第159話 ある女子高生と沢風和也視点

 ——月見学園——


「あはは! あなたの彼氏、またニュースになってたね」


「ぷっあはは、みーちゃん、いきなり何言い出すのよ。ってか、あの人、私の顔も名前も覚えてないんだから、今さら彼女面なんてしないってか、こっちも迷惑」


「へぇ、ふーん。そっか、でも、よかった。あの時のモモコは、異常も異常。夢中になって彼の後を追いかけてるし、口を開けば和也様和也様って頭大丈夫? ってちょっと思ったりもしたし、あ、そうそう、公の場なのに突然、胸を鷲掴みされて揉まれているのに大喜びもしてたね。正直引いた、本気で親友やめようかなって思ってたんだからね」


「うっ、あ、ああの時の私は……うん、自分でも信じられないけど、どうかしてたと思う。で、でもすぐに行動を改めたよね? 今だって全然、これっぽっちも興味ないし、つーか、顔見るのも嫌になってるくらいだし」


 本気で嫌そうな顔をする親友を見てホッとする。おかしな行動をとった子たちには伏せてあるけど、あれは沢風和也の念能力によるもの。

 東条麗香様がなんとかしてくれたらしいけど、よく分からないんだよね。

 ただ彼の言動を不用意に肯定しないこと、というような内容の連絡が生徒会から全校生徒に届いたくらいだ。怖いから近づくつもりはないけど。


「私はそれでいいと思う。やっぱり口や態度の悪さは男性あるあるだからそこまで気にしてなかったけど、見境なく暴れ回るのはちょっとね。反撃して、逆に傷つけちゃったら、こっちが悪者になっちゃう」


 男性の念体レベルは低いと学んだ。素の状態でトントンでも念体レベルの高い女性の方がどうしても強くなる。


「そうそう、ちょっと理不尽だよね。そうならないように念体の練度を上げないとだけど、難しいんだよね」


「だね」


「あーあ、動画で初めて見た時は素敵な人だって思っていたんだけどなあ」


 ガクリと肩を落とし、大きくため息をつくモモコの姿を見てくすりと笑う。しばらく歩いていると学校が見えてきたので、そろそろ話題を変えないとね。ごく少数だけど、未だに彼の事を推している信者がいるんだよね。意地になってるのかな? って思うレベルの信者が。絡まれると怖いから言動には気をつけている。


「あ、そういえばさ、東条麗香様が転校するって話、あれってホントらしいよ」


「やっぱり? 亞乃子が麗香様と先生が話しているのを聞いたって言ってたからそうだろうと思ってたけど、ホントだったんだ」


「うん。2年の先輩に聞いたから間違いないよ。たしか、剛田武人様の通ってる学校だったかな」


「ええっ! 麗香様が転校する学校って武人様の通う学校なの? あの学校も志願倍率が凄いことになっているっ「おい!」」


 突然背後から男性の声が聞こえてきて慌てて振り返り固まる。モモコも私と同じように振り返り……


「ひっ、和也様」


 悲鳴を上げた。モモコが声を上げたからか、和也様の視線はモモコの方へと向けられる。正直ホッとした。モモコごめん。


「ふん。突然イケメンの僕に声をかけられて驚くのも無理もない話だが、さっさと僕の質問に答えろ。東条麗香が転校するという話はホントなのか」


「は、はひぃ。本当れす」


 涙目になったモモコがそう答えると和也様が凄い形相をした。早く逃げたい。


「ああん? ……なんだよお前。僕の顔をじろじろ見やがって……あーそういうことか」


 《沢風和也視点》


「い、いえ、すみません」

「そんなつもりじゃ」


 慌てて頭を下げる女ども。ふん、どうせイケメンである僕の顔に見惚れていたのだろう。いいだろう。


 僕は寛大だ。顔を上げたばかりの女どものお胸に鷲掴みのサービスでもしてやるか。


「ひっ!?」

「きゃ」


 胸を押さえながら慌てて後ろに少し下がった女ども。


「ああん? 僕がせっかくサービスしてやっていたというのに。ふん、まあいい、お前たちは特別にこの僕の彼女にしてやってもいいぞ。そうだな、今夜2人で僕の家に来い」


 顔は好みじゃないが、身体はなかなかのもの。学生? ふん、そんなこと知るか。まあ、あまりにも五月蝿いようなら、僕の妻にでもしてやれば文句どころか、泣いて喜ぶだろうさ。


