第156話

「俺がサイキックスポーツのイメージボーイに?」


「はい。是非剛田様にお願いできないかと」


 今日は以前から招待を受けていたpリーグ(サイキックスポーツ)の観戦に来ていた。


 チケットが送られてきて初めて知ったのだが、今日は北条ホワイズVS南条ブラックスと東条レッズVS西条ブルスのオープン戦だったのだ。


 なかなか面白かったよ。ただ観客席はガラガラで盛り上がりには欠けていたけど。


 もちろんそれを態度に出すような失礼な事していないが、やっぱり地味だからだろうか。記憶が蘇る前の俺はpリーグの事はさっぱりで……いや、スポーツ競技全般、知らなかったというか関心がなかったみたいなんだよね。


 ちなみにpリーグではパワーが個人競技で、ムーブが5人の団体競技、ショットがダブルス競技となり最終的には合計得点の高いチームが勝ちとなる。


 オリンピックにも出場したことある選手もいて(観戦中に教えてもらった)、サインもらえないかな、なんて事を考えていたら俺をイメージボーイにという話になった……


「あの、失礼ですが、どうして男の俺なんかを?」


「俺なんかなどと、とんでもない。剛田様だからこそお願いしたいのです」


 今、応接室のソファーに座りながらも、頭を深く下げているのは、俺のことを招待してくれたサイキックスポーツ協会の会長さん。


 今日は平日だが、休みをもらいミルさんとマネージャーの中山さんと来ているんだけど、まさか協会長である年木 節子(としき せつこ)さんから招待を受けているとは思っていなくて、挨拶の時には少し動揺してしまった。


 でも、この会長さんはとても腰が低くて、3人いる娘さんが俺のファンだとか、サインをもらってもいいですか、とか冗談を混ぜて気さくに話してくれるいい人で、俺も話しやすかった。


 社交辞令だと分かっているけど、もちろん笑顔でサインをしたよ。娘たちが喜ぶと涙まで見せてくれるとか、ちょっと大袈裟な人でもあるようだけど。


「理由としましては2つほど、1つはある番組で拝見した剛田様の見事な念力操作に私を含め職員一同惚れてしまったというのと。

 もう1つは剛田様も今日観戦されてお気づきかと思いますが、観客席はガラガラ、いつからという明確な時期はないのですが、ここ数年、一度も満席になったことはありません。

 特に今の若者にはマイナースポーツ=サイキックスポーツという認識が高まってすらあります。このままでは歴史あるサイキックスポーツは廃れてしまいます」


 だからこそ俺だと言う。自分でいうのもなんだが、俺もそこそこ人気が出てきているし武装女子チャンネルの登録者数も未だに増え続けている。


 武装女子会(さおり、ななこ、さちこ、つくね、秋内さんが設立した会社名)のグッズ商品も売れ行き好調だし、鮎川店長のブランド『モチベート』で売り出した武装女子ロゴの入った各メンバーの限定モデル商品も売り出して3日もしない内に売り切れた。

 売り出す前はピリピリしていた鮎川店長も今ではにっこにこ。断ったのにボーナスまでくれたよ。数日前に連絡した時には上機嫌で次の企画を考えていたっけ。


 そんな俺がイメージボーイとなることで、マイナースポーツというイメージを払拭し、再び若者に興味を持ってもらいたいと言うのが会長の望み。


「1つ質問があるのですが、その低迷した理由はなんなのでしょうか。それが分からないと、仮に、一時的に良くなったとしてもすぐに今と同じような状態に戻ってしまうと思うのですが……」


 中山さんがちょっと言いにくい事を聞いてくれた。そうだよね。これは先に聞いておかないと後々トラブルになっても困るからね。


「それが……」


 歯ぎれの悪い会長さんが言うには、ただ単に他の念力を使用しない野球やサッカーなどの競技の方が人気が出てしまいそちらに流れてしまったと言う。うーん、これは意外だった。

 中山さんも同じく驚いていたが、少し考える素振りをみせて納得もしていた。


「我々も何も手を打たなかった訳じゃないのですが……不甲斐ないですよね。ですが、それでも……」


 詳しくは話せないらしいが、会長さんが言葉を選びながら語ってくれたのは、念力競技は他国への牽制にもなっているから、このまま廃れさせる訳にはいかないらしい。


 会長さんからそんな話を聞いて、俺は歴史の授業を思い出したよ。それは過去の侵略戦争では念力が使用されていたからで、つまり念力量の高い者が揃っている=戦力が揃っている強国という意味合いが強かったんだ。


 だから会長さんとしては競技人口は保ちたい。ただ、競技人口を維持するための費用や全国にある念道場を維持修繕する費用にも税金が投入されているから、それに反対する声が上がる前にどうにか手を打ちたいのかも。俺の勝手な憶測だけど、と思ったら隣のミルさんが頷いている。


 ミルさんも俺がやった方がいいと思っているのかな? 


「分かりました。俺がどこまでお力になれるか分かりませんが、サイキックスポーツのイメージボーイとして頑張ってみたいと思います」


「ありがとうございます。剛田様ならそう言ってくださると思っておりました。野崎さん」


 会長さんが俺に向かって深々と頭を下げたかと思えば、どこからか現れた秘書らしき人から書類を受け取り、その書類を俺と中山さんとミルさんの前に並べる。


「簡単に仕事の内容をまとめておいたものです。もう一度目を通していただいてから返事をいただいてもよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます」


 それもそうか。ミルさんは無表情だけど、中山さんは当然といったような顔をしていた。


 時間をとっても悪いので、すぐにテーブルにある書類を近くに寄せて内容を確認してみると、


 ——へぇ……


 契約期間は1年間で更新あり。


 仕事内容はサイキックスポーツ協会公式ホームページ及びネッチューブコンテンツ出演。


 それは『今月のサイキックさん』という15分という短い番組であるが、pリーグで活躍する選手を俺が勝手に選び突撃リポートする。月に1回。


『サイキック体操で今日も元気』これも15分の番組であるが、これはテレビ女性(テレビ局)で毎朝6時に放送される。前世でいう朝の健康体操のようなもの。3ヶ月に1回。


 あとはサイキックスポーツのPR活動。これはポスターの撮影の他、協会から観戦チケットが送られてくるのでそれを観戦する。


「だいたい分かりましたが、最後の観戦というのは?」


「それは剛田様がpリーグの観戦に来ているという事実がサイキックスポーツのPRに繋がると考えてのものですよ」


 なるほど。細かいことは中山さんにお任せしたが、場合によっては歌も歌っていただきたいと言う会長さんに中山さんが追加報酬をいただけるのならと笑顔で答えていた。さすが中山さんだね。

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