第137話

「女性至上主義だと聞いたことありましたけど、ここまでとは思いませんでしたよ」


 今日はミナミンテレビで『うたコラボ』の収録だ。俺には挨拶どころか一度も目を合わせてくれなかった(みんなには丁寧)スタッフさんに案内されて楽屋の前まで来たんだけど、そのドアに貼られいる張り紙を見てそう口にしたのは中山綾子さん。ちょっとぼっちりゃした俺たちのマネージャー(仮)。


『シャイニングボーイズ様・武装女子タケト様・沢風和也様・楽屋』


 信じられないと武装女子のみんなが首を振り、背後にいるおデブ保護官モードのミルさんからは冷気を感じる。ちょっと怖い。


 みんながそう思うのも無理もない。通常なら各出演者には1つの楽屋が与えられるはずなのだ。

 だが、この張り紙を見た解釈では、今日出演する男性の3組。俺もここに含まれているが、その3組でここの1つの楽屋を使えということらしい。


 ちなみにマネージャー(仮)の中山綾子さんは、前に俺のツブヤイターアカウントのDM管理が大変だとミルさんと話していたが(第106話)、その時にミルさんがアテにしていた人物だ。


 1週間前に会ったばかりだけど話し合いの結果、その日からお試しでマネージャーをしてくれることになった。


 そのお試し期間を設けた理由は、中山綾子さんはあの沢風くんの元マネージャーで自分には男性と関わる仕事は向いてないと思っていたからだ。

 一目見た時に見たことある気がしたんだけどまさか沢風くんの元マネージャーだなんてね。びっくりしたよ。


 向いてないと思った理由は話してくれなかったが、パッと見ただけでも顔色は悪く肌荒れもひどかった。憶測だけど忙しそうな沢風くんのマネージャーはかなりハードだったのだろうと思う。

 売れている沢風くんにも気を違うし、気を遣い過ぎて身体を壊した、そんなとこかな。

 仕事をやめて、住んでいたアパートを解約して田舎の実家に帰る途中だったらしいし。


 ウチに来たのも、元々断るつもりでミルさんに誘われたから義理を通すためだけ。人がいいよね。少し話しただけだけど、そんな気がして、俺がヒーリングで治しちゃった。


 ちょっとびっくりさせてしまったけど、顔色も良くお肌はつやつやに。落ちていた視力や悪くなっていた消化器系をついでに治せばちょっとぽっちゃりした可愛いらしい感じの女性になっていた。


 お礼なんて求めていなかったけど、大袈裟なくらい感動していた中山さんは、そのお礼にと、管理者を引き受けてくれたが、やはり自信がまだないと言うので、試用期間を設けることにしたのだ。


 ちなみに歳はミルさんの1つ下の25歳だった。


 早速、俺の個人活動(主にネッチューバーとのコラボ)分の管理をしてくれていたけど、俺には武装女子としての活動もある。

 どちらも把握していないと管理は難しい言われて、気づけば武装女子のマネージャー(仮)までやってくれることになった。


「私たちの楽屋はこっちみたい。張り紙に武装女子サリ様、チコ様、ツク様、ナコ様って書いてる」


 何かの間違いかもしれないと、隣の楽屋のドアまで確認に行ったさちこががっくりと肩を落とす。


「残念、こっちは辛田くるみ様って書いてる」


 さちことは逆の楽屋の前に行ったななこが首を小さく振る。


 テレビ女性で第77回歌王夜に出演した際にも、テレビ女性は女性至上主義だから気をつけるように聞いていたがそれは一部だけで、そのような人物との接触はなかった。


 だが、ミナミンテレビはどうだ。西条さん(朱音さん)から気をつけるようにと色々聞いてきたが、気を引き締めておかないと本当にみんなに迷惑をかけてしまうかもしれない。ないと思うけど出演禁止とか……


 ちなみに、ミルさんが俺の妻になってから初めてゲームにログインした時のことだが、俺のアバターにギフトが届いていた。

 中身は左腕にしか装備できないあかね色のブレスレット。贈り主朱音さん。


 そして、いつもの場所で合流した朱音さんのアバターには前日までしていなかったタケトリングという謎のリングを左手の薬指に装備していたんだ。


 俺が左腕に装備するまで口をきいてくれなかったから装備したんだけど、現物も後で届くからよろ、と言ったあとに早口でミナミンテレビについて話すだけ話してすぐにログアウトしてしまった。

 俺が話そうとしても朱音さんが話し続けるから聞きたいことが何一つ聞けずに終わった。


 しかも、そんなことがあった次の日からはログインすらしてくれなくなって、何かあったのかと心配していたらミルさんから恥ずかしいからしばらくはログインしない(できない)らしいと聞いた時は笑ってしまった。


 とりあえず中で待つように言われていたので楽屋の中で時間がくるまで待つ事にしたが、俺はミルさんと入り、みんなは中山さんと入ってもらった。


「結構狭いね」


 1番乗りだけど楽屋の中は思ったよりも狭かった。ここにシャイニングボーイズの4人と沢風くんが入るのか。椅子は4脚しかないけど、どうするんだ? 今は俺とミルさんしかいないので2人で座るけど……と思ったらミルさんは俺の後ろに回り、少し乱れていた俺の髪を丁寧にセットしてくれた。


「ありがとうミルさん」


 ちなみにさおりたちの4人は香織やミルさんから教えてもらいながらメイクの練習をしていて、ちょっとした化粧の崩れは自分たちでも直せるようになったらしい。


「いえ」


 ミルさんが少し頭を傾げた。


 最近気づいたけど、ミルさん、表情は変わらないけど、うれしい時は頭を少し傾げるんだ。ほんの少しだけど。ミルさんがうれしそうだと俺もうれしくなる。なんてことを考えていたら俺の片手を握り自分の頬に当ててすりすり……


 意外かもしれないけど、妻になったミルさんはスキンシップが増えた。人目がない時はこんな感じ。あ、いや、それは香織とネネさんもだったか。

 でもすぐに何かに気づいてミルさんは姿勢を正してドアの方に顔を向けた。


「ここのようね」


 すぐにガチャリとドアが開き、スーツ姿の女性を先頭にシャイニングボーイズの皆さんが楽屋に入ってきた。



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