第152話 西条朱音視点
タケトくんに贈った私との結婚ブレスレット。そろそろ届いた頃だろう。
冗談ですよと誤魔化しがきくゲーム内とは違い結婚を申し込んだも同然の行為。
まだ私の年齢が足りてないことで婚約者にしかなれないけど、送り返される可能性だってあり得るのだから怖くて仕方ない。
そんなことを考えつつ左手の薬指にはめているタケトリング(タケトの顔が小さく描かれている)に口づけする。こうすると心が落ち着くからついやってしまう。
「ふう……」
そもそもミルがいけない……ううん違う。これでいい。ミルは悪くない。唯一のゲーム仲間であり大好きな2人に置いていかれる気がして焦ってしまったのだ。
私はミルと違い、立場上(西条家の娘)に彼の側に居続けることなんてできない。だから今の関係のまま、なんて事も考えたことはあったが、それはやっぱりイヤだった。ミルと同じタケトくんの妻としてこれからもずっと繋がっていたかったのだ。
それでこんな強行手段を取ってしまうなんて、私はなんて愚かなんだ。タケトくん……引いたかな……
「はあ……」
合わせる顔がなくて未だに確認(ログイン)できていない私は関係者控室の椅子に腰掛け項垂れる。
————
——
私は西条朱音。15歳の大学1年生だ。普通に学校に通っていれば中学3年で、今年の4月からは高校1年。タケトくんの一つ下の後輩となるはずだった……
でも残念ながらそうはならない、自分で言うのもなんだが、私はこれでも頭がいい。飛び級して今は大学生なのだ……
幼い頃から年齢よりも大人びて(老けて)見られることが多かった私。髪をツインテールにしていたのは年相応に見られたかったから。でも大学では説明がいちいち面倒なので普通にストレート。そのおかげで大学では浮くことがなかった。けど予期せぬ出来事は突然やってくるもの。
それは母の知人の息子(西条家と繋がりのある大企業社長の息子)から気に入られて婚約させられそうになってしまったことだ。
姉ではなくツインテールをしていた私を見て希望してきたそうだ。
私は昔から勘がいい。その勘によると彼と一緒になるのは良くない。一度そう思うともうダメ。生理的にも無理になる。
母は男性に期待していないため、私たちには適当なところで結婚して子どもさえ残してくれれば相手は誰でもいいと思っているような人間。親子だけど結構ドライだ。
だから母からすればこれで1人片付くと喜んでいたくらいだった。
でも、私はダメ。あの舐めるような視線を向けてくる男など到底受け入れることなんてできない。
だから太って見せるだけの念道具をこっそり購入して、不細工メイクと太った姿をみせたらあっさりフラれた。
母には何をやってるのかと、呆れられるだけで済んだのは私の味方になってくれた姉のおかげ。でも、あのデ……こほん。あの男から浴びせられた罵詈雑言の数々は今でも覚えている。お前みたいな不細工、誰が選ぶか、俺は選び放題なんだからな、不細工はあっちいけ、だったかな。
しかし、その男から浴びせられた言葉は、思っていよりも私の心を深く傷つけ、気を紛らしてくれる食に走るキッカケになったほどだ。
それからの私は少しでもストレスを感じると何かを口にするようになり、気づけば本当に太ってしまった。
今はタケトくんの隣に並びたくて本気でダイエットに励んでいるけど、当時は自暴自棄になりどうでもよくなっていたのだ。
そんな今の私の悩みは体重が減ってもお胸のサイズが落ちないから太って見えてしまうこと。
ゲーム内のアバターみたいに胸を強調するようなぴっちりした服装ならば大丈夫だけど正直好みではない。私はどちらかといえばダボダボ、ヨレヨレ、着ていて楽な服装が好……おっと、惰眠を貪っていた時のクセがまだ抜けていいないようだ……気をつけよう。
でもミルの報告では、他の男性よりもタケトくんはお胸に興味があるらしく、スカート丈も短めが好みだとか。ふむふむ。早速私はタケトくんが好みそうな服を5着ほどネットで注文した。
このことは、一応タケトくんのことを知りたがる姉にも伝えておく。姉にはいつも迷惑をかけているからポイントを稼いでおかないと、助けてもらえなくなったら大変。なんてことを思っていたら姉はその日のうちにそれらしい洋服をネット注文していて驚く。
タケトくんが好みそうな洋服を注文したということは姉もまたタケトくんのことを気に入っているのだろう。
ミルに先を越されるのは仕方ないとして、姉には先を越されたくない。先にタケトくんを見つけたのは私だから。
タケトくんがウチ(西条家)の関連企業が運営していた『妖怪バスター』をプレイしていた時にね。
私が、いつものようにアカというプレイヤー名でゲームプレイの動画を撮りつつ楽しんでいたら、突然タケトくんからパーティーに誘われたのだ。本当に偶然だった。
暇さえあればゲームをしていたけど、これでも私は西条家の次女でとても忙しいのだから。
でも当時の私は、嬉しさよりも、男性から突然パーティーに誘われて戸惑いしかなかったが、すぐに経験値のおいしいネームド妖怪が画面上に現れ、彼は意図せず引っ掛けてしまったのだと理解。
パーティー申請を素早く受け入れ彼の支援に回れば彼はネームド妖怪を難なく討伐した。
まあ男性プレイヤーにはチート機能がついてるらしいからよほどのポカをしなければヤられることはない。
ただ、変に出しゃばれば男性プレイヤーはすぐにキレてこちらのアカウントを運営に通報し、運営からバンされてしまうからその点は十分に注意が必要(経験談)。
男ってホント面倒くさい生き物。
でもその時、彼の邪魔をしないように立ち回ったのがよかったのか、それからというもの、私がログインする度にパーティーに誘われるようになり一緒にゲームをする仲にまでなった。
会話はないし、彼の後ろをついて支援するだけの関係なんだけど、それがある日、私とのプレイがネッチューブで生配信されていることに気づき、彼が私のことを相棒だとか上手いとか、言葉が少ないなりに、褒めているではないか。
そんなことを言ってくれていると知り、とてもうれしく感じたものだ。
それから私は彼のことを意識するようになり彼の動画はすべて欠かさず見るようになった。
そんなタケトくんとの関係はある日彼が炎上したことでいとも簡単に終わりを告げた。
当時、破竹の勢いで人気が出てきた沢風何某をタケトくんは罵ったのだ。
唯一の男性ネッチューバーとしてタケトくんもかなり人気があったはずなのに一方的に炎上。不思議に思い少し調べれば沢風何某が念能力を使っていることを掴む。
すぐに、いくつか手を打ったが一向に治まる気配がない。むしろ悪化していくではないか。明らかにおかしいと思ったが打つ手がない。
そうこうしている内にタケトくんは動画配信を辞めてしまいゲームへのログインもしなくなってしまった。
私は沢風何某を心底憎んだが今はそれどころではない。タケトくんが心配だ。
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