武装女子会に勤めているメンバーとで食事をしてから事務所に向かう予定だったから、みんなが終わるまで待っておいた方がいいだろうが、せっかくなので『リモ学』アプリをもう少しいじっていようかな。


 ——おっ!


 自分の顔を2回タップしたら今入力した内容のものがプロフィールらしきものが表示された。でも残念ながらそれだけだった。使える機能が他にない。


 必要な機能があれはどんどん意見を出してくださいって先生が言っていた理由がよく分かったよ。


 みんなが使用者登録をしているからか、お目目マークの隣にある数字は1となっている。


 ふと思った、この1は誰だろうと。だから触れたところで意味がないと分かっていても、ついお目目マークに触れてしまう。


 おや? 触れた瞬間に画面が切り替わり新山先生のプロフィールが表示された。

 知らなかったが、お目目マークに触れると誰が見ているのか分かるようにはなっていたらしい。そっか……


 憶測だけど、新山先生はクラスみんなを表示していたのだろうから、こうなっても不思議ではない、けど……新山先生は真面目だ。真面目だから新山先生のプロフィール、任意の項目だろうがなんだろうが、キチンと埋めていた。

 だからスリーサイズ(着痩せするタイプらしい)や好みの男性のタイプが細マッチョ王子だとか、結婚願望がものすごくあるとか、男の俺が見てはいけないような気がするものまでバッチリ見てしまった……閉じよう。すぐに閉じよう。


「タケトくん、誰のプロフィールを見ていたのかな。先生に教えてくれる?」


「え、えっと……」


 そうだった。教壇に立っている新山先生の位置からだと俺のタブレットの画面なんてちょっと見下ろせば普通に見えるんだった。




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