第140話
ふう……
収録ってかなり時間がかかるんだね。
うたコラボ、曲に入った後には必ずカメラが止まるんだよね。共演者の皆さんが席に戻ってきたり、準備が大変だったりと色々あるからなんだろうけど、番組的にはうまく行ってるのだろうか。ちょっと気になる。
「次サプライズ入りまーす」
——いよいよサプライズコラボか……
俺がそう思うのも無理もない。これは急遽決まった事なんだ。
なんでも、男性シンガーが3組も集まっているのならばシャイニングボーイズ✖️沢風和也✖️タケトのトリプルコラボをやってみたいという話が番組側から提案された。
これには会場にいたスタッフや主演者たちが湧いた。反対するものは誰もいなかった。
曲は『シャイニングパラダイス』シャイニングボーイズの持ち歌。もちろんこれには理由がある。
元々は女性アーティストの中で唯一スケートボードに乗れる竹田清子さんとコラボする予定だったシャイニングボーイズ。
だが竹田清子さんが昼食後体調を崩したため(常備薬で現在は落ち着いているらしい)大事をとって辞退。
シャイニングボーイズのコラボ相手が空きとなり、それでは困る番組側とマネージャーたちが話し合いトリプルコラボの流れに。
中山さん的には元々予定になかったことなので、断るつもりだったらしいが、ギャラを2倍にするとまで言ってくれた番組側の圧(土下座)に耐えきれずつい頷いてしまったのだとか。中山さんから何度も謝られた。
初めて顔合わせた時には険悪なムードになっていたからまさかこうなるとは思いもしなかったが、動画でも確認したし『シャイニングパラダイス』はタカコちゃんたちと一緒に遊んだ曲でもあるからなんもかなると思う……最悪はあいきさんに着いて行けば良いって話だし。
「あーめんどくせー」
スケートボードに腰掛けてヤンキー座りみたいになっている沢風くん。衣装のお尻あたりから変な音しなかった? 沢風くんとは年末の出来事があるから俺の知ったことではないが、沢風くんもここに居るということはオッケーをしたってことだろうけど、かなり気怠そうだな。
「君たち、僕たちの足をひっぱらないでくれよ」
「なんならスケートボードの上に突っ立っているだけでいいぜ」
「そうそう。どうせ走らせる事はできても、飛び跳ねたり宙を舞ったりできないっしょ」
「歌だけ、いや口パクしとけ」
雰囲気は悪い。
「ああん、バカにするな! スケートボードくらい僕だって乗れる」
特に沢風くんとシャイニングボーイズの皆さんが。まあシャイニングボーイズの皆さんの言葉は俺にも向けられているんだけど、たぶん大丈夫。俺もスケートボードには自信があるんだ。
「皆さん、次はなんと番組初のトリプルコラボです! コラボするのはもちろんシャイニングボーイズの皆さんと沢風和也さんと武装女子のタケトさんになります。夢かしら、私夢を見てる?」
「カグラさん夢じゃないですよ。今から本当にコラボするんです。え? 待ちきれないからさっきとはじめろ? そうですね。私も待ちきれません。ではさっそく行ってみましょう。トリプルコラボ、曲は『シャイニングパラダイス』どうぞ」
♪〜
伴奏が流れ出すと同時にステージ上までスケートボードを走らせるシャイニングボーイズ。俺はリーダーのあいきさんの後を着いていく。
ステージ上に駆け上がると同時に宙を舞うシャイニングボーイズのみんな。俺も遅れず宙を舞いあいきさんの隣に着地する。
沢風くんだけが、ステージ上の隅で立ち止まりスケートボードに片足だけを乗せてマイクを構えている。
『ぼ〜くらは〜♪』
すぐにシャイニングボーイズの皆さんが歌い出しスケートボードを走らせたので俺もそれに合わせるように歌いながらスケートボードを走らせる。
スケートボードのスピードが上がっているため、沢風くんの方をそう何度も見れないが、シャイニングボーイズの皆さんは俺の事が気になるらしく、チラチラと俺の方を見てくる。
邪魔はするなよってことだろうけど、大丈夫。ミルさんと鍛錬をしている時はもっとスピードが出ているからね。
よし、いい感じだ。ん?
宙を舞い、シャイニングボーイズと交差する。かいきさんが俺の方にぶつかって来そうだったので身体を捻って素早く躱す。
やっぱりスケートボードは気持ちいい。ぉ?
回転ジャンプをした際にさいきさんがこっちに突っ込んできたので、もう一段高めに舞い上がり横回転する。
みんな(女性陣)がキラキラした視線を向けているので笑顔で応えておく……ん?
スケートボードでバク宙をした際にだいきさんが俺のいる位置に着地しようとしていたので、すぐに腰を落としてスピードを上げて鋭いターンをしてからの回転で誤魔化す。
もう終わりかな……あら?
曲の終わりにあいきさんがヨロけて俺の方にぶつかりそうになったていたので、そのままあいきさんと肩を組みながらスピードを落として曲を終える。
パチパチッ!
収録中なのに女性からの拍手がすごい。カッコよかったですという声や、もう一度見たいという声まで。そんな中、
「タケトさん、あの、ありがとうございました」
最後に肩を貸したことへのお礼かな?
ちょっとふらつきながら俺から離れたあいきさんが右手を差し出してきたので両手で握手する。俺も楽しかった。
「お、俺も」
「俺っちも」
「あ、俺もいいですか」
なぜかかいきさん、さいきさん、だいきさんとも握手をすることになったが、コラボする前まではお世辞にも良い関係だとは言えなかった。
でも、向けられる視線に悪意がない今なら分かる。彼らはいいヤツで仲良くできるかも。
友達(男)……
そんな考えが頭に浮かびついうれしくなるが、
「あにき、って呼んでいいですか?」
「あにさん」
「あんちゃん」
「タケ兄」
すぐに、もう少し考えた方がいいような気がしてきて思い留まる。
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