第154話

「ところでミルさん。朱音さんはまだ学生ですよね?」


 そういえば俺、朱音さんの年齢を知らない。色々とアドバイスしてくれるし……18くらいかな? なんて事を思っていると、


「はい。朱音様は15歳です。タケト様の一つ下になります」


 俺の思考が漏れていたのだろう。ミルさんがそう答えてくれる。そうか朱音さんは15歳なんだ……


「ええ!」


 まさかの年下。思わずミルさんの方に顔を向けてしまったけど、ミルさんはにこりと笑みを浮かべて頷く。冗談という事もなく、ホントの事らしい。


「そうだったのか……」


 よく考えてみると、俺って朱音さんときちんと顔を合わせたのはほんの数回だ。

 でも週に四日くらい? 時間は短かったり長かったりとバラバラだけど普通にゲーム内で会話(ボイスチャット)をしていたから気にもしていなかった。


 しかし、これは困った。ブレスレットを贈られたはいいけど、その年齢では婚姻は認めてもらえないぞ。

 それとも、婚約はしたことになるから、それでもいいってことかな? それほど想ってくれていたってこと……朱音さんと話せないからまったく分からない。


 俺はブレスレットの入った小箱に視線を落とす。


 ——仕方ない……


 俺は今ミルさんと地下部屋に来ていた。香織も着いて来ようとしていたが階段があるので却下。今はネネさんと一緒にウトウトし始めた花音ちゃんを寝かしつけていると思う。


 ブレスレットをもらったとはいえ、その贈ってくれた本人がいないところで嵌めるのもどうだろうと思い、朱音さんの意思を確認できるまではこの部屋で大切に保管しておこうと思ったのだ。

 ミルさんがちょっとしょんぼりしているように感じるのは気のせいだよね……?


 ちなみにこの地下部屋は避難部屋として利用していた部屋だ。でも今は物置と化しつつある。


 避難部屋をこんな状態にしておくのはいけないと分かっているんだけど、ここに置いている物は、ファンで俺のことを応援してくれている子たちから届いた物ばかり、ぞんざいには扱えない。

 しかも、ここ最近はテレビに出演した影響が出ているのか、応援してくれる子たちからの贈り物がさらに増えている。


 ただ、そのほとんどがブランド物の服で、外出用として使うには少し派手なものが多く、また、私の服を着てくれないといったトラブルを避けるためにも普段着にはできそうになかった。


 でもせっかく贈ってくれたものなので、時間がある時にはミルさんから撮影してもらいその写真をSNSにアップしてお礼を伝えている。


 しかし、このままだとこの部屋もすぐにいっぱいになりそう。


 そこで、思いついたのが増築。幸い両隣は空き地だ。そこを俺の自宅用地として買い取りたいと思って申請している。


 もちろん、これは香織から教えてもらったことで、本人(俺)が住むための土地購入ならば許可はもらえるらしい。


 しかも、隣接地なので今住んでいる土地と建物を返還する必要はないし、購入する際は男性割引も適用されるとか。


 さらに複数の妻や子も同居すると証明できれば、無償で譲渡してもらえる事もあるらしいので、これも申請している。


 これは今は一緒に住んでいなくても妻が2人以上いれば申請できるものらしい。

 俺の場合はすでに3人の妻と同居しているので申請は問題なく通るだろうというのが香織の見解だ。ダメでも男性割引があるからね。


 ただ、気をつけないといけないのが、男性名義の土地や建物は本人が亡くなれば家族に相続することはできず国に返還しないといけない。これもやっぱり揉める原因になるからだろうね。


 ちなみに男性が保有している金銭なんかも同じ扱いらしく、男性本人が亡くなると国の物となってしまうので、生前に渡しておく必要がある。


 部屋の中を見渡しつつ、そんな事を考えていると、


 ん?


