第149話

 今日は俺以外の男子生徒が初めて登校していたこともあって、どことなく落ち着かない1日だった。


 それはもちろん俺だけではなくクラスのみんなもだろう。というのも今日のみんな、いつも以上に話し合いをしていた気がする。さおりではなく、ななこが中心になっていたことが気になるけど……


 ななこはマイペースに感じるが副委員長をしているだけあって面倒見がよくお世話好きだからね。一目見て彼らと仲を深めたいと思った女子の相談にのってあげてるのだろうな。 


 ん? 不意にこっちを向いたななこと目が合う。ななこが力強く親指を立てて頷いた。


 珍しく真剣な表情のななこ。たぶんそうなのだろう。自分のスカートを少し摘み、ひらひらさせているから緊張感はないけど。


 帰りのホームルームでも話題は男子生徒についてだった。しばらくは各学年主任の先生が対応するらしいが、いざという時は男の俺にも協力をしてほしいとのこと。


 純粋に学校に通う男子生徒は増えてほしいので二つ返事で引き受ける。


 ホームルームが終わり下校となるが、今日は他にも気になることがあったのでさおりたちに聞いてみる。


「ウチの学校って、サイキックスポーツ部ってあるの?」


 ミルさんから聞いた話ではあまり人気のないスポーツらしいけどあれば見学をしてみたい。なければその動画でも探してみよう、


「サイキックスポーツ部? もちろんあるよ。珍しくないし、どこの学校にもあると思うけど、何かあったの?」


 答えてくれたのはさおりだった。さおりは不思議そうな顔をする。


「ああうん。今度、観戦チケットをもらうかもしれないからちょっと気になってね」


 俺がそう言うと帰り支度でざわついていた教室内が一瞬にして静かになってしまった。


 あれ? 俺、何かまずいことでも言った? なんかみんなから聞き耳立てられている気がするんだけど……これは……


「人気がないとか……?」


「へ? う、ううん。まさか。他所の学校は知らないけど、念力の鍛錬になって就職にも有利になるからウチの学校では結構人気なんだよ」


「そうなの?」


 さっきのみんなの反応はいったい、気にはなるが……そうかウチの学校にもあるのか。しかも鍛錬になるとか、興味しかない。


「あーでも、能力先生がこの学校に来てからだって聞いたことがあるかも」


 どうやら、ウチの学校で人気があるのは、部活顧問の能力先生のおかげらしい。

 スポーツとしては地味で人気がないが就職には役に立つとね。


「へぇ」


 ウチのクラスでも、進学する予定のなかった日間名さんと木垣さんがサイキックスポーツ部に入っているっぽいが、今は武装女子の事務所を優先して幽霊部員と化していて苦笑い。


「あはは……タケトくん居るし、バイト代もいいから」


「だね。卒業したら正式に雇ってもらいたいから、もっと頑張らないとね」


 無理はさせられないが、グッズ販売が好調で、人手が欲しいと秋内さんがごめんね、と謝りながら言う。販売関連は秋内さんが管理しているからね。今は就職予定の3年生に声をかけているところらしい。


 音楽関連がさおりとななことつくねとさちこ。新曲作りや動画編集がメインとなり、事務関連が小宮寺さんたちを中心にやってもらっているのだとか。


 ちなみにバイト代は以前の数倍以上稼げているらしく、この調子でいけば生活に余裕ができそうだと喜んでくれている。


 ————

 ——


「タケトくん、ここだよ」


 俺は今、学校の敷地内にある念道場の前にいる。案内してくれたのは婚約者だからと率先して案内してくれたさおりたちの4人。最近は曲を提供したいと言ってくれる人もいて、そんな話をしていたらあっと言う間に着いた。


