第142話 シャイニングボーイズ相輝視点

 剛田武人だ。剛田武人が僕の後ろをピッタリ着いてくる。たしかに僕についてくれば問題ないと言ったが、いや、きっとまぐれだ。


 これなら!


 ステージ上に駆け上がると同時に宙を舞う。ちょっと気合いを入れすぎていつもより高く舞ってしまったが難なく着地する。でも剛田武人には……なに!?


 剛田武人が僕の隣に着地した。しかも綺麗に……信じられない。

 みんなもいつものどおりの滑り出し、はっ!? 沢風和也は? まさか沢風和也も? 彼は、殿を務めるだいきの前にスタートしたはずだが……なんだ、アイツはスケートボードすら乗れてないのか。あの体型ならば無理もないか。


 沢風和也は悔しげな顔でスケートボードに片足だけを乗せ、マイクだけは一丁前に構えている。


『ぼ〜くらは〜♪』


 音楽に合わせて声を出すと、再びスケートボードを走らせる。

 少し遅れて、剛田武人も僕の後ろを着いてくる。ん? 僕たち4人とは違う声がある。剛田武人は歌っているのか? 


 それでいて、僕たちの曲のイメージを壊す事なくうまくハモッている。


 なんだよこれ、いつもより深みが出ている……


 沢風和也の声は聞こえてこないので口パクだろう。動く事もせずぼーっと棒立ち。ヤツは放っておいても良さそうだな。だが。


 くっ


 気づけば、スケートボードのスピードをいつも以上に上げてしまっていた。悔しかったのだ。なぜだ、なぜついてこれる。どうしてスケートボードに乗りながら歌える。


 そんな時かいきから合図がある。ここまではしたくなかったが、僕は無言で頷くと同時に宙を舞いみんなが綺麗に交差する。


 僕の後ろに着いてきていた剛田武人にかいきがぎりぎりまで近づく、これでバランスを崩して落下。そうなるイメージをしていたが、そうはならなかった。


 うそ、だろ……


 剛田武人がぎりぎりで身体を捻って素早く躱した。しかも、その後に宙で方向を変えていたのだ。急な方向転換は念力をかなり消費する。それなのに彼はすまし顔。ひょっとしたら剛田武人は先輩たち(女性に並ぶ念力量)よりも念力量が多い? そんな考えが頭によぎったがあるわけないと首を振る。


 僕の焦りが伝わったのか、すぐにさいきが合図を送ってくる。次の回転ジャンプで仕掛けるんだな。


 僕の回転ジャンプに続いて剛田武人も回転ジャンプを決めるが、そこにさいきが突っ込んでくる。ここで無理に躱そうとすれバランスを崩す、はず、これで剛田武人も終わり……と思っていたが、


 は?


 剛田武人はさらに上へと舞い上がりキレのある横回転をしてみせる。

 みんなよりも1段高く舞い上がった剛田武人に観客や共演者たちのキラキラした視線が集中する。


 あれはっ!


 南野様まで剛田武人を見て惚けているが、まずいこのままではまずい。

 そう思ったのは僕だけではなかったようで、バク宙したタイミングでだいきがやや強引に着地しようとしていた。


 しかしこれはまずい!? ぶつかる。だいきもしまったというような顔で必死に着地位置をずらそうとしている。


 だが剛田武人はそれすらも腰を落として一気にスピードを上げたかと思えば鋭いターンを決めてからの回転で僕の後方に寄せてくる。


 あはは……なんだよそれ。大口叩いた僕たちの方が手も足も出ないだなんて。


 そう思った時僕は身体から力が抜けていく感覚に襲われて、ぐらっとふらついた。


 何度も味わったことのある感覚に、すぐに理解した。念力を消費しすぎたのだと。

 いつもより速くスケートボードを走らせてトップスピードで駆け回っていたから念力をいつも以上に消費してしまったのだ。


 やばい、力が入らない。倒れる、そう思った瞬間、え?


 剛田武人が僕の身体を支えるかのように肩に腕を回してきた。これは……助けられた、のか。


 すまない……と思うと同時に真摯に僕たちとのコラボに取り組んでいた剛田武人に恥をかかせようとしていた自分の行いがとても恥ずかしく、また後ろめたくて口にすることができなかった。

 剛田武人は僕と肩を組んだままスピードを落とすと、そのタイミングで曲が終わり女性に向かって頭を下げる。


 パチパチッ!


 女性からの拍手がすごい。カッコよかったですという声や、もう一度見たいという声まで。でもその声は剛田武人に向られているものだろう事は僕でも分かる。それほど彼の歌声やスケートボードのテクニックは素晴らしかった。


「タケトさん、あの、ありがとうございました」


 ちょっとふらつきながら剛田武人いや、タケトさん、いやもうアニキと呼びたい。年下? 関係ない。でも呼べないよな。

 それならせめて握手だけでも、そんな思いから右手を差し出してみれば、アニキは両手で応えてくれる。なんてできた人なんだ。


「お、俺も」

「俺っちも」

「あ、俺もいいですか」


 かいきやさいきや、それにだいきも握手を求めたと言う事はアニキのことを認めたってことだろう。あんなテクニックを見せられれば無理もない。

 誤魔化しているが僕たちはかなり限界で肩で息をしているのに対して、アニキはケロッとしていてまだまだ余裕がありそうな感じなのだ。

 コラボする前まではお世辞にも良い関係ではなかったはずなのに、僕を助けてくれた。もうダメだ。そんな器の大きなアニキに僕はついて行きたいと思ってしまう。


「あにき、って呼んでいいですか?」


 あ、やべ。心の中だけで呼ぶつもりが、つい口に出してしまった。


「あにさん」

「あんちゃん」

「タケ兄」


 そう思っていたのは僕だけではなくメンバーのみんなもだったみたいだ。

 ただアニキの引き攣った笑顔を見て、アニキ呼びは少しはやまったかもと少し後悔した。


「僕が実力を見せるまでもなかったと理解しているとは、自分の立場をよく分かっているじゃねぇか。僕のことは和也様と呼ばせてやる。ちゃんと敬えよ」


 そこに水を差す人物が現れて当然に無視をした。

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