 ふと部屋の隅に置いていた段ボールの山に目がいく。


「懐かしい……」


 ミルさんが不思議そうな顔をしているので話を続ける。


「ミルさん、これは嘆願書なんだ」


 俺はやらかした当時の事で、ケジメとしてネッチューバーとして活動していたアカウントの削除をしたが、沢山の署名が送られてきてSNSのアカウントのみは残す流れになったのだと伝えた。


「はい。存じてます」


「え?」


 なんと、つい懐かしくなってミルさんに語ってしまったが、ミルさんは当然と言わんばかりの顔で頷く。


 つまり、ミルさんは知っていたのだ。


 恥ずかしさのあまり思わず俯いてしまった。が、俺が俯くと同時は背中にとても柔らかい感触が伝わってくる。


 ふえっ……


 ミルさんが背中から抱きついてきたのだ。気にするなと言いたいらしいけど、お風呂上がりのミルさんは寝間着姿。しかも、寝る前だからか、お胸にはアレがつけられていないから破壊力がすごい……


「あ、ありがとうミルさん」


 背中から俺のことを抱きしめてくる優しいミルさん。前からじゃなくてよかったと思いつつも、少し前屈みになっている自分がちょっと恥ずかしい。


「ミルさん……?」


 そろそろ離れてくれないと色々とまずいんだけど、ミルさんはまだ離してくれない。


 背中に集まる意識を少しでも晒そうと段ボールの中に入っている署名に手を伸ばす。


 あれ? 発起人(差出人)が西条朱音さん? 


 え、なんでだ? なんで朱音さんが?


 ……はっ、そうだ、


 あの時の俺は西条朱音さんのことを知らなかったからSNSで署名してくれたみんなに向けてお礼を伝え、俺の中ではそこで完結させてしまっていた。だから頭に朱音さんのことが残っていなかった。


 今さら気づいた嘆願書の発起人(差出人)が西条朱音さんだったことに。

 朱音さんは記憶が蘇る前から一緒にゲームしていたアカでもあった。


 そうか……朱音さんは昔から俺のことを見ていてくれたんだ。


 その事に気づいた俺は確認がとれるまでは大切に保管しておこうと持って来ていた小箱からブレスレットを取り出し左手首に嵌めていた。

 嵌めてすぐに、なぜかミルさんから頭を撫でられてしまったけど、


「タケトっち、ミルミルン♪ 花音寝たよ」


 すぐに上機嫌なネネさんが降りてきて俺たちは寝室に直行するのだった。


 ————

 ——


 そんなことがあってから数日が経った。サイキックスポーツ部でムーブとショットの見学にも行ってきた。隣接地の購入も認められた。しかも無償で。


 ただブレスレットが1つ増えたことはすぐに広まり、学校ではちょっとした騒ぎに。俺以外にも男性が3人も登校しているけど、みんなの反応が変わらないのは、まだ接点が少ないからだろう。


 すぐに生徒会に連行され事情を説明したら生徒会が動いてくれて、すぐに騒ぎは治まったけど、3年生の一之宮先輩たちは大学受験でお疲れモードだったのでバレないようにヒーリングとリラクセーションをかけてから退室。


 そのまま、なんとなくどんよりとした雰囲気が漂っている3年生のクラスの前を通り同じようにヒーリングとリラクセーションをかけて回った。

 早乙女先輩とスケボー先輩は机に突っ伏していて特に疲れていたようにみえたけどなんでだろう。まあいいや、大変な時期に騒がせた罪滅ぼしですと、心の中で言い訳をしつつお節介を少々。

 ヒーリングとリラクセーションをかけてからさっさと退散する。


「朱音さん、今日も来ませんね」


 しかし、今日もミルさんとゲーム内で朱音さんを待っているが、朱音さんが一向にログインしてくれない。


「はい」


 メッセージは残している。ここで送ったメッセージはスマホのアプリと連動しているからメッセージは確認できているはずなのに……


 仕方ない、ここは一度テレポートを使って逢いに行っておくべきかな……なんて事を思っていると……ん?


「よろ……」


 やや緊張気味の朱音さんがログインしてきて、ぺこりと頭を下げた。

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