第128話 (沢風和也視点)

『みんな、僕は相輝(あいき)って言うんだ、よろしくね』


 爽やかな笑顔でウィンクして魅せる、あいき。


『俺は海輝(かいき)だ。よろしくな』


 日焼けした肌で長髪の似合うかいきは自身に親指を向けている。自分に自信があるって感じ。


『やっとみんなに会えたよ。俺っち彩輝(さいき)だよ。よろしくぅっ!』


 両手を大きく広げで人好きのする笑顔を向ける童顔のさいき。


『大輝(たいき)だ。よろしく』


 目つきが鋭く口数の少ないたいきは、ちょっと怖そうなイケメン。


 そんな4人がカラフルなスケートボードに乗り画面いっぱいに走らせ明るくノリのいい曲を歌っている。

 時には飛び上がった(たぶん念動だと思う)と思えば宙を舞い、横回転や縦回転を披露して会場を大いに沸かせていた。


「けっ! 何がシャイニングボーイズだ。気持ち悪ぃ」


 俺の方が100倍イケてるはずなのに、どいつもこいつも分かってねぇ。


「和也様、よろしくお願いします」


 新年の挨拶に来たマネージャーは見たこともないババァだった。


「おい、デブす……じゃなかった、ババァ! 早く餅を焼いてこい。ババァでもそれくらいはできるだろが、ったくお前は無能か」


「……」


 どうせこいつも東条麗香の駒なのだろう。いいぜ、精々こき使ってやるよ。


 というのも、あの女、婚約破棄した腹いせに芸能事務所に手を回しやがったんだ。


 CM契約は年内で打ち切られ、鬱陶しいほどあった雑誌の取材もすべてキャンセル。おまけに専属モデル契約していた『ミクダース』からもふさわしくないからと一方的に契約解除に。まあ、違約金を払うらしいからありがたく受け取ってやるよ。


 残っている仕事といえば以前に契約していたテレビドラマが1本のみ。新しい仕事はないとさ。


 ふん。僕の価値を分かってないバカどもに頭を下げてまでやりたいわけじゃないからいいんだが、ババァはあたかも僕が悪いというような態度でムカつく。仕事を取ってくるのがマネージャーの仕事だろうに、人のせいにしやがって、この無能ババァが。


 でもまあ施設『ハッスル』だけは僕のことを待っている女どもが強く抗議したのだろう……いや、意外とあの施設のババァかも。だとしたらあのババァはなかなか使えるヤツってことか。

 だから『ハッスル』だけは今まで通り普通に使ってやっている。あの女ども僕のテクにメロメロで、次はいつ来るのか? 明日も来い、とか催促してくるくらいなんだぜ。くくく、東条麗香、ざまぁ。


「ババァ! 焼き上がったらさっさとこっちに持ってこい!」


 ババァはババァでもこっちのババァはほんと使えん。以前のマネージャー(デブす)もそうだったが、その代わりに俺の担当になったこのババァ、絶対60はいってるだろ。早く辞めてくれねぇかな、そして、桃華のような、もっと若くて見た目のいい女を連れて来いっての。


 ただ気に食わねぇのは、あのデブす、元々年内を以って退職することになっていたらしいのだ。僕は一言も聞いてないぞ。


 あんなデブすなど僕には不釣り合いで必要ねぇんだが、この僕に断りを入れることなく辞めた。僕を舐めてるよな。僕は舐められるのが嫌いなのにさ。次、見つけたらタダじゃおかねぇ……


「ちっ、これも最近増えねぇんだよな」


 最近ネットでは僕のことを晒す女どもが増えた。その影響をうけ僕の登録者数は100万を切っていた。昨日アップした動画の再生数も全然伸びてない。


 東条麗香はほんとムカつくぜ。どう小細工してるのかは知らないが、こんなことするのはお前しかいないんだよ。


 ま、僕が干されたところでこの数ヶ月でたっぷりと金は稼いでいる。


 ここまで稼いでいれば別に動画配信にこだわる必要はないが(強がり)、僕のことを多くの女どもに知らしめるためには必要だからな……

 ん、そうだよ、そろそろ自分の会社でも起こしてもいいんじゃないか、いや、手っ取り早く買収の方が楽か。それで僕は社長という肩書きを手に入れる……くくく。僕が社長か、悪くない。

 社長になった僕。女どもは余計にほっとけねぇよな。あはは(男性が社長どころか役職にもつけないことを知らない)……


 とりあえず正月はゆっくりと、餅を食べて、マンガ見て、寝て、お雑煮食べて、ゲームして寝て、出前を頼んで、アニメ見て、寝て。気分が乗ったところでちょっとだけダンス動画をアップ。身体が少し重く感じたが、まあいい。ってか、再生数が伸びない。やっぱり東条麗香か。ほんとムカつくぜ。


「ちっ、またこいつらが出てる。ホントうぜぇな」


 テレビをつければ『シャイニングボーイズ』が生出演していることが多かったので、すぐに消して、なるべくテレビを見ない生活を続けていれば、お見合いパーティーの日となっていた。


 僕にはすでに6人の妻がいるため参加の必要はなかったが、行くに決まってるだろう。

 僕のイケメンっぷりを見せつけて女の10人や20人くらいはお持ち帰りしてやるよ。


「おい、お前、苦しいだろうが、このスーツ、サイズが間違ってるんじゃないのか!」


 妻の代わりに世話役になった保護官に着替えを任せればキツくてスーツのズボンが締まらない。


「いえ、それは沢風様が太られただけかと」


「はあ? この僕が太っただと、バカも休み休み言え。っていうか、何その顔、お前調子に乗んなよ」


 アイツら(辞めた保護官)、スーツのサイズわざと間違えて伝えてやがったな。地味な嫌がらせしやがって。


「……申し訳ございません」


「ちっ、スーツはもういい。私服でいく、何か適当に持ってこい」


「はい」


 無表情のまま私服を取りに向かう保護官の背中を睨みつける。使えねぇヤツ。


 遅い、遅すぎる。


「お待たせしました」


「遅いぞ!」


 しばらくして保護官はダボっとした感じの服を持ってきた。何こいつのセンス。ダメダメじゃん。

 こんな服でお見合いパーティーに行くヤツなんていねぇぞ。


「こんな服着ていけるか!」


「しかし、もうお時間が……」


「ちっ」


 そうだよ。ここで別の服を頼めばさらに時間がかかり、会場入りが遅れる。そうなると僕の女が他の男どもに取られる可能性がある。ま、取り返せる自信はあるが、面倒なんだよな。


 ——あ。


 そういえば、控室に寄るように言われていたが、すでにその待ち合わせの時間は過ぎている。まあ別にいいだろ……急に連絡してきてもムリだっつうの。


「もういい、これで行く」


 何を着ても僕はカッコいいからな。


 急いで着替えを済ませると、保護官の運転で会場に向かう。

 

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