 他のみんな? みんなは事務所に向かってもらった。秋内さんが仕事が溜まっているからと言って強引に引っ張っていった感じだ。


「へえ、こんな建物もあったんだ」


 念道場は体育館よりも少し小さいが、歴史を感じさせる雰囲気があった。


 ——なんか惹かれるな……


「うん。2年生になれば授業でも使うみたい……」


 少し恥ずかしそうにするさおりたち。実はさおりたちもまだ利用したことはないらしい。


「練習の邪魔にならないよう静かに入ろうか」


 早速、中に入ってみると体操服姿の女子生徒が何組かに分かれてストレッチや軽めのトレーニングをしていて、その中には俺も念力の授業でやったことのあるようなこともやっていた。


 正直今すぐにでもトレーニングメニューに参加してみたい。着替えもないし無理だろうけど。


 でもさおりが人気があると言っていたとおり、ざっと見渡しただけでも部員は40人くらいはいるかも。なんてことを考えていると、


「あっ」

「タケトくん!」

「ほんとに来た!」


 すぐに気づかれて一斉に視線を浴びてしまう。


「あちゃ……」


 部活の邪魔はしたくなかったのに。すぐに騒ぎになり申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったが、


「みなさんお静かに! 整列ですわよ」


 念道場内に力強い声が響き渡ると、いくつかの組に分かれて部員が綺麗に整列していく。


 ——40人くらいと思っていたけど60人はいるかも……


 それからすぐに1人の女性が前に出てきた。体操服の感じからして2年生かな。すごくスタイルの良い女性だ。


「わたくしはサイキックスポーツ部長の霧賀 峰子(きりがみねこ)ですわ。

 タケト様、能力先生からお話は聞いておりますわ。今日は思う存分見学していってかまいませんわよ。もちろん分からないことがありましたら遠慮なく、このわたしくに質問してくださいね」


 縦巻きロールがすごく目立つ。マンガや小説に出てくる悪役令嬢のような髪型。本当にいるんだ……ちょっとびっくり。

 どこぞの財閥のお嬢様なのかな?


「ありがとうございます。今日は突然お邪魔するような形になってしまいすみません。本当は練習の邪魔をしないように少し見学してすぐに帰るつもりだったんです」


「おーほほほ。タケト様、それは気にし過ぎと言うものですわ。ここにタケト様が見学に来て迷惑だと思うものは誰一人としておりませんわよ」


 すごい笑い方。やばい、ちょっと笑いそう。みんなもくすくす笑ってるけどいいの。


「そ、そうですか。そう言っていただけると……ウソでもうれしいです」


「ウソではありませんわよ。ねえ、部員のみなさん?」


「そのとおりですけど〜。部長、そろそろやめません、その喋り方。気持ち悪くて鳥肌が立ちまくりです」


 腕をさすりさすりしながら嫌そうな顔をする副部長の谷山さん。ん? 喋り方をやめる? そんな2人の会話に首を傾げていると、


「おーほほほ。なんのことかし……もう、そんな目で見ないでよ。分かりましたよーだ。せっかくタケトくんが好きかな〜と思ってお嬢様っぽく振る舞っていたのに〜」


「いつの時代のお嬢様なんですか。まったく、タケトくんもごめんね」


「いえ、俺は別に」


「副部長と違ってタケトくんは優しいなあ〜。うーん、好き」


「あはは。ありがとうございます。冗談でもうれしいですよ」


「私は本気だよ〜。おっと、はーい、みんなは見てないで練習再開ね。はいすぐ動く。そこ、笑ってないで動くよ。というわけでタケトくん。好きなだけ見ていってください、もちろん質問はいつでも何でもオッケーだよ。なんなら私のスリーサイズだってオッケーしちゃうよ。この際だから聞いちゃう?」


「聞きませんよ」


「照れちゃてかわいいね」


 縦巻きロールをサッと外して、これは演劇部から借りて来たカツラだよ、といってケラケラ笑う部長さん。なんてユニークで自由な人。


「あ、私の髪型が気になっちゃった?」


 部長さんは前髪が短めのショートカットだった。聞いてもいないのに勝手その理由を話してくれる。

 髪にお金をかける余裕がなくて長く伸びていた髪を自分で切ったばかりだったからちょっとガタガタなんだよねと。

 卒業後は就職希望らしいけど、部長さん、そろそろ見学してもいいかな。

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