第136話

 初登校から2週間が経った。婚約騒動からみんなからのアプローチがすごくなったかと思えば実はそうでもない。

 以前に比べれば声を掛けられる頻度は増えたけど、すぐ減った……

 俺が新曲の練習が忙しいと数人の女子生徒に伝えてからだからひょっとして気を遣われているのかも……

 他の男性たち? 新山先生から2、3人通ってくれそうな生徒がいた聞き、しばらく様子を見ることにした。


 ナレーション『住みよい街の住マイル住まい』

 ♪〜

 ナレーション『野原建設』

 ♪〜


「うむ。さすが孫婿殿じゃな。ばえるのお」


「お母様、無理に若者の言葉を使わなくとも」


「そうかえ?」


「はい。似合いませんね。それよりも香織がナレーションをすると聞いた時は不安でしたが、いい感じに仕上がっていましたね」


 義理の祖母(香織のお婆さん)と義母(香織のお母さん)と義理の叔母(香織の叔母さん)が出来上がったCMを見て朗らかに話している。


 CMは15秒、30秒、60秒バージョンの3パターンあった。


 その内容は、俺が職人さんと現場の作業をしてたり、作業している職人さんに指示を出していたり、設計図を書いていたり、机に向かい事務の仕事をしていたりと色々な場面に登場する。


 しかし言葉は一言も発しない。代わりに香織がナレーションを務めるのだ。


 これは俺たち武装女子の曲『頑張る君と』がCMソングとして流れているからで、俺がナレーションだと歌声と被り、インパクトが薄れてしまったからだ。


 それで急遽見学していた香織と代わってもらったわけだが、すごくいいに仕上がっている。

 さちこが作った応援曲も映像と合っているし、いい意味で耳にも残る。


 俺もつい口ずさんでいたりするから、CMを見て口ずさみたくなる人はきっと出てくるはずだ。


 しかし、CMソングはよく間に合ったと思う。元々 CMには別の落ち着いた曲が流れるはずだったのだ。

 それが急遽お婆さんの思いつきでイメージソングを依頼され、どうせならCMにも使ってもらいたいと俺たちは必死に頑張った。


 CM撮影まで時間がなかったからかなりハードなスケジュールとなりスタジオを管理しているネネさんにもかなり無理をさせてしまった。


 遅くまで練習すれば車でみんなを送ってくれたり夕食をご馳走してくれたりとね。


 ネネさんには2歳になる花音ちゃんがいるからホントは遅くまで付き合わせたくなかったんだけど、なんてことを考えていたら、その問題もすぐに俺たちの生活スタイルを変えることで解決した。


 そう、子どもができて無理のできない香織の代わりに正式に妻になったネネさんとミルさんが夜に来るようになったからだ。正確には断っても来るんだけど。


 その後は先に寝ている花音ちゃんと一緒に俺、香織、ネネさん、ミルさんの5人並んで就寝。


 花音ちゃん? 花音ちゃんは始めこそ見慣れていない男の俺を怖がっていたけど、スタジオで一緒に過ごすウチにすぐに懐いた。

 ネネさんがパパだよって教えて、それからはずっとパパと呼ぶ。意味はたぶん理解していないと思うけど、パパと呼ぶ、たどたどしい口調がかわいいんだ。


 でも、ネネさんは2人目が欲しいからと言うけど、張り切り過ぎだ。この調子だと花音ちゃんには父親の違う兄弟がすぐにでもできるかも。


 そうそう、この世界では父親の違う兄弟がいても別に珍しいことではないんだ。逆に父親が同じ兄弟の方が珍しい。

 というのも、男性は1人の妻に対して子どもが1人できるとその後は、義務は果たしたと言わんばかりの態度で、えちえち行為を一切しなくなる男性が多いのだとか。

 それに香織と香織の妹の詩織さんのお母さんも『子生の採り』を利用しているから父親はそれぞれ違うらしいしね。


 ——あ……


 よく考えれば俺も妹のマイとは父親が違う。

 それに対して何か思うところがあるかといえば何もないし、それどころか、以前(記憶が蘇る前)の俺でさえ父親のことなんてこれっぽっちも意識していなかったから、この世界の父親って……いや、やめよう。


「……くん」


「……トくん」


「タケトくん」


 !?


 うわっ。ふいに身体が揺れる。何、何だ? 


「タケトくん……?」


 考え事をしていたら武装女子のみんなから身体を揺さぶられていた。今は食事と雑談を楽しむ時間だったはず、何かあったのか?


「うん。そう。ほら、タケトくんのこと、会長さん呼んでる」


 そう、今日は香織の会社でCMのお披露目会をやっていた。といっても、会場は香織の会社の食堂で会社の皆さん(本社勤務の人のみ)とCM作成に関わった関係者だけが集められてちょっとしたお食事会をしているのだ。


 もちろん俺たち武装女子メンバーもお呼ばれして、俺は武装女子のテーブル席に座っていたのだ。


 ななこに言われてから前方に顔を向ければ会長であるお婆さんが俺を見ておいでおいでと手招きしている。

 その周りには義母や義理の叔母さんや香織もいるんだけど、あ、詩織さんもいるんだ。


「なんだろう? ちょっと行ってくるよ」


「うん」


 ————

 ——


「よろしく頼むぞい。孫婿殿」


「分かりました」


 CMとは関係ないグッズ商品についての話だった。


 予約販売を始めてそれほど時間は経っていないが、グッズ商品はなかなかの売れ行きだった。

 その中でもダントツに売れているのが、俺の写真がプリントされたフォトフレーム。

 このフレームに自分の写真を挟めると簡単に俺とのツーショット写真を再現できる上に、立てかけて飾れるようになっているのだ。


 しかも、そのフレームにはオマケが2パターン付いていたりする。

 それ以外にも何パターンかのフレームがありが、その全てが完売。数ヶ月先まで予約で埋まってしまっている状態なのだ。


 それで、あまりにも売れ行きがいいので法人化した方が色々とメリットがあると秋内さんの親族からアドバイスがあり、話し合って、さおりとななことつくねとさちこと秋内さんが共同代表者となっていた。


 問題はみんなには学校があるが忙しくなり過ぎて手が回らないこと。みんなが学校に行っている間は仕事ができないから仕方ないといえば仕方ないのだけれど考えが甘かった。俺も反省している。

 そこで、今年卒業する先輩方で就職しようとしている先輩に声をかけてみようという話が出ている。


 おっと話が逸れてしまったけど、お婆さんはそのフレームが一つ(自分の分)欲しいのだとか。これは困った。今は品薄で本当にどうしようもない。

 代わりにお婆さんとツーショット写真を撮り、フレームはネットで注文しときましょう。これでよし。そう思っていたのだが、


「えっと……」


 義母と叔母さんと詩織さんが笑顔で並んでいた。香織もごめんと両手を合わせていた。


 それからは武装女子のみんなが来てくれて、社員さんや関係者の人たちと写真を撮り、最後にみんなで記念写真を撮ればいい時間だ。

 明日は歌番組『うたコラボ』に出演することを伝えていたこともありすぐにお開きになった。




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