「ひぃ、む、無理。わ、私じゃつり合わないからすみません」


「わ、私もごめんなさい」


 しかし、突然焦り出した女どもは勢いよく頭を下げたかと思えば、慌てて逃げるように校舎の中に入ってしまった。


「ちっ」


 たしかに顔面偏差値の低いお前たちとイケメンの僕とじゃつり合わない。

 ただそれを判断するのは僕の方だ。勝手に決めるなっつーの。お胸はなかなかのモノを持っていたから声をかけてやったというのに。バカな女め。


「まあいい。それよりも……」


 僕は東条麗香の言葉を思い出していた。


 ——『はぁ、せめてあと一年後にデビューしてくれればうちに引き込んだのですが……』


 ——『無理ね。武装女子の彼の勢いって今すごいのよ。ウチが圧力かけてるけど時間の問題。一年いえ、半年も持たないかもね。それにウチとライバル関係にある西条グループが彼に接触しているって情報もあるの。

 ライバルグループに引き込まれるくらいなら計画を前倒しにしても彼らをこちらに引き込もうって話が出てきているほどなのよ』


 僕の仕事が減ったのは、そういうことだろう。この僕が仕事をしてやると言ってやっても、何一つ仕事を持ってこないババア(マネージャー)。どうせそれも裏で手を回していたのだろう。どこまでも僕を不愉快にする。


 ——ん、もしかして……


 僕は素早くスマホを操作して武装何ちゃらのチャンネルを開いてみる。初めて開いてみたヤツのチャンネルの登録者数……


「に、2000万超え……だと」


 僕のネッチューブの登録者数はある日を境に減り続け今では20万人を下回る。おかしいと思っていたがこれもそういうことなんだろう。


 ——『……そうでしたわ。最後に教えてあげる。あなた世間からの評判すごいことになってるわよ。自分で確かめてみることね。ふふ、今度こそ失礼するわ、いくわよカヨ』


 あの時の東条麗香の言葉の意味はこれだったのだ。僕の悪評を意図的に流し……孤立させる?


 会社の買収だって、明日にでも倒産しそうな会社をピックアップしろとババアに指示した結果だ。ぶひっーっ! 思い出したら腹が立ってきた。僕の金を、僕の金を……


 これはもう、間違いない。東条麗香は僕が金に困り泣いて謝ってくるのを待っている。そのように仕向けているのだから間違いないだろう。しかし、なぜそこまで僕にこだわる。


 この僕に……なぜ。この僕に……


 ん、そうか、そういうことか。これは僕を再び婚約者に戻したくてあれやこれや手を打っているのだな。くくく……


 僕に見下した態度をとっていたのも僕に構って欲しかったから。要するに東条麗香はツンデレというヤツだったのか。

 しかし、マンガの世界のようなことを現実でやられても判断がつかねぇつーの。


 でも、よくよく考えてみれば、東条麗香から贈られた腕時計はかなりの高価なものだった。腹が立ったあの日、僕は高級時計の買取専門店に持ち込んだ。だが、高額すぎて買い取れないと断られてしまったのだ。


「そういうことだったか……」


 つまり剛田武人はついでで、ヤツの気を引く振りをして本当は僕の反応を気にしている。


 最近は東条麗香のことなど居ないものとして無視していたから相当堪えていたのだろう。くくく……


 となれば、僕も東条麗香のご期待に応えて剛田なんたらのいる学校に転校してやればいぃ……いや、やっぱりダメだ。そこからだとハッスル(施設)に通えねぇ。


 そうなると、妻たちは妊娠していて帰ってこねえし、ババア(マネージャー)や保護官(表情がない女ども、仮面女)は論外。発散できなくて困るのは目に見えている。


 仕方ない、ヤツのSNSアカウントにDMを送ろう。『東条麗香は僕の女だ。手を出すなよ』っとこれで少しは牽制になるだろう。あとは……ん? サイキックスポーツのイメージボーイになりました?


「はあ!? あいつがサイキックスポーツのイメージボーイにだと!? イケメンである僕を差し置いて、ムカつく」


 そのあとサイキックスポーツがどんな競技かも知らないまま、僕は協会に対して剛田武人ではなく、イケメンの僕をイメージボーイにしろとDMを送った。


 剛田なんたらの悔しがる顔が目に浮かぶぜ。

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