第153話 西条朱音視点
心配で彼の身辺をさらに探らせれば、家族は出ていき、すでに1人で暮らしていると知る。しかも彼の自宅は酷い有様。
それなのに政府や警察、男性保護官までもがまだ動いていない。なぜと思うと同時に憤りを感じた。
それは、とあるところから、政府は心が折れたタイミングで男性を保護し、政府にとって都合のいい存在(飼い殺し)にするのだという黒い噂はあった。本当なのかもしれない。
実際、どうにかしてタケトくんに接触しようと試みたが『男捨離団』という怪しげな組織に妨害されて全く近づけなかった。
かなりの手練れの集まりだったらしく下手に手を出せばこちらがヤケドするほどの組織。
実際脅迫文が届き母から本気で怒られてしまった。しかし、やるならもっと上手くやれとこっそり耳打ちしてくる辺り母も思うところはあるのだろう。
打つ手がなく歯痒い思いでいたある日、タケトくんがSNSで告知してから生配信を開始した。
謝罪配信だった。今までの彼とは態度がまったく違い誠実で謙虚な姿をみせた。
こちらが彼本来の姿だったのだろうか? すごく痩せていたが元気そうな姿にホッとして涙も出たが、そんな彼は動画配信やSNSを辞めると宣言するではないか。
そんなのイヤ。本当に繋がりがなくなってしまう。
そう思った私はすぐに行動に移す。使える力を使い署名活動を始めたのだ。動画については彼の意思が強く無理だったが、SNSのアカウントだけはどうにか残してもらえることに。
タケトくんは今回のことを深く反省しており、自分では動画は上げないが、頑張る女性ネッチューバーの応援をしたいと積極的にコラボをしてくれるようになり、私も自分が太っていることを忘れてついコラボ依頼をした。
違う。彼が見た目で人を選ぶような男性なのか試したのだ。前回のことがあり、私は男性に対して少し臆病になっていたから……このまま彼のことを本当に好きになっても大丈夫なのかと不安になっていたのだ……
結果、好き。やっぱりタケトくんは傲慢な男性じゃなかった。優しくてカッコよくて、可能ならずっと側に居たい。そう思える男性だった。
タケトくんのためならなんだって……
————
——
「う、うう……」
はっ!? いけない。昔のことを考えていたらちょっと眠っていたようね。今日は大事な日でもあるというのに。
でもそうだった。タケトくんには言えないけど、ミルをタケトくんの元に送ったのはあの後姿を消した『男捨離団』に備えてのことだった。
ミル以上に優秀な保護官はそうそういないからね。だからミルがタケトくんの妻になってくれたのはむしろいいこと。分かっている。
ただ私の気持ちが追いついていないだけ。
最近は東条家だけではなく北条家や南条家までもがタケトくんの周りをチョロチョロするから余計に焦っていのだ。
でもまあタケトくんを怪しげな組織から守ろうと思えば、あちこちに目がある、今のこの状況はいいことでもある。
懸念は私がブレスレットを贈ったことも知られている可能性が高いこと……やった私が言うのもなんだけど、面倒になるかも。
ピロン♪
ピロン♪
ん? ミルからだった。たまにはログインしてくださいという言葉に分かっていると思いつつも続けて送られてきた画像に目を向ける。
「え、え!? あ、ぅ……」
一瞬で顔が火照る。それはタケトくんが私が贈ったブレスレットを左手首に着けている画像だった。横を向いているタケトくん。たぶんミルが私のために隠し撮りをしてくれたのだろう。
後でミルにお礼を言わなきゃ。
「ふふ」
「朱音様、収録中です。今はお静かにしていただけませんと……? お顔が赤いようですがどこか体調が……」
「大丈夫。気にしないで」
「承知しました。ですが、無理はなさらないで下さい」
「ん」
私の補佐をしてくれている西部京子を心配させてしまい申し訳ないが、うれしすぎてにまにまが止まらない。
「これうまいでござる」
「おお、こっちもうまいですぞ」
「これならいくらでも腹にはいるんご」
「うんまっ!? これホントにうまいんだが」
今私の目の前には撮影スタジオでとある料理を美味しそうに食べている男性が4人いる。
そう西条グループの関連芸能事務所から売り出す『ぽっちゃり男子』の4人組だ。
彼らの芸名は非常につけやすかった。語尾がござるだからとつけたリーダーのゴザル丸に、ですぞが語尾のデス蔵、んごが語尾のンゴ郎。だがが語尾のだが氏。我ながらなかなかのネーミングセンス。ふふ、完璧、彼らはきっと流行る……
そんな彼らは今日がデビューとなるが、彼らにはウチの子会社であるサイキョウテレビ系列でグルメ番組を中心に活動させるつもりだ。
彼らにダイエットが無理だと分かったからね。
しかも、彼らは良くも悪くも男性。気遣いという心は持ち合わせていない。けどそれでいい。忖度なしで美味いか不味いかをハッキリしてくれるから番組的にもちょうどよかったのだ。
元々は東条家の沢風何某の対抗馬としてデビューさせるつもりだったが、今やその沢風何某に勢いはなくなり、予定が狂ってしまっている。でも後悔はない。私の目的は他にもあるから。
「はーいオッケーです」
ぽっちゃり男子の初収録が無事に終わりホッとする。
好きに食べて思ったことを口にしていた彼らからも不満はなさそうだ。
彼らにつけたマネージャーも上手く煽てていれば他の男性よりは扱いやすいと言っていたのは本当のようだね。
「収録というものも、大したことなかったでござるな」
「僕たちにかかればこんなもんですぞ」
「さっさと帰るんご。帰ってゲームをするんご」
「ンゴ郎、俺も一緒にゲームをしたいんだが」
「おお、じゃあ、だが氏とやるんご」
「某もしたいでござる」
「仲間はずれはなしですぞ」
「じゃあみんなでやるんご。そうときまればさっさと帰るんご」
元々ソロでゲームをしていた彼らを勧誘したけど、意外と馬が合っているみたいでなにより。
次の収録日時を伝えてマネージャーに彼らを自宅まで送り届けてもらう。
「さてと」
「体調が思わしくないようですので、お帰りいただきたいのですが、今日も行かれるのですね?」
「体調は大丈夫。姉が新しく開発しているプロジェクトには興味があるから……それに報告することもできた」
「そうでしたか。では私は車を回してきます」
「ん」
その後ブレスレットのことで姉の元に向かった私。この時の私は姉までブレスレットを贈りたいとゴネだすとは思ってもいなかった。
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