第151話
豪快な音が場内に響き渡り念道バックが僅かに揺れるが、それだけ。僅かに凹んだ表面もすぐに元に戻ってしまった。
これじゃ大した記録も出ていないだろうと思ったが、パワー測定マシンの下方辺りには157という数値が表示されていた。
——ええっ、157もあるの……
悔しくて60以上は超えたいと思っていたけど、これはちょっと予想外……どうしよう。
『タケト様、お身体は大丈夫なのですか!?』
ミルさんから突然テレパスが届く。そうだよな、さすがにミルさんには分かっちゃうか。
『大丈夫。心配かけてごめん。後で説明します』
そう、反動だ。二重かけの反動で今の俺は立っているのもやっと、今すぐにでも座り込みたい気分。でもな……
「ウソでしょうっ」
「え……」
「なんで……」
「男性って念体が得意だったの?」
信じられないといった様子の部長さんに、驚きキラキラと目を輝かせている部員さんたち。ぼーっと俺の方を見ている部員さんも結構いる。
「あは、あはは! タケトくーん!」
「う、そ……ってちょっと能力先生!」
子どものようにはしゃぎ駆け出した能力先生の後ろ襟を慌てて掴む新山先生……ぐえって変な声を出していた能力先生は見なかったことにして、
「タケトくん、すごいすごいよ」
「うん。60を優に超えてる」
「初めてとは思えないよ」
「……」
この競技自体、よく分かっていないのに自分のことのように喜んでいるさおりたちを見ると、ここで座り込むわけにはいかない。
それにもう少し我慢していればヒーリングの恩恵で楽になるはずだし……ん? ななこ?
さおりやつくねやさちこと違って、無表情ですたすたと歩いて来たかと思えば、抱きつくフリをして俺の身体を支えてくれるななこ。あ、これはちょっとバレてるかも……
「な、ななこが……」
「ななこちゃん」
「わ、わ、わ……」
もちろん、突然抱きついたななこを見たさおりたちは驚くし、
「きゃー」
「え、え、ええっ」
きゃーきゃーと黄色い声を上げていた部員さんたちも顔を真っ赤にして自分のことのように恥ずかしそうにしている。
『痩せ我慢はダメ』
痛っ、ななこに脇腹を摘まれた。やっぱりバレてたか。っていうか、ななこさん? 今ものすごく注目されてるよ。
『婚約者だもん。別にいい』
ななこらしい返しについ笑ってしまいそうになるが、心配させてしまったことにはかわりない。
『ななこごめん、でもありがとう。ミルさんもごめん』
ミルさんは保護官としての立場があるけど、俺が何でもないように振舞っているから近づけずにいた。
ずっとそわそわしながら俺の事を見守ってくれていたんだよね。だからななこが俺の側に来てくれてホッとしている。
ななこちゃんがいいなら私たちもいいよね……というような会話がさちこたちの方から聞こえたんだけど、今すぐにというわけではなさそうなのでホッとする。みんな見ているからね。
「はーい! 静かに。みなさんは自分の練習に戻るように」
能力先生ではなく、新山先生がパンパンと手を叩きながら声を張り上げる。
騒ついていた道場内も徐々に静かになり、各自トレーニングを再開するが、部員さんたちから熱い視線がバンバン飛んでくるようになってしまった。
だからなのか、部長さんだけが分かりやすいくらい、頬をフグみたいに膨らませて俺のことをじーっと見つめてくる。悪気はなかったんです。部長さんごめんなさい。
「みなさん今日はありがとうございました」
ななこに支えられていたら身体がかなり楽になったので、そろそろお暇した方がいいだろうと判断した。かなり引っ掻き回した感が拭えないからだ。ホントすみません。
もちろん部活顧問の能力先生にもお礼と挨拶する。
「能力先生、今日はありがとうございまし……た?」
「ダメよ。ムーブとショットもやっていきなさい」
なぜか俺の腕をガシッと掴み他の競技もやってみせてくれと駄々をこねる能力先生。そりゃあ、ムーブとショットもしてみたかったけど、やらかした感があるだけに、今はすぐにでもこの場を去りたい気分なんだ。
バンッ!
ん? さっそく部員さんが念道バックを叩いていたけど数値は102と表示しており、再び俺に視線が集まる。よし、帰ろう。
「……能力先生、無理強いはダメだと約束しましたよね」
ありがたいことに、すぐに新山先生がその腕を払いのけてくれたので、新山先生にお礼を伝えてすぐに失礼した。
とりあえずマネジャーの中山さんに、サイキックスポーツ協会との話を進めてもらえるよう連絡しておこう。
今回はちょっとやらかしてしまったが、元々興味がありよっぽどでない限りは受けるつもりでいたのだ。
それからさおりたちと事務所に向かうと、すでに疲れた顔をしているクラスのみんな。
こっそりヒーリングをかけてから今日のところは無茶をしてちょっと疲れたので帰ろうかな。
「タケトくん待って」
帰り際に、さちこから呼び止められたかと思えば、希望者にはさよならのハグをしてほしいと提案され断れずに承諾。
ななこはよくてみんなはダメなの? って言われれば断れない。
結局みんなとハグをしてから事務所を出ることになってしまったけど、どんよりしていたみんなの表情が明るくなっていたからよしとしよう。
————
——
「ただいま」
「ただいま戻りました」
道中ミルさんに重ねがけの件を説明し、めっと小さな子を叱るような怒られ方をしたタケトです。強く抱きしめられしばらく離してくれなかったので、かなり心配させていたのだと反省。
自分ではよく分からなかったけど、どうも重ねがけをした際、念力がかなり乱れていたらしく、今のまま使用すると身体を壊し、最悪命の危険もあるらしく、使用を禁止された。
でも、念力操作を今以上に頑張りミルさんがオッケーさえしてくれれば使っていいとも。ミルさんすごく張り切っているし、これは頑張るしかない。
「タケトくん、ミルさんおかえりなさい」
「タケトっちミルミルンおかえり」
「パパおかーり」
自宅に帰ると最近編み物にハマっている香織と、俺のことをパパと呼ぶ花音ちゃんを抱っこしたネネさんがいつものように出迎えてくれた。
「花音ちゃん、ただいま」
「おかーりのちゅー」
「はい」
最近おかえりのちゆーを覚えたオマセな花音ちゃんからほっぺにちゅーをされ、そのお礼とばかりに花音ちゃんの頭を優しく撫でていると、
「タケトくんに小包が届いていたわよ」
「俺に?」
俺宛に小包が届いているというので、早速リビングに向かう。
「誰からだろう?」
差出人を確認すれば西条朱音さんだった。
「朱音さんからだ」
「そうみたいね」
「へえ、さすがタケトっちだね。西条家とも繋がりがあるんだ」
「うん。朱音さんたちの動画にお邪魔してから一緒にゲームする仲になったんだ」
そんな会話をしながら小包を開けていくと、すごく高級そうな小箱が現れて、もしやと思いつつ蓋を開けてみると……
「ブレスレット?」
しかも、ゲーム内でもらったブレスレットにとてもよく似ていて西条家の家紋まで小さく刻んである。
あれって本気だったの? いや、でも朱音さんはまだ学生だったような……やばい理解が追いつかない。こんな時はミルさんだ。ミルさん。ミルさん? ミルさんから顔を背けられてしまった。
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