第131話

 始業式はつつがなく終わった。校長先生と生徒会長の話が短かったのもいいね。体育館は寒いし。


 ただ生徒会長の挨拶で前に立った一之宮先輩とは何度も目が合った。

 大丈夫、忘れてませんから。後(放課後)で生徒会室ですよね。


 そう、一之宮先輩にはロゴデザインの件で、すごくお世話になった。通常、どれくらいの期間で出来上がるかのか知らないけど、かなり無理をしてくれたのはたしかだろう。


 しかも、支払いは正式な請求書が届いてからでいいってことになったけど、お礼くらいは一度顔を合わせてちゃんと伝えたかったんだよね。


 おかげ様で、鮎川店長にはすごく喜ばれたし、グッズ販売に意欲的な秋内さんも、とりあえず試作品を作ると意気込んでいたんだ。


 先ずはネットに掲載して予約を受け付けて様子を見てみるという話だったけど……まだ武装女子のホームページはないからね、ショッピングサイトでも利用するのかな?


「タケトくん戻りましょう」


「そうだね」


 こういう場では気丈に振る舞うさおり。さすがクラス委員長だ。俺も教室に戻ろう。


 しかし、あとは各教室に戻りホームルームだけなんだけど、久しぶりの学校ということもあってみんなの視線が集まるな……


 どれもが好意的な視線だから気にしないようにしてるんだけど、中には手を振ってくれる女子生徒もいる。

 これは騒ぎになるので禁止されていることだから、残念ながら、彼女たちは後で生徒指導室行きになるだろう。


 申し訳ないから軽く頭を下げて、素早く左右の人差しを交差させて小さく×を作る。俺には先生に見られていないことを祈るだけだ。


 ここで間違っても手を振り返してはいけない。そうすると俺まで生徒指導室行きになる。


 生徒指導室の先生は加藤先生。体育の授業を受け持っている先生でもある。その加藤先生が満面の笑みを浮かべながら生徒指導室まで案内してくれるんだよね。

 前回はお茶を一緒に飲んで少し話して終わったけど、次はどうなるのやら……優しく、次は控えましょう、と注意されただけだから逆に怖いんだよね。


 ——あ……


 途中ハンドメイドショップ早乙女の早乙女先輩を見つけた。

 俺のことに気づいた早乙女先輩は周りに目がある(他の生徒がいる)のに深々とお辞儀してくれる。


 でも、そんな早乙女先輩の顔、すこしやつれていた気がした。

 うーん、売上が伸びてないのかも。やはり俺が動画でちょっと紹介したくらいじゃ大した効果は得られないんだな……


 あんなに良いアクセサリーを作っているのに、よし、後で秋内さんに相談してみよう……グッズ商品の1つにどうにかできないかと。


 ————

 ——


 教室に戻ってきたが、さおりとななことつくねとさちこはすぐに先生に呼ばれて職員室に向かってしまった。提出する書類があるとか……書類ってなんだろう。


 他の生徒は帰る準備をしてていいらしいけど、授業もなかったからすぐに帰る準備は終わってしまった。


「秋内さん」


 ちょうどいいので早乙女先輩の作る手作りアクセサリーのことについて話そうと思う。


「知ってる! 知ってるよハンドメイド早乙女」


「そうなの?」


「ハンドメイドアクセサリーのお店だよね! いいよ、いい。すごくいいと思う。是非とも武装女子のグッズ商品にほしい商品だよ」


 すごい食いつきにちょっとびっくり。周りに居た小宮寺さんや、日間名さんや木垣さんたちも釣られたように頷いている。というかクラスのみんな知ってるんだ。


 そうか、俺が知らないだけで、早乙女先輩のお店はこの学校では割と有名だったのかも。って俺って当たり前のようにブレスレットを手首に着けているけど、学校の校則はどうなってるんだ? と思っていたら、


『ご心配には及びません』


 すぐにミルさんがテレパスで教えてくれた。ミルさん校則にも詳しいんだ。すごいね。


『ミルさんありがとう』


 どうやら婚約、婚姻関係で身につける指輪やブレスレットは問題ないらしい。あと腕時計もオッケーでその他のアクセサリーはNGらしい。

 ほぼ女子校だから、そのあたりの校則はゆるいかと思ったけど違うらしい。


 だから、早乙女先輩のお店のことは知っていても購入する生徒は少ない(売れない)のかも……


「でもいいのかな。早乙女先輩、忙しそうだよ」


 ——たぶんそれ売れる商品(新作)を作っているからなんだと思う。頑張ってたもんね早乙女先輩。


「うん。頑張っているよ早乙女先輩。だからこそ俺、早乙女先輩のところのハンドメイドアクセサリーをグッズ商品として販売してほしいんだ」


「人気があるからこそ今が商機だといいたいんだね。タケトくんもなかなか分かってるね。いいよ、後の交渉は任せといて。早乙女先輩にも絶対に損のない話にするから」


 人気? ああ、武装女子も登録者数が増えてきて人気が出てきてるってことか。恥ずかしいから深くは聞かないけど。


「そうだね。ありがとう秋内さん」


 よかった。みんなが早乙女先輩のお店のことを知っていたから話がスムーズに進んだ。

 ここに居ないさおりたちにも日間名さんたちが後で伝えてくれるらしいし、


「ただいま戻りました……」


「遅かったね」


 秋内さんたちとグッズ商品のことを話していたら、さおりたちが疲れた顔をして戻ってきた。つくねとさちこも疲れたと言ってすぐに自分の机で突っ伏した。


「ななこもお疲れ?」


 珍しくななこの顔にも疲れの色が……


「うん」


 自分の席に戻る途中、なぜか俺の背中にピタッと張り付いてからすぐに自分の席に着いたななこ。柔らかいけど、何がしたかったのか、補給? 補給って何。


「あ、ななこずるい……」


 それを見ていたさおりが頬を膨らませながら簡単に教えてくれた。


 なるほど。


 婚約したから指輪を嵌めてます。婚約破棄になった場合はすぐに外しますというような誓約書を記入してきたらしい。生徒会役員や先生たちの前で。それは大変だ。


 男性側のサインがいらないのはサインをしてくれる男性がいないから。記入欄もないらしい。ただし婚約者(男性)の名前は記入する必要があったらしいから俺の名前を書いたんだって。


 それから新山先生が教室に入ってきて帰りのホームルームが始まったが、うーん。今日はいつもより新山先生と目が合うな。


 どうしたんだろうと思っているうちに特別重要な連絡事項もなくホームルームは終わり下校の時間になる。


 悩みを抱えてそうな新山先生が気になったが、先生はすぐに教室を出て行ってしまった。先生いつも忙しそうだもんな。


「先に行ってて」


「うーん。待ってる」


 みんなには先に事務所(借りた事務所)に行っててもらおうと思ってたけど、途中、お昼をみんなで食べようという話が出て、教室で待っていてもらうことになった。

 俺も一之宮先輩にお礼を伝えるだけなのでそんなに時間はかからない。


 ちなみに秋内さんと日間名さん。すぐに早乙女先輩のところに向かっていて俺が戻ってきた時には話をまとめているのだった。


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