第135話 シャイニングボーイズ相輝視点
「初めまして、あの『シャイニングボーイズ』の皆さんはデビューして初のテレビ出演のようですが、スピード感溢れるスケートボードパフォーマンスにアクロバットな動きを取り入れているグループなのですね」
「はい」
「今までにない、スケートボードパフォーマンスは速くてドキドキハラハラさせられましたが、ずっと目が離せませんでしたよ。
MCとしては失格かもしれませんが、私、すぐにファンになってしまいました」
「そうなんですか。そうだとしたら、とても光栄な事ですね。ありがとうございます。ですが、まずは一言謝らせてください。
今日は突然乱入して皆さまをびっくりさせてしまいすみませんでした。視聴者の皆さまもすみませんでした」「「「すみません」」」
僕の謝罪に合わせてメンバーのみんなもすぐに頭を下げる。これは忘れないようと、マネージャーから何度も念を押されていたこと。
ただ緊張のあまり少しぎこちないものになってしまった。
「と、とんでもないです。こちらこそ、とても幸せな時間をいただきました。ありがとうございます……」
そんな小さなミスもMCの女性がすかさずフォローをしてくれたのだが、外の世界にはこんな女性もいるのだと驚きを隠すのに必死になる。
その後も、MCの女性から質問をしてもらう形で『シャイニングボーイズ』の存在を視聴者の皆さまにお届けして無事に生出演を終える。
それから僕たちは控室に戻ったが、途中テレビ局のスタッフさんから声をかけられては、良かったと誉めてもらい握手を求められた。
ただスマホ? MAINのアドレス交換って何だろう? こんなことは南条家の施設にいた時には一度もなかったから分からない。
「今日はありがとうございます」
「いえいえ、きゃっ」
やばっ
つい、いつもの調子で挨拶のハグをしてしまったが、これは絶対にするなと言われていたことだ。
女性は顔を真っ赤にして逃げるように仕事に戻っていく。
やってしまった。慌てて周りを見れば誰もいない。いや、メンバーはいるんだけど、今日はみんな同じ事をやらかしているからお互い様。ということでお互い何も無かったことにしようか。
マネージャーに知られたらまずいし。
「ふぅ……みんなお疲れ様」
無事に控室に戻った僕は一気に気が抜けて椅子にどかっと座る。
「ああ、上手くやれたよな、俺たち。大丈夫だったよな?」
相変わらず心配性のかいきだ。かいきが僕の隣に椅子を移動させてそう尋ねてくる。
「手応えはあった。大丈夫じゃね」
控室の椅子に胡座をかいて座り、すでにダラけた姿勢になる童顔のさいき。子どもっぽい見た目だけど割と面倒見がいい。
「そうそう大丈夫だって。ふへへ、今日くらいは南野様も褒めてくれるんじゃないか」
クールな見た目に騙されそうになるが、性格は陽キャより。だいはいつだって楽しそうで見ていて飽きないが、あんなに冷たい南野様を慕っているんだから変なヤツだ。
南条家では女性に尽くすことこそが男性の務め、女性の言葉は絶対だと教えられてきた。例を上げれば、
・男性は相手(女性)の年齢を聞いてはならない。
・通ってくる女性は必ず満足させなければならない。
・男性から拒否することは認められない
など……
細かな決まり事はかなり多い……
ただ、ここのスタッフの皆さんのように世話を焼こうとする女性は一人もいないことはたしか。
この違いはなんなのか、僕たちには分からない。ただ新鮮な感じがして今でもちょっとポワポワしている。
ガチャリ。
控室の椅子に座り今日の反省会をしているとノックもなしにドアが開く。
「反応はまあまあ良かったわね」
「はい。お嬢様」
入って来たのは僕たちのマネージャーであり指導者でもある南野万理(みなみの まり)様(南野家は代々南条家を支えてきた家柄の一つ)と南条家のお嬢様である南条静香(なんじょう しずか)様だ。
僕たちはすぐに片膝をつき首を垂れる。
「ん」
僕たちの前に立ったお嬢様が手の甲を差し出すので僕たちはその甲に口づけする。
もちろんマネージャーである南野様の手の甲にも口づけをする。しないと後で大変なことになるからだ。
「初めてにしては、よかったと言いたいところですが、お前たちは南条家の男。この程度で満足してもらっては困る。
あと、今後は他の女性との接触は避けるように。どうしてもと言う時は私を通すように。いや、目付け役をつけるか。
お前たちがサービスするのはカメラが回っている時だけでいいのです。返事は?」
「「「「はい!」」」」
俺たちの返事に満足してくれたように思えたが、眉間に皺を寄せた南野様は次の瞬間、僕たちに向かって立ち上がれと強い口調で言う。
!?
何をされるのか瞬時に理解した僕たちはさっと立ち上がりるとすぐに歯を食いしばり衝撃に備える。
パチン!
次の瞬間には頬に熱が走る。頬を叩かれたのだ。僕たちが間違った行いをした時はいつもこうだが、今日は念体を使われていなかっただけまだマシだ。
「あい! お前ハグしただろ」
ビクッ!
なぜバレた。
「す、すみません。いつものクセで……」
「かい、さい、だい! お前たちもだ」
「ひぃ」
「ひゃい」
「す、すみませーん」
「ふん。今回だけは多めにみてやるが、次はないものと思え。いいか。女性にちやほやされたからってホイホイ着いていくな。調子に乗るな。会話は最低限。南条家の男は南条家の女性にだけ尽くせばいい。分かったか」
「「「「はい!」」」」
「ん」
すぐにお嬢様が念力を使い腫れた頬を癒してくれて、すぐに痛みは治まった。
無論、これもただではない。僕たちの報酬から治療費として差し引かれるのだ。今月はゲームガール(旧式の携帯ゲーム機)の新しいソフト(中古)を買おうと思っていたんだけど、足りるかな……
「お嬢様ありがとうございます」
「ん」
それから南野様から言われたことを遵守しつつ色々な番組に出演して行き、芸能活動に少しずつ慣れた頃。
「お前たちには、今月末にある歌番組『うたコラボ』に出演してもらう」
「はい」
『うたコラボ』は出演者同士がお互いにコラボ相手を指名して、一緒に好きな歌を歌うちょっと変わった趣旨の歌番組で、毎週ある歌番組だ。
でも、たしか前回は今じゃないと断っていたはず。
「なぜという顔をしてるな。いいだろう、特別に教えてやる。今回は剛田武人と沢風和也が出演する。まあ沢風和也ははっきり言って落ち目だが、何かのきっかけで息を吹き返されても面倒だからで、剛田武人はかなり厄介な相手だからだ」
何度か耳にしたことのある名前だ。だがしかし、自分たちのことだけでいっぱいいっぱいだった僕たちに、他人に関心を持つ余裕なんてなかった。だから何って感じだ。
そんなこと態度に出したらとんでもないことになるので真剣な表情を作り頷くんだけど。
「ほう。お前たちでも目障りな相手だと分かっていたか。ま、私が渡していた資料に目を通してれば当然か」
「「「「はい。もちろんです」」」」
見てないけど、しれっと、いつもの調子で返事をすれば、絶対分かっていないだろうと思うメンバーも一緒に返事をしている。やばいちょっと笑いそうだ。
「うむ。では詳しい話は不要だな。いいか、お前たちには……」
南条家の男として、彼らとコラボして格の違いを見せつけろか、言われなくても分かっている。悪く思うなよ、どこの誰だか知らない剛田武人に沢風和也。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます