第141話 シャイニングボーイズ相輝視点
「ふふ。予定どおり話はうまくまとまったわ。後は、分かっているな」
ホッとした。小休憩になり南野様から突然呼び出されたから何事か思ったらトリプルコラボについてのことだった。
トリプルコラボについては事前に聞いていた。剛田武人と沢風和也を支持している他家の力を削ぐためだとか。他家ってどこ? 意味はよく分からないが、変に聞き返しても、お前らが知る必要はない、と冷たくあしらわれるだけだと分かっているからだ。
楽屋で彼らと会うまでは彼らも僕らと同じような存在なのだろうと思っていた。
——『ミルと申します。ご紹介のとおりタケト様の妻であり保護官でもあります。以後お見知りおきを』
彼の保護官であり妻でもあると名乗ったあの女性は、剛田武人に敬称を付けて呼んでいた。
妻とは名ばかりで仕事仲間なのか? それなら分かる。僕たちも仕事ではスタッフの女性から敬称を付けて呼ばれるから。
というのも、南条家では名前は呼び捨て。でも呼び捨てはマシな方で、おい、とかお前とか、機嫌が悪いと、ぐずとかカス(念力量がカスだかららしい)になるからだ。
そういえば、南野様に暴言を吐き卑猥な行為をした沢風和也も、迎えにきた女性から敬称を付けられて呼ばれていたな……
……やはりどう考えても仕事仲間だから、そう考える方がしっくりくるか。
それはそうとして、沢風和也の頭はおかしいとしか思えない。
彼は南野様に自殺行為にも等しいことをしたが、これから仕事をする仲間になるから運良く見逃されている。
それなのに静かに番組を見守る剛田武人と違い、隣に座っている女性に声をかけたり無理矢理肩を組もうとしたり、さすがにお胸に触ろうとした時には距離を取られたようだが、それに対して悪態をついていた。
仮に僕たちが沢風和也のような態度をとっていれば、今日の夜には折檻室行きだ。最悪折檻室で一生を過ごす事になるだろう。
南野様が楽屋での出来事からずっと不機嫌だったのは考えなくても分かっていた。彼のせいだ。収録がなければ僕たちはその腹いせに、サンドバッグにされていただろう。
だから、この呼び出しも憂さ晴らしのためだと思っていたのだ。
「おい、お前、聞いているのか!?」
ドンッ
「っ!? も、もちろんです」
肩をグーパンされるだけですんだ。危なかった。機嫌が少しは良くなっている?
ミナミンテレビの親会社は南条グループらしい(南野様が話しているのが少し聞こえた)から、元々話はついていたのだろう。
でなければ許可が出る前からトリプルコラボの話はしない。
理由よく分からないけど、ひょっとしたら彼らの番組オファーだって裏から手を回していたのかもってつい思ってしまう。
なんだか彼らが気の毒になってきた。だって彼らとのコラボ曲は僕たちが死ぬほど練習した『シャイニングパラダイス』なのだ。
やる前から分かる、彼らはスケートボードを走らせるだけでいっぱいいっぱいになり歌うどころの話じゃない。歌は口パクだけでいいと提案してやるか?
僕たちの曲はすべてスケートボードに乗って歌う。念動を使って宙を舞うパフォーマンスが当たり前なのだ。
念力レベルが低い男に、男性なのに念動レベルが高い僕たち。僕たちにはこれしかないから……
だから僕たちが手を出さずとも彼らは勝手に恥をかくことになることは分かっている。慣れないとスケートボードを走られている時に念動を使えばうまく制御できずに必ずこけてしまうのだ。
そうと分かっているのに南野様は、彼らが無様にひっくり返る様が見たいのだと言う。つまり僕たちから何かしらの嫌がらせをしないといけない。
「では言ってみろ!」
「はい!」
曲が始まり僕がスピードを上げて彼らを焦らせる。次にかいき、さらにさいきやだいきもそれぞれのタイミングで彼らにプレッシャーをかけて失敗するよう仕向けます。
「分かっていればいい。しくじるなよ」
「「「「はいっ」」」」
————
——
「あーめんどくせー」
スケートボードに腰掛ける沢風和也の座り方はまるで便器に腰掛けているかのようで醜い。僕たちなら絶対にしない。
ビリッ
しかも、アイツの衣装、今破けたな。気にしてないところをみると気づいていないのか? まあいい。
「君たち、僕たちの足をひっぱらないでくれよ」
「なんならスケートボードの上に突っ立っているだけでいいぜ」
「そうそう。どうせ走らせる事はできても、飛び跳ねたり宙を舞ったりできないっしょ」
「歌だけ、いや口パクしとけ」
せめてもの情けだ。素直に従っておけば少しくらいの恥で済むだろう。
「ああん、バカにするな! スケートボードくらい僕だって乗れる」
彼らの反応を見るに忠告は無駄だったらしい。いいだろう忠告はしたからな。
「皆さん、次はなんと番組初のトリプルコラボです! コラボするのはもちろんシャイニングボーイズの皆さんと沢風和也さんと武装女子のタケトさんになります。夢かしら、私夢を見てる?」
「カグラさん夢じゃないですよ。今から本当にコラボするんです。え? 待ちきれないからさっきとはじめろ? そうですね。私も待ちきれません。ではさっそく行ってみましょう。トリプルコラボ、曲は『シャイニングパラダイス』どうぞ」
♪〜
行くよ。みんなに無言で合図を送り、伴奏が流れ出すと同時にステージ上までスケートボードを一気に走らせる。これだけで……えっ!?
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